2「出会いは敗北から」
何故、晃人は初対面の少女の話を聞くことになったのか。説明しよう。
三月、春休み。晃人は中学を卒業し、高校入学を控えていた。
ハガーアミューズメントで、ある目標のためにマジックシューターズをプレイしていたが、
「あーあ。やっぱり、ハイウィングを外そうかな……」
負けが続いてしまい、フードスペースでがっくりと肩を落とし、スマホを片手に独りぼやいていた。すると――
「キミの敗因はズバリ! カスタム魔法のハイウィングの、使い方だと思うよ~」
「…………へ?」
――見知らぬ少女が、話しかけてきたのだ。
正面に座られ、笑顔で敗因を指摘をされる。
突然のことに、晃人は唖然としてしまった。
どうやら、少女は晃人の対戦を観戦していたらしい。そのまま対戦内容について語り始めた。
最初は戸惑ってしまったが、聞いてみるとそのアドバイスがとても的確で、納得いくものだった。それに気付いた晃人は、つい最後まで聞いてしまう。
そして……。
「君、マジックシューターズのこと、かなり詳しいみたいだけど」
「うん! すっごく詳しいよ! あ、じゃあどれくらい詳しいか、教えてあげるね! そうだなぁ、まずこのゲームがどんなゲームかってところからなんだけど――」
晃人の一言に、少女のスイッチが入ってしまい――その前からすでに入っていたかもしれないが――止まらないマジックシューターズトークが始まってしまった、というわけである。
「マジックシューターズについて熱弁してくれる、君はいったい……誰?」
「…………うん?」
少女のマシンガントークが一段落したところで、ようやく晃人は聞くことができた。
晃人の問いにきょとんとしていた少女だったが、すぐに理解してくれたのか、ぽん、と手を叩いて答えてくれる。
「あ、わたし? わたしは
「え? あ、うん……そうか。俺は、沖坂晃人」
「ああ~そっか、だからプレイヤーネームが『コート』なんだね。ね、コートくんは何歳? わたし15歳で今度高校に入るんだけど」
「あ、同じだよ。俺も四月から高校生」
「おお、そうなんだ! 同じくらいかなーって、思ったんだよね~」
どうしてアドバイスをしてくれるのか、いったい何者なのか。そういうのをを聞きたかったのだが、普通に名乗られてしまった。
観戦用モニターでプレイヤーネームは見られていたみたいだけど、晃人もちゃんと名乗っておく。
「で、早瀬さん」
「リーナでいいってば」
「りっ……早瀬さん」
「むー……リーナでいいのに」
「えーっと、どうして俺に、アドバイスをしてくれたんだ?」
「どうしてって、それは…………………………あ」
少女――早瀬さんの目が、大きく見開かれる。
「あ……あははははっ。あ、あのね。さっきのバトル観戦してたんだけど、筐体から出てきたキミがここでぐでーってなっちゃったから、心配して近寄ったの。そしたら、スマホを見ながらハイウィング外そうかなって言ってるのが聞こえたから、ついつい声をかけずにいられなくなっちゃったっていうか、その、えっと……ええっとぉ~……。
うぅ……ごめん……ね。急に、敗因とか語り出しちゃって……」
捲し立てるように早口で喋り出したが、最後はしどろもどろになり、まるで怒られた子供のように縮こまる。恥ずかしそうに上目遣いをする早瀬さんだったが――恥ずかしいのは、晃人も同じだった。
「お、おう、そっか。……そうか」
確かに、そんなことをぼやいていた気がする。
まさか聞かれていたなんて……。晃人は赤面し、テーブルに突っ伏した。
どうもバトルに負け過ぎて、だいぶ余裕が無くなっていたらしい。
気を取り直して、顔を上げる。
「……アドバイス、ためになったよ。ありがとう」
早瀬さんの顔がパァっと明るさを取り戻す。
「そう!? よかった~。なんかね、マジックシューターズのことになると、ついつい語っちゃうんだよね。友だちにもよく言われるんだ、話し始めると長いって。どうしても止まらなくなっちゃうんだよねぇ。
あ、でも、こんな風に知らない人相手に話すのは初めてだからね? いつもこんなことしてるわけじゃないからね?」
「ああ……。俺、そんなに落ち込んでた?」
「うん! それはもう。
正直ね、マジックシューターズ辞めちゃうんじゃないかって、心配しちゃって。きっと辞めちゃったら……」
「あはは、さすがに、そこまでは。大丈夫。辞めないよ。
……でも、早瀬さんってマジックシューターズがものすごく好きなんだな」
「え? 確かにものすごーく、世界一大好きだけど?」
「世界一ときたか。俺のこと心配をしてくれたのは、マジックシューターズが好きだからだろ? そうじゃなきゃ、普通そんな心配しないよ」
「あ~。確かに、そうだね。普通はしないよね~。あははっ」
早瀬さんが笑って、晃人も一緒に笑う。
落ち込んではいたが、もう立ち直れている。アドバイスのおかげだ。
それに、こんなことでこのゲームを辞めるつもりはない。
「ねぇ、早瀬さん。一つお願いがあるんだ」
「うん? なにかな?」
「今から俺と、タッグを組んでくれないか?」
突然の誘いに、早瀬さんが驚いた顔になる。
「タッグ? キミ……晃人くんと、わたしで? マジックシューターズの?」
「そう! 一緒に戦ってみてくれないか?」
「うーん……。一応、理由を聞いてもいいかな? どうして急に?」
晃人は視線を逸らしてしまいそうになるのを堪えて、真っ直ぐ早瀬さんの目を見る。
どんなに情けなくて、恥ずかしくても。しっかり話す必要があるからだ。
「どうしても、Sランクに上がりたい。この春休みの間に、Aランクを抜けたいんだ」
マジックシューターズは、ランクで強さが分けられている。
Dランクから始まり、C、B、A、S、SSと上がっていき、一番上は
SSSランクは全プレイヤーでも一握りだと言われていて、Aランクの晃人からしたら雲の上の人たちだった。
春休みの間にSランクに上げることを目標にしていたが、あと少しでランクが上がるというところで連敗し、ランクアップが遠のいてしまった。
結局、自分の実力はその程度。それは痛いほどわかっている。
だけどどうしても、春休み中にランクを上げたかったのだ。
「ランクかぁ。あれ? でもタッグはフリーモードのみだから、ランク上げられないよ?」
早瀬さんの言う通り。ランクを上げるには、専用のモードで対戦する必要がある。ランクモードと呼ばれるもので、予めタッグやチームを組むことはできない。
タッグでゲームをするには、ランクの関係ないフリーモードで対戦しなくてはいけないのだ。
「わかってる! 引っ張り上げてもらいたいんじゃないんだ。ただ、俺の動きとか、魔法のセッティングとか、そういうのを見て欲しいんだよ。そしてできれば、早瀬さんの戦い方も見てみたい」
「そっか、なるほど。バトル中、リアルタイムにアドバイスが欲しいんだね? でも、どうしてわたしなの?」
「それは君が、マジックシューターズに詳しいからだよ。さっきの話だって、本当に納得できたし、素晴らしいアドバイスだった。きっと実戦でもかなり強いんだろうって思ったんだ」
「……そっか。うーん、どうしよっかな。このあと友だちと待ち合わせてるんだよねぇ」
「頼む! 一戦だけでいい! なんならお礼になにか奢るから!」
「え、ほんと?! わたしここのクレープ好きなんだけど」
「わかった、終わったら必ずクレープを奢る!」
「やったっ。ふふ、クレープ、クレープ…………あ。こ、こほん」
早瀬さんは何故か急に頬を赤くし、小さく咳払いをする。
「しょ、しょうがないな~。晃人くんの熱意に負けたよ。そこまで言うのなら仕方ない! ……うん、わたしは決して甘い物の誘惑に負けたんじゃなくて、晃人くんのために! 一肌脱ごうと、そう思って引き受けるんだからね?」
「あー……うん。わかった、早瀬さんは甘い物に釣られたんじゃない」
「そうだよ~? それに……勝手にアドバイスした手前もあるし、ね。あはは」
「早瀬さん……。いや」
晃人は立ち上がり、頭を下げる。
「助かります。よろしくお願いします! 早瀬先生!」
「おぉ? 先生? ふふふっ、よーっし、わたしに任せなさーい!」
早瀬さんも立ち上がって、胸を張ってそう答えた。
「あ、やっぱり待って! 晃人くん、わたしのことはリーナって呼んで。それがタッグを組む条件ね!」
「むぐっ……。そうきたか。わかったよ。でも、なんでリーナなの?」
「理流那って呼びにくいでしょ? だからみんなわたしのこと、リーナって呼ぶの。わたしもそれが気に入ってるから。そう呼んでくれると嬉しいな」
「なるほど。……わかりました、リーナ先生」
「うん! えへへ、いいなぁ先生。リーナ先生かぁ……」
早瀬さん……リーナは嬉しそうに、筐体へと歩き出す。
晃人はそのあとを追いながら、これから行うゲームに想いを馳せていた。
高校入学までにSランクになるという目標は、完全に壁にぶち当たっていた。
もしかしたらこの出会いが、その突破口になるかもしれない――。
「そうそう、先に言っておくね」
リーナがくるっと振り返る。
「わたしのランク。Cランクだから」
「………………え?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます