極大魔法戦争マジックシューターズVR

告井 凪

第1話「最強の魔法使い」

1「ゲーマー少女は語る」


 魔石拠点を制圧し、自軍の儀式塔に敵を寄せ付けなかった彼女は、勝利目前、塔の前で余裕の笑みを浮かべていた。


 その姿は、戦場を駆ける戦乙女。仲間を勝利へと導く、戦いの女神。


 しかし彼女が携えているのは、剣ではなく魔道書だった。

 青いローブを身に纏い、右腕に嵌めたリングが魔力の光を放つ。



 魔法使い。マジックシューターズ、最強の魔法使いがそこにいた。



 儀式塔に集まった膨大な魔力が弾け、轟音と共に極大魔法が放たれる。

 勝利の瞬間、少年は魔法使いに声をかけた。



「リーナ、お願いがあるんだ」



 魔法使い、リーナと呼ばれた少女と目が合う。



「俺と一緒に、魔法使いの頂点を目指してくれないか?」




                  *




「『極大魔法戦争マジックシューターズ』という対戦ゲームはね? 最新のVRシステムと、モーションキャプチャー技術を駆使して作られた、アミューズメントゲームなんだよ。開発はハガ―ゲームズ! このハガーアミューズメントを経営してる会社だね。稼働してもうすぐ一年だよ」


「ああ、うん。そうだな」


「アミューズメント施設――いわゆるゲームセンターって、縮小傾向にあったの。ゲーム機もどんどん小型化していったよね。そんな中、大きな筐体を必要とするこのゲームは、ハガーゲームズとしても賭けだったみたい」


「へぇ……そうだったんだ。知らなかった」


「結果は見ての通り。マジックシューターズは大ヒット、ハガーアミューズメントは次々と店舗を増やしていった!」


「ここは前からあるけど、新しい店舗かなり増えたな」


「それもこれも、マジックシューターズのおかげなの! 素晴らしいよね~」



 先ほどから熱弁を振るっている少女。

 正面に座った少年、沖坂おきさか晃人こうとは、時折相槌を打ちながら話を聞いていた。


 場所は、話に出たハガーアミューズメント。

 極大魔法戦争マジックシューターズというゲームが設置されている、アミューズメント施設。中央一番奥には、観戦用の巨大モニターと、筐体がずらりと並んでいる。

 二人はモニターの手前、フードスペースのテーブルに座っていた。


 少女の服装は、水色のブラウスに薄手の白いカーディガン、ピンク色の可愛らしいミニスカート。身長は座っているためわかりにくいが、晃人よりだいぶ低そうだ。


 長い髪を頭の右側で結った、いわゆるサイドポニー。青いリボンで纏めている。前髪に付けた星の形をしたヘアピンはちょっと子供っぽいが、少女の可愛らしくて明るい性格になら、よく似合っていると思う。


 そしてなにより印象的なのが、笑顔だ。

 キラキラと輝かせた大きな瞳に、はっきりUの字に見えるくらいつり上がった口元。

 楽しいという気持ちが洪水のように溢れ出した笑顔で、マジックシューターズについて熱く語っている。


 晃人は意を決し、



「あのさ、君がマジックシューターズに詳しいことは、よくわかった。で、君はいったい――」

「なに言ってるの! これからだよ! まだぜんぜん詳しく話せてないんだから!」



 ……質問を挟もうとしたのだが、ピシャリと遮られてしまう。

 これは最後まで聞くしかないなと、諦める。



「いい? マジックシューターズがどんなゲームか簡単に説明すると、魔法の撃ち合いをする対戦ゲーム、ってなるよね。

 レッドリウム王国とブルーガイム王国。二つの国が戦争していて、プレイヤーは対戦毎にどちらかの国に属して戦うの」


「毎回どっちになるかわからないし、単なる色分けだよな」


「もう、だめだよ。こういうのは雰囲気が大事なんだから。

 ……でも、うん。色分けっていうか、チーム分けだよね。青チームと赤チーム。四人でチームを組んで対戦するんだよ。

 もちろん、それだけなら今までだって似たゲームはあったと思う。だけどそれを単純な撃ち合いだけで決まらないゲームにしたのは――はい! なんだと思う?」


「えっ? あぁ、儀式塔の――」


「そう! 儀式塔の極大魔法ルール!」



 タイミングよく、マジックシューターズの観戦用巨大モニターに、儀式塔から放たれる極大魔法が映し出された。



「プレイヤーは、フィールドに設置された儀式塔に魔力を注ぎ込む! 最大限まで溜め込むと、極大魔法発動! 強力な破壊力で敵を一掃!

 この戦争は、極大魔法の撃ち合いなんだよ。お互いが儀式塔を建てて先に撃てた方が、戦場の勝者になる。個人の魔法戦闘の結果より、敵陣に一撃で大ダメージを与えられる極大魔法の成否が重要ってことだね」


「……ミサイルの撃ち合いみたいなもんだよな」


「もちろんゲームのルールでも、極大魔法を撃てた方の勝ち。単純な撃ち合いだけで勝負は決まらないんだよ。そこが大ヒットした理由の一つだね~」



 少女の言う通りだった。

 撃ち合いの結果も大事だが、より早く儀式塔に魔力を溜めるのも重要になってくる。

 逆に言えば、撃ち合いに弱くても、上手く魔力を注入することができれば、勝つことができるのだ。

 このルールは、普段対戦ゲームに自信の無い層にも、間口を広げた。

 ただし。



「でも、それだけじゃ勝てない」


「う~ん、そうだね。ちゃんと儀式塔に魔力を注ぐのはもちろんだけど、相手の妨害もしないといけないし、逆に妨害しに来た敵を迎え撃たないとだからね。拠点も取らなきゃだから、ある程度敵を倒すのは必要だよ~。やられても復帰できるし、積極的に戦わないとね」


「……うん」


「でもね、なにより重要なのは、役割分担。それができるかどうかと、自分の仕事をしっかりできるかどうかが、勝敗を分けるよ~」



 対戦に慣れている層には、むしろそのバランスの良さが好まれていた。

 つまり、どんな層でも楽しめるゲームデザイン。それが、このゲームが流行っている一番の理由だと思う。



「そうだな、俺もそう思うよ。

 ……ところでさ。一つ質問がしたいんだけど、いいかな?」


「うん? なになに? なんでも聞いて? マジックシューターズのことならなんでも答えるよ!」


「いや、そうじゃないんだが……」



 そんな風に目をキラキラされたら、非常に切り出しにくいが、いい加減、聞かなければならないだろう。



「マジックシューターズについて熱弁してくれる、君はいったい……誰?」


「…………うん?」



 晃人はまだ、目の前の少女の名前すら知らない。


 何故なら晃人と少女は、ついさっき出会ったばかりなのだから。

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