第13話 1940年にケビン誕生
新聞では毎日、ヨーロッパにおける戦争状態突入のニュースが一面を覆っていました。 エイドリアンじいさんとクリスティーナには大きな心配事でしたが、あまりまだ実感がありませんでした。徴兵制度にかかる歳でもありませんし、重症の骨折記録が残っているエイドリアンじいさんには、免除されることをクリスティーナは知っていました。むしろ、戦争という何が起こるかわからない巨大な恐怖に慄いていたと言うべきでしょう。クリスティーナは順調に胎児が育っていることを、仕事をしていたマウント・プロスペクト・ホスピタルで週一回確認できました。元同僚の医師や看護婦ですから安心です。近くにも産婦人科を持つ病院がありましたが、エイドリアンじいさんと知り合った場所で生みたかったのです。それに、勝手知ったる自分の庭の様な所ですから。
12月に入ってクリスティーナは医師の勧めで出産入院しました。陣痛が来てからでもいいのですが、病院が安心だろうからといって、特別に入院させてくれたのでした。すると、すぐに出産がはじまり、男の子が生まれました。エイドリアンじいさんは調教中でしたが事務所に連絡が入り急いで病院にいくと、もうすでに生まれていました。二人はケビンと名付けました。
その数日後、大きなニュースが飛び込んできました。日本が真珠湾を攻撃したのです。アメリカは国内で南北戦争という内乱的な戦争はありましたが、独立戦争の際にイギリスと戦った時以外、外国から直接攻撃されたのはこれが初めてでした。ヨーロッパ戦線に加え太平洋戦線が始まったのです。政府は国民に日本の闇討ち的卑劣な攻撃を非難し、反日本感情を煽る一方で、日常生活での贅沢を自粛するように求めました。アーリントン・パークもレースを減らし、我慢の時代を迎えました。
しかし、ケビンはそんなことはお構いなしで、両親に対し体力的には最大級の消耗を求めるものの、精神的には至福の時間を与える子でした。歩き出す頃には、やんちゃな子で両親を困らせました。歩き出すととたんに与えた玩具のバットでボールは勿論のこと、ありとあらゆるものをたたいて回りました。泥の中で寝転んだり、食べ物を投げたり、それはもう大変な子供でした。エイドリアンじいさんの愛犬スモール・マックも徐々にケビンを避ける様になりました。
親父ケビンの話に続く
ジョン・マクドナルド Story1ーエイドリアンじいさんの話 苺原 永 @maiharahisashi
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