第3話 『話し合いは?』

「私のせいで喧嘩けんかしないでください!」


 メルアが子供のような声を張って、ちゃぶ台を叩く。

 だけど、小さな手の平はぺちんっとしか音を出さない。

 覚悟を決めたのか、メルアの瞳が少しだけ見えた。

 多分、彼女的にはパッチリと目を見開いているつもりみたい。


「わかりました。魔王という名が許されないのでしたら、私を罰してください。その代わり――姉妹たちは助けてください。お願いします!」

「貴っ様あぁー!! このクサレ外道があぁー!! 拙者が命を懸けてメルア殿を守り抜くわ!!」

「早く始末するのよ! そして一家全員を滅ぼすのよ! そうしないと第二、第三の魔王がこの世界を恐怖で埋め尽くすわ! 根絶やし! 根絶やし! 根絶やしよー!!」


 なんかすごだな……。

 ひざまずき、神に祈っている可愛いハムスター系魔王。

 その魔王の信者へと成り代わった、重騎士で元パーティーの筋肉ゴリラ。

 人格が豹変ひょうへんしたヒステリックヒーラー。


「とにかく、落ち着いて話そうよ。ねぇ、みんな……」


 くそー、俺一人でこの処理は無理だぞ。

 ファスキンは、ファスキンはどこだ?

 あっ、すみの方で金髪ボンキュッボンのステファニーに怒突どつかれてる。

 あそこはあそこで何があったんだ……。

 バックは……今頃虫捕まえてるし。

 なんだこのパーティー、もう解散したい。


「もし……そこの勇者の方」

「んっ、君は確か――?」


 物静かに話し掛けてきたのは、眼鏡めがねを掛けた三つ編み女子だ。

 片手には、本を抱えている。

 今日は学校が休みなのに、ジャージ姿だ。

 紺色こんいろで、左右の肩から腕のそでまで二本のボーダーが入っている。

 胸には、白い布地で『三年一組さんねんいちくみ』と書いてある。

 明らかにダサい。それは学校用ジャージだね。 

 ところで、この子名前なんだっけ?

 頭を掻いてごまかしていると、眼鏡の真ん中をクイッと押しながら話かけてきた。


三女さんじょです。以後お見知りおきを」

「三女ってことは、メルアさんの――」

「姉上とステ姉の次です」


 えーっと。

 長女がメルアで、次女がステファニーのことかな、それでこの子が三女か~。

 ふむふむと縦に動く俺の頭とは別に、三女はさっさと立ち去っていく。

 いやいやいやいや、ちょっと待ってよ三女さん!


「三女さん! 何か話があったんじゃないの?」


 振り返った三女は、またもズレた眼鏡を直す。

 掛け心地が悪いのか、何度も眼鏡の真ん中をクイッ、クイッ、と人差し指で押している。

 さっきから気にはなっていたけど、その仕草。

 人差し指一本だけで行っている。でも、無駄に親指も突き出ているよ。

 この人――人差し指を出すと、同時に親指もついてくるタイプらしい。

 少々風変わりしてますな、などと推測すいそくしていると、三女は思い出したように話し始める。


「ついつい、熟慮じゅくりょしておりました。私の意見としては、この場を治めるには適切な会合かいごうがよろしいかと存じます」

「俺もそう思っていたんですけど、止めようがなくて」

「そうですか。では、私がこの場を仕切らせていただきます」


 三女は飼い犬を呼ぶかのように、指サイズの笛をポケットから取り出して吹いた。

 二秒でステファニーが駆け付けた。

 ステファニーの露出度ろしゅつどの高い服は、返り血を浴びていた。


「どうした? 次はコイツをやればいいのか?」

「違います、ステ姉。会合を開きたいので準備をお願いします」

「んー。要するに、あそこで騒いでいる奴らを連れて来たらいいんだな」

「そうです。家の中で待っています」

「よっしゃ。すぐ行くから待っとけ」


 ステファニーは風の如き速さで駆け抜けていった。

 遠目に見ていて驚いた。

 一撃でエルダーがのされ、ナーチャもすぐに首根っこを掴まれて連れて来られている。

 めちゃくちゃ強つえぇーー!!

 あの人だけでパーティいちころじゃないか。

 てか、あの人が魔王でいいんじゃない?


「先に行ってますよ」

「わかりました。俺は向こうで倒れている魔法使いを連れてから行きます!」


 最初の被害者、ファスキンは真っ赤になって地面に転がっていた。

 俺は何度も顔を引っ叩く。

 ファスキンの意識が戻った。


「あれ? お花畑は? 川は? 今から泳ごうと思ったのに~」

「ファスキン、忘れろ。全部悪い夢だから、な」

「ま、いっか。それよりステファニーちゃん~!」

「待て! ファスキン、それは待て!」


 それが原因なんだよ。

 そこを覚えていないんだね。


 なんとか主要メンバーがちゃぶ台に集まった。(小さい子供とバックは除く)

 左側に、メルア、ステファニー、エルダー。

 右側に、俺、ファスキン、ナーチャ。

 中央に、裁判官ポジションとして三女。

 手には小槌こづちを持っている。形から入るタイプらしい。

 エルダーは完全に仲間ではなくなったらしい。

 相手側で、しかも鬼の形相ぎょうそうで、こちらを睨み付けているからだ。


 ドン、ドン、ドン!!

 三女がちゃぶ台を小槌で叩いた。


「それでは、魔王裁判まおうさいばんを始めます」


 一同当たり前のように頭を下げるので、俺もとりあえず頭を下げた。

 よくわからない展開へと幕を開ける。

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