【五】友情
私は春平に連絡を取ってみた。くどく次の行動を京子に尋ねたら、流石に骨折れて、彼女はまず春平に連絡を取ってみたらと言って回答を終えた。
彼女には負担をかけた。文字だけだから本心は分からないが、流石に迷惑であっただろうと思う。当然ありがとうの言葉は外せなかった。それだけでは足りないので、次の機会にお返しをしようと決め、言われた通りの行動をした。
十一時を経過して、私は彼の返答を受け取った。
「夜分にどうしたんだ?」
春平は同じ質問を二度繰り返した。おそらく寝ている最中に起こしてしまったのだろうと思った私は、今更明日にすればよかったと後悔した。私は寝ていたのなら起こしてしまいすいませんと送った。
「いや、いま風呂から上がったところだ。返信遅れてすまん」
春平は機械が不調でな、たまに二度送ってしまうんだと付け加えた。私の単なる思い違いであったらしい。そうなら気にしまいと、なにを話そうか考えた。
すぐに実行しなければと言って話しかけたのに、材料がないのは笑えない話である。
「夏器が同じバイト先に入ったらしいな。どうだ、使えそうか?」
「いや、それはまだわからないかな」
「そりゃそうか。まぁでも、あいつは器用だからな。流石に最初のうちは多々失敗があるだろうが、一ヶ月もすればコツをつかむはずだから面倒を見てやってくれ」
春平はぺこりといったような顔文字を送ってきた。私は了解ですと答え、話題をいくつか考えついた。
春平と私はそこから一時間にかけて交信した。具体的には、彼がサッカー部であり一年から即スタメン候補に選ばれたこと。また彼の母親は外国人であり、そのために一部外国の文化や英語などが身についていること。さらには、彼の方から「今度どこかに遊びに行かないか」と誘ってきて、私は「泊まりじゃなければいいよ」とそれに乗ったことである。
そしてそこから、詳しい日程や集合場所などについて話し合った。
「――よっしゃ、それじゃあ明後日の午前十時、駅前に集合な」
その春平の最後の発言から、私は彼の笑顔を想像してしまった。
ええ、了解。と、おやすみの意を込めたそれを送ったとき、私はきっと笑顔になったはずだ。
寝る前はドキドキしていた。彼に対する恋愛感情ではないことは分かっていたが、その理由は分からなかった。一日がハードすぎて疲れを通り越し、なお働こうと唸っているのか。画面の見過ぎと考え込む癖で頭が冴えているのか。それとも彼との会話が単純に楽しすぎただけなのか。どれにしても、明日休みの私にとっては、そこまで迷惑なことでもなかった。
私は春平のことを考えていた。彼と話しているととても楽しい。それは彼が純粋な男であり、獣のような目をしていないからである。
夏器は、春平が私のことを好きであると教えてくれた。だが、もしかしたらそれは違うのかもしれないと私は思えてきた。いや、好きなことには違いなく友達として好きなのではないかと私は予想した。
これは女の勘であるが、春平は身長が高い割にはガキっぽいところがあって、恋愛というものを対して知らないのではないかと私は思う。前に恋にも生きる主人公のようだと彼を評価したことがあったが、それは大違いで、実際は主人公の理想的な性格の持ち主で、良いやつなら誰とでも付き合うタイプなのかも知れない。そうでなければ、あの学校での人気ぶりは説明がつかなかった。
春平は自分から学級委員になった。それは自分で自覚しないうちにも周りを引っ張っていく主人公的な才能をもっているからであって、彼自身はそんな役造作もないことなのかもしれない。
私はそのようなことを考えていたら、気づかぬうちに朝になって目を覚ましていた。色々と考えていたはずなのに、頭は妙にすっきりしていた。
この次の朝も、夜春平のことを考えていたらいつのまにかである。私は連続のことで気になりもしたが、準備をして駅前に急いだ。
「やっときましたね」
「零無。十五分も遅いぞ」
赤青に目立つ髪の兄弟が、小走りする私のもとに近寄ってきた。
「ごめんなさい。二人以外にももしかして誰か人をまたせた?」
私は息を絶え絶えにして訊いた。
「いいえ」
「俺と夏器、それと零無の三人であそびにいくんだ。――まずかったかな?」
「まったく」
私は後半音を上げて答えた。二人きりだと関係を深めてしまうし、逆に多すぎても疲れると声には出さないがそう考えていた。
すると春平が、電車が来てしまうと私の手を引っ張ってきた。
「兄さん。そういうのは二人きりの時にしなよ」夏器はむすっとした顔で目を尖らせた。
「ん? 何が?」と春平は鼻声で返した。
そこで夏器が唖然としているかのように私には見えた。
対する私は、そう驚くことなく声を出して楽しげに笑った。
Changes Dimension @dannzyou
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