第17話 矛盾

 数日後、正式な報告書のプロト版ができあがり、皇帝庁で行われる会議に向け準備を進めていた。まずは、西国、南国の両連邦長にこの報告書を持参して、今回の事件の真相と武力行使の正統性を説明しなければならない。そして、我々が行う武力行使に対する皇帝の許可を得るための支援を得なくてはならない。

 会議後、西国、南国の両連邦長と会食軒会を設け、そこで、東国の不穏な情勢に関する報告をすることとなった。

「今日はシタビラメのムニエルですか美味しそうですねぇ〜」

「白身魚には白ワインが合うだろう」

と西国、南国の両連邦長。

「このような席で大変恐縮なのですが・・・・」と私。

「しょうがないがないだろ。ナーシは俗物だからなぁ」とワーベ先生。

「ではこらをご覧ください」

といって、私は、報告書を2人に見せた。

「知らないうちに、こんなモノを作っていたんですね〜。それにしても、耐久試験も自国でないで他の国に押しつけるとは・・・。ついでに『注意喚起』もしていないのでしょ」と西国連邦長のバリュー先生はあきれ顔。

「まぁ〜、俗物だからな」とワーベ先生。

「で、どのようにしたいのですか。」とバリュー先生。

「実は、私どもの諜報員の調査によると、最近の極北からの北国への攻撃はどうやらナーシ連邦長が糸を引いているのではないかということが疑惑が出てきました。北極に東国の諜報員をおいて、北国に攻撃をするようけしかけているようです。ナーシ連邦長の意図は詳しくは分かりませんが、『新形戦車』の耐久実験やら、実践における情報収集などなど理由はいくつも考えられます。」

「となると、間接的にではありますが、東国から北国への攻撃ということになりますので・・・」

「っということは・・・」とバリュー先生。

私は続けた「東国からの攻撃の証拠がとれた時点で、ナーシ連邦長の身柄を確保して処罰したいと考えています」

「しかし、ナーシもそうなったら抵抗するだろうなぁ」とワーベ南国連邦長。

「はい、ですから武力衝突も持さない覚悟です」と答えた。

硬い表情でバリュー先生は続けた。

「そうですか・・・。仕方ないのかもしれませんね。ただし、損害は最小限にしてください。特に、極北とは今後外交をして行くこととなるかもしれません。従って、極北が巻き込まれないように注意をしてください。」

「かしこまりました。」

「では、皇帝への根回しは私たちで行いましょう」

両連邦長は皇帝への説得を約束してくれた。

 今回の戦の課題としては、「いかにして被害を出さないか」という通常とはまったく間逆のことを考えなくてはならない。今回の標的ははっきりいってナーシ東国連邦長1人。ただ、彼を守るために東国の兵士が武器を使って我々と闘うのである。しかし、兵士も武器も帝国のモノである。東国の武力に甚大な被害を与えてしまっては、帝国の防衛の弱体化にもつながりかねない。

 また、ナーシが裏で操っているであろう「極北」これも問題だ。はっきり言ってナーシの被害者である。極北とは今後、外交をしていくこととなるかもしれない。外交関係を持たないにしても近隣に武力衝突の原因を持つことは帝国そして北国の治安という意味でも得策ではない。この相矛盾する課題を抱えながらの闘いになる。

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