第1話 転校(4)

「さて、守護神道の説明の続きをするかの!」

 校長はまるで取り繕うかのように話の先を急いだ。

「君達、封魔師の下には、悪魔祓いや厄払い、除霊などを行える『祓魔師』というのがおる。人数にして全国に三百人ほどおるな。その他には占星術が専門の『陰陽師』、土地の浄化を目的としている『祈祷師』がおる。その中で最も多く存在するのが『苦鎖』じゃ。いわゆる密偵じゃな。各地に潜み、情報を報告し、有事の際は特殊戦闘員ともなる人間じゃ。全国に千人はおるじゃろう。こういったピラミッド型の組織でこの国を魔の脅威から守っているのが『守護神道』なんじゃ。そして大事なのは……、我々は皆、国の血税で養われておるという点じゃ! だからこそ長老会の命令は絶対であり、公僕として身を捧げねばならんのじゃ! よいか、ホムラ君。我々もそちのためなら便宜をいくらでも図ってやるぞ。何でも言うてこい。調査のために授業へ参加できずとも一切構わぬ。その代わり、成果だけは確実にあげるんじゃぞ!」

 そう言って校長は言葉を切った。俺は返事をする代わりに力強く頷いて見せた。校長は満足そうに笑った。

「君が調査するべき相手、『高谷城ミオ』という麗しの乙女じゃがな、彼女の父親は封魔師十六人衆の一人であったが、先日失踪した……。今回ホムラ君がミオちゃんを調査するという事は、長老会が正式に失踪したと判断したのであろうて。残念じゃのう……」

 俺は思わず身を乗り出した。

―― 封魔師の失踪。

 それは俺にとって他人事ではない。なぜなら、俺の父も失踪していたからである。先代の赤根炎蔵が失踪したのは今からちょうど一年前。一年間で封魔師が二人も失踪している。これは事件じゃないのか。

 そんな俺の心中を察してか、校長は首を左右に振って言った。

「ホムラ君。君の気持ちはわかる。じゃがな、そこは長老会に任せておきたまえ。それに君の任務は別にあるであろう?」

 その通りだ。

 俺が動いてどうにかなる問題ではない。俺はただ『高谷城ミオ』の調査をするだけでいい。そして早くその調査を終えて、元の生活に戻る事を考えよう。資料を見る限り、長老会の『高谷城ミオ』に対する期待は非常に高い。それなら話は早い。少し能力を確認して力量が認められれば適正有りとして報告すれば良いのだ。そう割り切ろうと思って深く息をついた。

 校長の話はこれで全てだった。俺は校長に対し感謝の意を込めて深く一礼した。校長は部屋の外で待っている担任を呼び、俺を教室まで連れて行くよう指示した。俺が校長室を出ようとすると、校長は最後に一言付け加えた。

「ワシはな、ミオちゃんのファンなんじゃ!」

 まったく無駄な情報である。俺は校長に苦笑いを残して、足を早めた。

「一人の女子高生が、封魔師として生きるか、普通の女の子として生きるかの分岐点に立っておる。くれぐれも安易な報告はしないでやってくれ……」

 最後に頼む、と言った気がした。

 校長室の重いドアが閉まる音で全部は聞き取れなかったが、校長の気持ちは伝わった。担任が行こうかと先に歩く後ろ姿を見ながら、俺は自分の役割の重さに深い吐息をついたのであった。

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封魔師ミオに関する報告書 @ramoramo

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