第1話 転校(3)
その後、暫く雑談が続いた。しかし、挨拶だけならもう終わっても良い頃合である。しかし、校長はまだ何か用があるのか一向に俺を解放する気配を見せない。
そう思っていると、校長が急に改まった様子で尋ねてきた。
「ところでホムラ君、君は『守護神道』を知っているかね?」
唐突だった。
俺は封魔師である。守護神道の事は知っているつもりだが、そう改まって聞かれると答えに窮した。
「は、はい……」
「ふむ。自信のない返事じゃな。どうせ水葉はまともに教えてくれなんだろう。ワシから少し説明するかのぅ。『守護神道』について……」
校長の指摘は的確で、水葉から説明なんて何もなかった。水葉の性格を理解して、俺のために守護神道とは何か、封魔師とは何かを説明をしてくれようとする校長に、少し親近感を覚えた。
守護神道について言えば、俺だって全く無知じゃない。言葉は神道と似ているが、神道と異なり神事には関わらない。むしろその神事を守るための組織だ。長老会、封魔師、祓魔師(ほうまし)、苦鎖(クサ)で構成された組織の名称。それが守護神道なのだ。ちなみにこの天照学院高校は守護神道の構成員を育成するための学校で、ここの学生のほとんどが将来は苦鎖か祓魔師を目指していくと思われる。まぁ、俺が知っているのはその程度の基礎知識だ。
「まず『守護神道』とは何か。大雑把じゃが説明してやろう。知っている事もあるかもしらんが、まぁ、聞いておれ……」
「はい」
校長の言葉に素直に従い、拝聴する姿勢を取った。
「守護神道とは、一言で言えば日本を妖魔から守る組織を指しておる。国外から、魔界から、裏組織からと我が国に対する脅威は数え切れぬほどある。それらの脅威を排除するために守護神道は存在しておる」
一息、校長は茶を啜る。
「我々の守護神道とはある高貴なお方を頂点に擁き、その下に『長老会』という八人の幹部が支え、さらにその下におぬしら『封魔師』と呼ばれる十六人の守護者がおる。ホムラ君。君は土地付きであろう?」
「は、はい……」
土地付きとは、指定された家に住み、その家の裏手にある結界を守るよう指示された封魔師を指す。
「土地付きは全部で四名。通称『四柱家』と呼ばれる者達じゃ。お主ら四柱家が守る結界は、我らが守る守護神ヤマタノオロチへの第一歩じゃ。そこを崩されれば我らの組織そのものが危うくなる。それほど大事な役割を担っている。それだけに長老会も常に監視の目を置いている。その他十二名の封魔師は旅回りじゃ。全国津々浦々を周り、その土地、その土地の魔や鬼を封印したり、倒したりするのが仕事じゃ」
それは知っている。
さすがに水葉もこの点は俺に説明してくれていたからだ。
ただ、ヤマタノオロチについては我々封魔師程度では何も教えてもらえない。超国家機密といわれている。幾度となく国難を救った伝説の龍。魔や各国の裏組織などはその龍の真偽を探るべく動いているという。この龍を守るための結界を俺は守っているのである。
ここで校長は突如、神妙な顔をすると俺に聞いてきた。
「それほど大事な役割を担う土地付きのホムラ君が、わざわざ土地を離れ、この学校へ転校してきた。これはどういう事じゃ? もしかして自宅の結界を放棄しろと命じられたか?」
校長は俺が家を離れて転校してきた事に違和感を感じていたらしい。しかもその言い方は何か事情を知っているような口調であった。
俺は慌てて否定した。
「い、いえ、違います。長老会から人を派遣して、代理で俺の土地を守ってくれるそうです……」
そう言うと校長は安堵した様子を浮かべた。
「それなら良かった。今回の件は実に不可解じゃからのう……。予想外の事態が起きたのかと危惧したわ……」
「えっ? 今回の件というのは……。僕が調査する女の子の件ですか?」
「あぁ、いや、聞き流してくれい。老人の独り言じゃ……」
校長は慌てて否定したが、俺の心に何か嫌な不安感が残った。俺の今回の仕事は単なる調査で終わらない気がしてきた。
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