第1話 転校(1)
翌日。
私立天照学院高校の校門前に俺は立っていた。
校舎を囲う塀は、外からの視界を完全にシャットアウトするべくそびえ立っている。三メートルはあるだろうか。塀の上には有刺鉄線が撒かれて、監視カメラまで備えていた。
嫌な雰囲気だ。
ここは刑務所か。
短い間とはいえ、この学校に通うのは気が滅入る。
校門は駅の改札のような通行ゲートになっている。出入り証なるカードを認証システム部分へかざす必要があった。そうしなければゲートが開かない仕組みになっている。駅と同じである。俺は昨日届いた封筒の中から出入り証を取り出し、認証システムへと掲げた。すると、ピッという電子音と共に入場ゲートが開いた。恐らくこれが出欠代わりになるのであろう。ここで認証された情報を元に、生徒が登校した時間、帰宅した時間を記録しているのであろう。
ゲートを抜けると、一人の男性が俺を認めるなり声をかけてきた。
「あぁ、君、赤根君?」
俺は軽く頷く。
すると、彼は自分が担任だと告げ、校長室に案内すると言った。担任はやたらと太ったスーツの似合わない、汗っかきの中年男性であった。
担任の男に従って校内を進むと、正面に校舎が堂々と建っている。中央上部に『天』という文字がデカデカと刻み込まれたその校舎は、全面ガラス張りだった。
奇抜すぎて度肝を抜かれる。
このガラス張りの校舎は、開放感を与えるために造られたデザインだと信じたいが、どうしても地上から女子生徒のパンチラを狙っているとしか思えない。現に見上げれば見える。
校舎は五階建てくらいだろう。担任は屋上にヘリの離着陸ができるヘリポートがある、と言って胸を張った。俺は担任のギャグかと思ったが、丁度その時、ヘリが近づいて来たのを見て事実だと知った。どうやらヘリで通学する生徒もいるらしい。
中庭には噴水があり、水の出方が様々に変化していく。担任は夜になるとイルミネーションが綺麗なんだよ、と教えてくれた。感心はするものの、その必要性を大いに疑った。
グラウンドは広大で、スプリンクラーが水を撒いていたが、それまで様々な形状に変化し、生徒を楽しませようと苦心している。無駄なところに労力と金をかけるものだと思った。
「どうだい、ウチの学校は凄いだろ? 他の学校とは全然違うだろう? まだまだたくさん見せたいところがあるんだけどね。後日クラスメイト達に案内してもらうといい。ちなみにね、校長室は地下にあるんだ。凄いだろ? しかも校長室は核シェルターになっているんだよ! アハハハ!」
俺は呆れて何も言えなかった。
ここの学校の設計者は想像を絶するバカだ。
大体、核シェルターで守るべきは校長の命じゃなく、生徒の命じゃないのか。それを自慢げに語る担任も担任で、どうかしている。
唖然としている俺を、担任はどうだ、驚いただろう、という表情を浮かべてニヤニヤ笑っている。
―― さっさと校長室へいざなえ!
心の中で思いっきり毒づいた。
校長室へ続く道は歩く歩道になっていた。乗るだけで勝手に進むのである。これも校長の足腰を考慮しての事だという。俺は終始苦笑いをしているのが精一杯だった。
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