第3話
とりあえず西山を部屋に入れて、ドアの鍵を閉めた。西山は部屋の中をひとしきりウロウロした後、ドカッと僕のベッドに座った。
「相変わらず汚い部屋だな」
お前もそんなに変わらないだろう、と心の中で突っ込みながらも、今はそんなことを言う余裕も無かった。とにかくこいつには聞かなければならないことがある。
「……西山、お前は今日普通なのか」
「ああ、流石に気が付いてたか」
西山は僕の質問を想定していたかのような反応だった。少し人を見下したような顔で、西山は淡々と語り始めたのである。
「お前は思っている通り時間が巻き戻った状態に今、いる。そんでもってお前自身がそれを打開する方法はないし、何をやったところでお前は今日という一日を永遠ループするはめになる。本来ならばここで永遠の時間を絶えることなく過ごすことになるんだが……そこに俺が現れたんだな。俺なら、お前を助けることができる」
まさかとは思っていたが、本当に西山が僕の救世主になるっていうのか。なんと頼もしくない限りなのだろう。これほどに困っている人間にとって頼れない救世主がいただろうか。いてたまるか。
とにかく僕は藁にも縋る思いで、むしろ藁以上に頼りのない感じがするけれど、これまでの体験を一字一句違わず西山に説明した。目を瞑って「すべて理解してます」みたいな腹の立つ顔で聞いていた西山は、僕が話し終わるとゆっくり立ち上がり、来た時に背負ってきていたリュックサックに手を突っ込んでがさごぞと何かを探し始めた。そうして取り出したのは、何かのパスのような、西山の顔写真が印刷された何かしらの身分証明書と眼鏡のようなものだった。
「……なんだ、それ」
「ああ、これ。ほらよく見ろって」
西山の差し出してきたその身分証明書には、『時間運行管理局危機管理対策室管理員』という肩書があった。なんだこれ。こんな痛々しいものを自分で作るほどイっちまったのか。
「おいおい、そんな中二病を見るような哀れな目で見るなって。これは俺の未来での身分だよ。今はこの時間軸に年齢を合わせて存在してるからな。そんでもってこれ、かけてみろ」
「眼鏡……だよな」
どこからどうみても眼鏡。ただの眼鏡。全体をメタリックシルバーで彩られた、よく見る眼鏡。それを恐る恐るかけてみる。
「!! ……な、なんだこれ」
かけた瞬間、僕の視界に広がったのは見慣れたはずの部屋が歪みに歪みまくっている光景だった。所々に亀裂のようなものや、ぽっかり空いた穴のような空間もあった。僕の反応に西山はケラケラと笑い始めた。
「それがお前の部屋に現れた時間の歪みだ。その眼鏡は時間の流れを可視化できるっていう代物。見えるだろ、歪んだり割れたり穴が開いたりしているっていう、異常事態がハッキリと。それを今から直していくってわけ」
「な、直すって、どうやって……」
「時間が歪んだことには必ず理由がある。それを直せるのは上級以上の管理員か、その空間の主人だけだ。この場合、お前は後者だからお前しか直せる人間はいないってこと。異常をきたしている部分に触れて、お前自身で原因を除去する。そうやって直していくんだ。なあ、おかしいところは何か所ある」
「さ、三か所」
「よし、早速やるか。触ってみろ、どれでもいいから」
何を言っているのか、さっぱりわからなかった。なんとか頭の中で整理すると、どうやらこの時間異常には原因があり、それをどうにかできるのは僕以外にいないということらしい。無茶苦茶で滅茶苦茶な話すぎる。
だがしかし、僕はこの後、この無茶苦茶で滅茶苦茶な事態を嫌でも理解することになる。そして、どうしてこうなったのかを、嫌でも納得することになる。
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