主従関係?
「え、ちょ、なにこれ? どうなってんだ。カッコいいドラゴンどこ行った!? なんですっぽんぽんのロリが出てくるんだ。というか、なんというつるぺたつるつる…………」
この娘に角が生えてて雷帝が消えた光の中から出てきた状況を考えればこのロリが雷帝って事になるのか? 儂とか言ってたのに女の子なの? ロリババアとか言うやつですか。ぺったんこの先の桜色と縦筋が……犯罪臭。
「貴様、名をなんと申す? ――というか何故顔を逸らす。儂がこの姿を人間に晒したのは初めての事なのだぞ。もっと畏敬の念をもってしかと目にせぬか」
顔を逸らす俺に歩み寄り強制的に自分の方を向かせようと俺の首へ手を伸ばしてぴょんぴょんと飛び跳ねているが全く届いていない。俺にロリの裸を凝視しろというのかこのロリは…………。
「俺は如月航、だけど……お前なぜ何も着ていない」
「面倒であろう。これが楽でいいのだ。この姿をとる事も滅多にない事だしな……そう言えば、人間の雄は
「ちょっとワタル、こんなつるつるぺったんのちんちくりんに発情しているの!? こんなのフィオよりもない上にフィオよりも小さいのよ!? フィオまでなら、フィオまでなら私も許してあげるけどこんなちんちくりんは駄目よ。こんなちんちくりんにまで手を出すようになったら人として色々終わりよ! 大体ワタルは胸は大きい方が好きでしょ!」
ティナが腕に抱き付きロリから引き離しにかかる。ティナよ、フィオが傷付いているぞ。自分の胸をぺたぺたと確認した後ティナの胸を見て落ち込んだのかしゃがみ込んで地面にのの字を書いている。なんだこれ……さっきまで生きるか死ぬかって戦いをしてたはずなんだけど、なんかいつもの空気というか…………。
「なるほど、ワタルか。儂はクルシェーニャ・スクーニャ・スペリオルだ。ワタルよ、約束通りお前を主として共に在る事を誓おう。主よ、これからよろしく頼む」
『はぃぃぃいいいいいい!?』
俺とティナの叫び声が洞窟内に響き渡り反響して聞こえる。このロリなんて言った? 主? 共に在る事を誓う? 何がどうなってそうなった? 意味が分からない。こんな状態で帰ったら色々言われそう。
「いやいやいやいや、ちょっと待て――えっと、クルシェー……なんだっけ?」
「クルシェーニャ・スクーニャ・スペリオルだ。主よ」
なっがいよ! いきなりそんな長い名前覚えられるか。ていうか主ってなんだ? 俺はただ乗せてくれって頼んだだけだったよな!? なんでそれが主だとかいう話になってるんだ。
「クルシェ――だー、もう長いからクーニャな。なんで俺が主って話になっているんだ?」
「なんだクーニャとは! 他人の名前を勝手に略すな、どこまで無礼な男なのだこの主は」
「そこはいいだろ。いいじゃないかクーニャ。見た目と相まって可愛いと思うんだが」
「ちょっとワタル! やっぱりそういう目で見ていたのね。なんで可愛い子とみたらそうホイホイ手を出すの! これは駄目よ、ドラゴンよ!? 異種族なのよ!?」
そういうお前もエルフで異種族なんだけどな。頭に血が上って気付いていないのか? 異世界人にエルフに獣人、異種族なんて今更である。そもそも手を出してないっての。くりくりした瞳とぴょんぴょんと飛び跳ねる仕草がちょっと可愛いなって思っただけだ、万年発情期みたいに言うな。
「主よ、この娘はさっきからキャンキャン喧しいぞ。付き合う相手は選ぶべきだぞ」
「なんですって――」
「どうどう……だから主ってなんなんだ? というか本当にお前が雷帝でいいのか?」
「そうよ、さっきから主、主ってなんなのよ。ワタルは私たちのなのよ!」
「戦う前に言ったであろう。力ずくで従わせてみせろと。儂が負けるなど思いもせなんだが、約束は約束だ。負けたからにはお前を主としてお前が命尽きる時まで従属しよう。儂を好きに使うがよい――と言っても今は上手く飛べそうにない。暫し待つがよい。それと儂が雷帝で合っておる、神龍とは人の姿をとることも出来るのだ」
すぐに飛ぶのは無理か。意識が朦朧とするって言ってたもんなぁ。頭に何発も撃ち込んだし、それでも鱗に罅すら入ってなかったけど……どんな硬度だよ。途中で墜落されても困るからこのまま一度町に帰るか。神龍ねぇ、確かに龍には変身能力が有ったりするけど、流石雷帝、高位の存在って事か。それの主……なんかいいかも?
「分かった。なら一度町に戻ろう」
「主よ、上手く歩けぬ。主のせいだ。悪いが責任をもって運んでくれ」
「あ~、はいはい。その前にこれ着てくれ。そのままで町に帰ったら色々面倒だ」
自分の上着を脱いでクーニャに着せて背負い、ブーブー文句を言うティナの背を押して神殿を後にした。
「ワタル…………」
「旦那様…………」
「如月、あんた…………」
「航……それはマズいんじゃ…………」
「うわー、やるねぇ。流石ロリコン」
なにこれ!? 生死を賭けた戦闘を終えて希望を得て帰ったっていうのに紅月も優夜も瑞原もゴミを見るような目で見てくる。ナハトとミシャに至っては今にも泣き出しそうな涙目だ。勿論感動の涙なんかではない。心底悲しんでいるといった風だ。
「ちょっと待て! これは誘拐してきたとかじゃないぞ。これが紅月が聞いてきた雷帝なんだよ――ってなんだその目は! 嘘じゃないぞ、嘘みたいな話だがマジなんだ。クーニャは変身能力があるんだ! これ見ろ角生えてるだろ」
背負ったクーニャをみんなの前に出して角を見るように言うが未だ半信半疑といった様子――というよりこりゃ信じてないな。もうロリコンでもいいけど誘拐しそうな奴とか思われてんのは嫌だぞ。半分くらいはロリコンをネタにした冗談なんだと思いたい。
「主よ、そのクーニャというのはやめぬか。こそばゆくて背中が痒くなる」
『主ぃぃぃいいいいいい!?』
あ、これ余計に面倒になるパターンだ。
「ワタル、主とはなんだ!? それとはどういう関係だ! ただでさえ共有で独り占め出来ない状態だというのにこれ以上女が増えるのは許さんぞ。これ以上分け合っていては一緒に過ごせる時間が更に減るじゃないか。その上今回は私たちを置いて行くし、重婚は許す。許すからせめて平等に扱ってくれ、フィオとティナと一緒の時間が多過ぎる気がするぞ」
「旦那様、やはり小さい方が良いのじゃな……妾は寂しいのじゃ。妾も平等ならと納得しておったが何も言わず置いて行かれるのは嫌なのじゃ」
そんな悲しそうな表情するなよ。黙って行ったのは悪かったが俺なにもしてない。むしろ脱出の手段を手に入れてきたのにこの扱いはなんだ!? 面倒な相手との浮気がバレたみたいになってるじゃないか。
「ちょっとこの娘、よく見たら服はどうしたの!? これ如月の服よね? 如月、あんたこの娘に何したの?」
紅月は俺を睨み付け掌の上で炎を揺らめかせている。完全に俺が何かしたって事になっている。紅月の言葉で一気にナハト達が俺を見る目が変わった。完全に犯罪者を見る目だ。
「だから何もしてないって! クーニャはドラゴンだから最初から何も着てなかったんだ。別に俺が剥いだわけじゃない――というか俺がロリコンでも女の子の服を剥いだりするわけないだろうが! よく考えろ」
『…………』
なんでだんまりだ!? 一緒に居たんだからフィオとティナが何か言ってくれればいいだろうに、二人も不機嫌そうに黙り込んだままだ。
「クーニャ、そろそろ飛べるか? もう平気ならドラゴンの姿を見せてくれないか? このままだと俺が変質者で犯罪者になってしまう」
「よく分からぬが、主の知り合いは騒がしい連中が多いな。それに皆の視線、一様に主に対して良い感情を感じぬぞ。炎を揺蕩させている娘など今にも噛み付きそうな顔をしておったぞ」
「クーニャと何かあったと思われてるからな。小さい娘とそういう事になったらこういう扱いを受けるんだ」
「? …………おぉ、なるほど! この者らは儂と主が
めちゃくちゃ大爆笑……笑い事じゃないんですが…………見つけるのも困難って事はクーニャと同じ種族はかなり数が少ないか残っていない? まぁあんな巨獣が居たら噂になって居所なんてすぐに掴めそうだしな。というか番もいいとか言うから視線がより痛いものになったぞ!
「ふぅ、大いに笑ったぞ。主よ、番の話、考えておくがいい。儂に勝った主なら申し分ない、儂と同じく雷を扱えるというのも悪くない。儂も子孫を残す気が無いわけではないからな。では外に出よう、このように小さき空間で変化すれば簡単に破壊してしまう」
「おう。見てろよ! 目ん玉飛び出るほどビビらせてやるからな」
クーニャがドラゴンだという事を信じていない連中にビシッと指差して啖呵を切った。
「きゃああああああああああああああああああああああっ、ドラゴンが、ドラゴンが襲ってきたわ」
「ペルフィディに加えてドラゴンまで、もう俺たちは終わりなんだ」
町の外で顕現したクーニャに驚いた難民たちが驚き逃げ惑い大騒ぎになってしまった。ナハト達もドラゴンの姿をとったクーニャを見上げて固まって言葉を失っている。ふっふっふ、クーニャの大きさに相当驚いたようだ。さっきの扱いもこの顔を見られたら溜飲が下がるというものだ。
『うむ、調子も戻った。主よ、いつでも飛べるぞ』
「よし、ならすぐに頼む。クロイツ、中央の大陸の中心まで飛んでくれ。紅月達はこの騒ぎどうにかしといてくれ」
「ちょ、如月! 待ちなさい――」
『主よ、しっかりとしがみ付いておらぬと振り落としてしまうから気を付けろ』
クーニャの背中に飛び乗り鱗の隙間へどうにかしがみ付くが、これは鞍とか作らないと危なそうだな。
「あんたそんな状態で飛ばれたら絶対に落ちるわよ。難民の人たちに簡易的な物だけど鞍を作ってもらってるからそれを使いなさい。ここまで大きいとは思ってなかったからサイズが合わないとは思うけど」
紅月が難民たちを落ち着かせて鞍を運んできてくれた。サイズは合わないがこれならどうにか掴まっていられそうだ。こんなものを用意していてくれたって事は紅月は俺たちが雷帝の協力を得られると信じていてくれたって事か。言葉はきついけどこういう良いとこもあるんだよな。この世界の人間の事は嫌いだったはずなのにクロイツの魔物掃討でも尽力してたし。
「ありがと紅月、行ってくる」
「私も行く」
『断る。儂は主以外を乗せる気はない』
フィオの言葉をクーニャが即座に切って捨てた。人間を乗せる事には乗り気じゃなかったからな。と言っても結城さんを連れてくるという目的上それでは困る。
「いや、それだと困る。人を迎えに行くんだから帰りはもう一人乗せてくれ」
『む、むぅ……主以外も乗せるのか…………主の命とあれば仕方ない。だがしかし、ただでさえ人間を乗せるという事に抵抗があるというに、主以外までとは……さっさと乗れ小娘』
「なら私たちも――」
「鞍の大きさからして定員オーバーだ。帰りは結城さんを連れてくるんだから、行ってくれクーニャ」
『承知』
力強い羽ばたきと共にクーニャが大空へ向けて飛び立った。これは、キツい。気を抜いたら本当に振り落とされる。これ握力もつか? 吹き飛ばされないようにしがみ付くのがやっとで空の旅を楽しむどころではない。風が吹き付けて身体がもっていかれそうだ。
「クーニャ、もうちょっとどうにかならないか?」
『急ぐのであろう? 半日ほど我慢せよ』
半日…………この暴風、半日ももたない気がする。景色は瞬く間に流れ行く、正面に見えていた雲が既に後方の彼方に流れている。これだけ速ければ確かに半日で着くのかもしれないが――。
「ワタル、疲れたら放してもいい」
「放したら死ぬだろ!? ――っていつの間に…………」
フィオは自分の身体と俺の身体をロープで縛ってくれていた。その上で俺の手を握って満足気にしている。気が利くというかなんというか、本当に世話になりっぱなしな気がする。
「本当に半日で着いた…………。下が大騒ぎになってるな。如月ですー! こいつは敵じゃありませーん!」
突然上空に巨大なドラゴンが現れたら大騒ぎにもなるか。駐屯地からは少し離れた位置を指示したが下に隊が展開して射撃体勢をとっている。撃たれたところでクーニャには効かないが覚醒者も居るはずだから面倒は回避しないと。
「敵じゃありません! 至急の用で協力してもらってるんです。害意はありません!」
クーニャの両足が大地に着いた時には囲まれてしまったが俺の姿を確認出来た事で銃は降ろされている。
「如月、お前もうなんでもありだな。このドラゴン本当に安全なのか? つーか髪どうしたんだ? ストレス白髪か?」
『触れるな小僧。儂は主以外に触れられる事も乗られる事も好まぬ』
俺が乗っている事から危険は無いと見たのか、クーニャに触れようとした遠藤が翼を広げて風を起こし威嚇され吹き飛ばされた。そのせいでまた銃を向けられる羽目になった。
「あぁ、大丈夫です何もしませんから、クーニャ戻れ人の姿になれ」
「あれこれと指示の多い事だな主よ。これで良いのか?」
『っ!?』
俺たちを取り囲んでいた自衛隊が唖然として固まった。巨大なドラゴンが小柄な女の子になればそりゃ固まるよな。意味分かんないもの。何故あの巨体がこんなロリになるのか…………。
「なんすかなんすか! 如月さんそのロリっ子どうしたんですか! フィオちゃんが居るのに更にロリ追加とか羨ましい!」
西野さん……面倒な人に見られたものだ。一々説明なんかしてられない、無視して用件だけを済ませよう。
「それより、結城さんは居ますか? もしかしてまだアドラに行ったっきりだったりします?」
「? 結城なら丁度戻って来てますけど――」
「ありがとうございます。行くぞふたりとも――ぐえぇ!?」
「歩くの面倒だ。背負え、主よ」
人の姿で過ごす事があまりなかったのか面倒がってクーニャが俺の背に飛び付き首にしがみ付いて来た。ここまで運んでもらって帰りも頼むのだ。今くらい俺が背負うのもいいかもしれない。
駐屯地に駆け込み結城さんを捜し回る。ペルフィディの方は優夜の氷壁で防いでいるだろうが早く戻るに越した事はない。急いで見つけなくては、結城さん結城さん……どこに居るんだ。
「ワタル、居た!」
「結城さん! よかった。悪いんですけどすぐに一緒に来てください」
「は? いや、自分は職務中で――」
「東の大陸に人間を変質させる奇病が蔓延して船が不足して逃げられずにいる難民が大勢居るんです。結城さんの能力じゃないと救えない、日本人だって居るんです」
「っ! すぐに陸将に上申してきます。少し待っていてください」
「お待たせしました。陸将の許可は頂きました。こちらへの陣の設置も完了しています。ところで、どうやって移動するのですか?」
「あぁ、それは――クーニャ頼む」
「なっ!? これは一体? あんな少女が巨大なドラゴンに!?」
ドラゴンへと姿を変えたクーニャを見上げて結城さんの目が点になっている。驚き過ぎて開いた口が塞がらない状態だ。俺自身はこの変身には既に慣れてしまった。この世界に来て色々経験したせいかもしれない。
『人間、主の頼みだから乗せるのだぞ。特例だ。そうある事だとは思わぬことだ』
「頼むぞクーニャ、特急だ。結城さん風圧凄いですから気を付けてください」
声を低くして威嚇するような様子だが結城さんが背中に乗ってもそれ以上は何も言わなかった。俺の指示って事で我慢してくれているんだろうか? この移動だけのつもりだったのに主として共に在るとか言ったり、義理堅いやつだよな。良い関係を築いていけるといいが。
『行くぞ!』
「ぬわぁあああああああああああああああっ!?」
自衛隊でヘリとかに乗り慣れてそうだが生身剥き出しの状態で空を飛ぶなんて初体験かもしれない結城さんの叫び声と共にデューストへ向け飛び立った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます