呼ばれた理由は
「す、凄い大荷物になっちゃいましたね…………」
「調べてたら色々不安になっちゃいましたからね……」
軽~く調べてたら空気汚染とか水質汚染なんかが出て来て、人よりそっちが怖くなった。そんなに長く居る事にはならないだろうと、滞在期間の食料と水は持参する事にした。それを登山する人が使うような大きいリュックいっぱいに詰めた物、それが四人分……結果、一体どこの辺境に行くんだ? というような大荷物になってしまった。
「そんな事より本当にあれに乗るの? あんな物が空を飛ぶなんて不安で仕方ないのだけど……それに剣も預けないといけないって言うし、何かあった時に能力を使って対処できないじゃない」
「そうは言っても決まりですから――」
「何とかしなさいよ、呼ばれたからわざわざ行くのよ?」
「年長者が駄々こねない! さっさと行ってさっさと戻るぞ。本当は日本を離れるのは不安なんだから」
「……やっぱり嫌よ! もし落ちたりしたらどうするのよ? 剣がなきゃ逃げられないじゃない、剣を持っているのくらいならいいでしょう? ワタルだって逃げる方法がないんでしょ? なら尚更必要じゃない!」
ティナの背中を押して搭乗口へ進もうとしたら、そんな事を言い出した。止めてくれよ…………俺だって飛行機なんて乗った事ないからそんな事言われたら不安になるわ!
「だ、大丈夫だって……たぶん…………」
「たぶんってなによ!?」
「いいから、さっさと進めって」
「如月さん、進むのはいいですけどそっちじゃないですよ」
…………滅茶苦茶恥ずかしいんですけど、ギャーギャーやってたからこっち見てた人も多いし、声押し殺して笑ってる人も結構居る。
どうにか乗るには乗ったけど…………。
「絶対に放しちゃ嫌よ? 絶対よ? うぅ、落ち着かない、落ち着かないわ」
「分かったって…………」
フィオと座席争いして隣に座っているティナが両手で俺の手をがっちり握っている。微妙に震えてもいるし本当に怖いんだろう。俺はこういう乗り物があると知識があるだけ不安も軽減されてるんだろうけど、ティナやフィオにとっては全く未知の乗り物になるわけだしなぁ……その割にはフィオは平気そうで、座席が不満だと通路を隔てた隣の席から睨んでくる。エコノミーだったら三座席ずつだったりするって惧瀞さんが言ってたが、送られてきたチケットがそうじゃなかったんだから仕方ない。
「睨むなよ……ティナは震えてるんだし、しょうがないだろ? フィオは平気なんだから――」
「ふ、震えてないわよ」
いや、手ぇ握ってるから直に分かってバレてます。
「…………寝る」
「あぁ、そうしろ。到着まで四時間くらいらしいし、する事なくて暇だしな」
不貞寝って感じか、って――早っ!? もう寝息が聞こえ始めた。
「疲れたわ…………帰りも乗らないといけないなんて最悪ね」
フィオは到着まで殆ど寝てて、ティナはずっと震えっぱなしだったから、そりゃ疲れもするだろう。手を握って隣で震えてるもんだから俺も寝るってわけにはいかなくて結構疲れた、ティナは精神的にもなんだろうけど。
「まぁもう着いたんだし、さっさと話を聞きに行って帰るぞ。理解出来ない言葉が飛び交ってるのを聞いてるのは頭が痛くなる…………そういえばフィオ達は理解出来てたりするのか?」
「周りの人間の喋ってる言葉の事?」
「そうそう」
「分からない」
「私もね、言葉が違うなんて面倒な世界ねぇ」
分からないのかよ……もしかしたら異世界人には全部通じたりするのかと思ってたんだけどダメらしい。
「如月さん、荷物はどうでした?」
「あぁ~、見事にすり替わってました」
「それって…………」
「不安が当たって今回の訪中は最悪、って事ですね」
荷物受け取りに行ったらリュックはそのままだったが、剣が似せて作った別の物になっていた。俺のだけじゃなくフィオのナイフもティナの剣も同様だった。この前の散歩の時に盗まれそうになってから、日本を出る許可をもらうまでの間に旅館に泥棒が入ったりと、異世界製の物に関して不安があったから、持ってくるのは急ごしらえのレプリカって対策はしてたけど……まさかなぁ、と思ってた事が起こってしまった。
「簡素だったレプリカが更に劣化したなぁ。ミスリル玉は自衛隊に預けて、持ってこなくて正解だった」
代わりにくず鉄で作ってもらったやつを持ってきてはいるから何かあったとしても、一応レールガンを撃てはする。
「本当にすり替わったのが本物じゃなくてよかったわ。偽物を持ってろなんて不安だったのだけれど警戒していて良かったわね」
「お二人とも、そんな普通にレプリカとか偽物とか言わないでくださいよ。すり替えた犯人が近くに居るかもしれないんですよ?」
惧瀞さんがそう言って周りを見回してるけど、どうせ俺たちは今異世界製の物なんて持ってない。剣は別の航空会社の便で結城さんと遠藤が遅れて持ってきてくれるという事になっている。でも、魔物が~ってのが怪しくなってきたから無くてもいいかもなぁ…………能力も戻ってるし、そもそも本当に魔物の処理を必要としてるならすり替わったりしないよな?
「長いですね」
「ですねぇ」
空港に迎えの人が来て、そのまま連れられて移動した先で話を聞く事になるんだと思ってたら食事会、その後フィオとティナに話があるとか言われて二人を別室に移動させてから一時間くらいだろうか? そもそも別々になる事に二人が渋ったから更に時間が掛かってる、どうせこの国に来いとかそういう話だろうけど、事情が知りたいから一応聞いといてくれと説得して行かせたの、マズったかなぁ。
「結城一曹たちそろそろ着くそうですよ」
「へぇ…………」
剣必要ない気がしてるからどうでもいい。寧ろ持ってきちゃいけない気さえしてる、帰りは大使館から連絡してもらって政府専用機で機内にそのまま持って乗れるようにしてくれるらしいけど、不安だ。何事もなく帰りたい。
「やっぱり異世界の存在って注目されてるんですね……人にしろ、物にしろ」
「当り前じゃないですか、別の世界が存在してるなんて大事件ですよ? 注目しない方がおかしいです。如月さんはいまいち自覚が足りてないです」
うん……そうなんだろうけど、ファンクラブ作ったりした人に言われたくねぇ。
「それにしても、本場の中華料理美味しかったですねぇ~」
「そう、ですね…………」
思い出したくなかった。味は美味しかった、美味しかったんだけど……正直料理に使われた食材や水の事が気になって仕方なかった。水は安全な物なのか、食材の栽培、育成なんかはどうなのか、なんて考えてたら食欲なんて湧かなかった。気にし過ぎなんだろうか? 惧瀞さんは汚染云々の事を一緒に調べたりしてたんだけどなぁ。外務省のホームページには『ミネラルウォーターの使用を原則とし』なんて言葉があってかなりビビってたのに。
歓迎されて豪勢な料理が出てきたけど、たぶんフィオとティナへのアピールで俺と惧瀞さんはおまけみたいなもんだったんだろうし…………それでも振舞われた物に箸を付けないのも無礼なので食べはしたけど。
「長いなぁ」
「ですねぇ」
二人してソファに凭れて天井をぼや~っと見上げる。
「天井も綺麗ですねぇ~」
確かに、こういった伝統建築みたいなのは好きだけど、どうしてもこの国に対するマイナスのイメージが強いから落ち着かない、だから早く帰りたいところ。空気もヤバかったし……青い空が見たい。
「おかえり、長かったな」
「はぁ~、本当に長かったわ――って、どうして惧瀞がワタルに凭れて寝ているのかしら?」
待ち時間が長すぎてぼや~っとしてる間にいつの間にかこうなってた。この人これでいいんだろうか? あっ――。
「はう!?」
ティナが惧瀞さんを押し遣って反対側に倒して間に入ってきた。
「なにやってんだ……」
「あれぇ? ティナ様たち戻られたんですね」
「ええ、今し方」
惧瀞さんを一瞥した後引っ付いてくるし……反対側にはフィオが居るし。
「それで、あっちの人は? 魔物についての話を聞いて確認したら帰りたいのに」
「その魔物についての情報をまとめるから、少し休んでいてください、だそうよ」
なんじゃそりゃ? 呼んだんだからもう準備してあるべきじゃないのか?
「お話はどうだったんですか?」
「知らない」
「知らない、って……今まで話ししてたんだろう?」
「ワタルが聞き流していいって言った」
言ったね……つまんない内容なら聞き流していいから行ってきてくれ、とは言ったけど――。
「何も覚えてないとか?」
「ん」
ん、じゃないだろ……結構な長時間だったよ? 全く覚えてないのか?
「ティナは?」
「この国に来い、って内容だったわね。日本なんかより素晴らしい国だからこっちで暮らす方が私たちの為になる、研究機関も整ってるからヴァーンシアに帰る方法を探す手助けも出来る、とも言ってたわ」
やっぱりそういう感じの内容か…………大国が接触してきてるなぁ、どこの国も異世界に興味を持ってるって事か……次はロシア辺りですか? めんどくせぇ、魔物居ないなら帰るぞ?
「っと、そういえば返事は?」
「ワタルが居ない所になんか行かないって」
「私も同じね」
ふむ、なら今は俺をどうにかする作戦会議中? 日本人嫌われてそうだから俺は要らない、って感じだろうな。魔物が居る可能性ってのも、とりあえず呼びつける為の虚偽の情報だったのかもな。そもそも残りの魔物は僅かかもう居ない可能性だってあるんだし、今後は気を付けないと、無駄に移動したくないし国同士の思惑に振り回されたくない。
「良かったぁ、お二人が他の国に行ってしまったら寂しいですし」
いや、そういう問題じゃないだろ! 立場的にそれでいいのか惧瀞さん……。
「そうね……惧瀞が居るのにも慣れてきちゃったから居ないと困るかもしれないわね。まぁ、一部の人間にしか言葉が通じない土地になんて居辛いし興味も無いのだけど」
「本当ですか!? 嬉しいですぅ」
嬉しいのか……今の発言は『便利だから』みたいな感じに聞こえたんだけど、それでいいのか? いいんだろうなぁ……本当に嬉しそうにしている。ファンって凄いな…………。
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