終息は?

「なぁ、どうやったら美人にモテるんだ?」

「さぁ?」

 現状俺がモテてるとは思えない。フィオとティナが特殊なだけだと思う。

「てめぇ、俺が頭下げて聞いてんのにその態度か! ――っぅ、ごめんなさい」

 胸倉を掴まれたところで背中にしがみ付いてたフィオが遠藤の手を叩いて殺気を放ち始めた。一応面会謝絶になってるわけだから一般人の中学生たちは帰して、現在館脇さん達と雑談中。

「とりあえず、その乱暴な態度を改めない限りは女性には見向きもされないでしょうね」

「マジっすか姫様…………」

「何をくだらん事を言っとるんだお前は……そんな事より如月さん、今からでも取り消した方が――」

「おやっさんこそ何言ってるんですかっ、くれるっつってるんですから貰やぁいいじゃないですか! それにこの義手とかカッコいいですよ……おっ! こっちのとかもどうですか? ほんもんの腕みたいに動いてるし指も結構動いてますよ?」

 スマホで開いた義手のサイトを館脇さんに見せている。そういえば、本人の好みもあるし、採寸とかも必要だろうから勝手に買って贈り付けるわけにもいかないんだよな。どうにか納得して受け取ってもらいたい。

「お前それの金額見えてるか? 五百万を超えてるぞ」

「いいじゃないっすか。二十億も入るんだから……あの時援護射撃してやった事に感謝して俺にも少し謝礼をはら――いってー! 何すんですか!?」

「調子に乗るな、大体それが仕事だろうが! それに如月さんの方が年上だぞ、敬語を使わんか、敬語を」

「は? いやいやいやいや、どうみてもガキでしょ、たぶん高校三年くらい――」

 俺の情報なんてとっくに出回ってると思ってたけど、年齢なんて簡単なものが知られてないとは……でも館脇さんは知ってるみたいだし、この人が特殊なだけか?

「いや、二十四です」

「な!? 三つも上ぇ!? この面でか!?」

「お前資料やニュースを見とらんだろう…………」

 ん~、確かに高校生くらいから大して顔が変わってるとは思わないけど、それは毎日見てるせいとかだと思ってたんだけど……周りから見て童顔なのか?

「二十四……そんなに下だったのね。人間の歳って分かり辛いわね」

 エルフの方が分かり辛いだろ、見た目じゃ絶対に分かんない。

「そういえばティナは?」

「百十八よ」

 …………うん、分かってた。ナハトの幼馴染なんだから百超えてる事くらい分かってた……見えねぇ、百超えてる様になんて見えねぇ。エルフ反則だろ、一つ二つ上のお姉さんって言われても違和感ないぞ。

「ひゃ、百十八ぃ!? ば、ババアじゃねぇか――がふっ!?」

 遠藤がティナに殴られ吹っ飛び、壁に当たって床に這いつくばっている。

「エルフにとってはこの程度は若輩なのよ! 決して年寄りなんかじゃないわ! 無礼な人間ね、まったく…………ワタルは歳の差を気にする?」

 そんな泣きそうな目で見られましても、今更百超えてますって言われても、あぁそうなんだ、くらいにしか思えない。

「いや、別に――」

「嬉しい! なら受け入れてくれるのね!」

「いや、そうは言って――ぶっ」

 抱き付かれてティナの胸に顔が埋まった。凶器だ、理性がガリガリ削られていってます。んん? なんか前の時より柔らかい……寝る時の薄着の時もこんな感じな気が――下着つけてない!?

「くそぉ、ババアでもあの巨乳は少しうらやま――ぐはっ!? ~っ!?」

 素早く俺から離れて、立ち上がった遠藤に金的…………あ~あ、結城さん以外にも被害者が……股間を押さえて悶絶しながら床を転げまわっている。でもまぁ自業自得だろう、女性にババアは駄目だろう。

「学習せんやつだなぁ、長寿の種族なんだ。俺たちの常識で考えるのはおかしいだろう、姫様は美しい御姿なのだし」

「あら、そっちの人間は賢いわね。流石ワタルを助けてくれただけはあるわ、私からもお礼を言うわ。ワタルを救ってくれて本当にありがとう、大切な人を失わずに済んだわ。心からの感謝と……そうだ、これを受け取って」

 自分の剣の鍔の部分に付いている紋章の描かれた装飾を取り外して館脇さんに手渡した。

「これは?」

「うちの国の紋章よ。一応それもミスリルで出来てるから、こっちでは凄い価値になるのでしょう? ……それじゃ足りないわね…………ワタル、ミスリル玉をいくつか貸してくれない? 向こうに帰ったら倍以上にして返してあげるから」

 なんかギャンブルする為に金を借りる人が言いそうなセリフだな……まぁティナは違うけど。

「ああ――」

「ちょ、ちょっと待ってください。こんな高価な物受け取れませんよ、俺は自分の仕事をしただけで――」

「仕事をしたならそれに見合う報酬が必要でしょう? それに私にとってワタルは何かに変えられるものじゃないもの、それだけじゃ足りないくらいなんだから、それとその身体じゃ働くのが難しくなるでしょう? その分生活に必要な物を与えないと」

「い、いえ、一応国から賞恤金というのを貰っていますので、そういった心配の必要は――」

「それはこの国からのものでしょう? 私個人からの感謝を形にしたいのよ」

 この後一時間くらい押し問答が続いて、館脇さんが折れて紋章だけ受け取るという事になった。因みに、ティナに便乗して俺も義手の話を持ち出して了承してもらった。俺もティナも感謝を伝えたかっただけだが、額が額なので帰る頃には館脇さんが恐縮しきっていたのが申し訳なかった。




「やっと戻ってきた~」

 戻ってきたと言っても泊まっていた旅館にだが、目が覚めてから五日目になってようやく退院、何度も同じ検査や採血をされて流石にうんざりだった。回復の度合いの確認の検査じゃなく、異常な回復だったからその原因を探る為の検査とサンプル採取だった、これで医学が進歩すれば救われる人が大勢いるとか言われたら断れなかった。今回の事件では怪我人も結構出たって話だったし…………。

 部屋から出してもらえないのも結構不満だったし……自分で引き籠るのはいいけど強制されるとなんか違って落ち着かない。出歩けないからオークションの後処理なんかは惧瀞さんに頼んで入金確認と発送、義手購入の手配なんかもやってもらった。入札価格はあれからも上がっていて、最終的には二十一億になっていた。こっちに長居するつもりが無いのとこんな大金を持っているのが落ち着かなかったのもあって、一億だけ残して残りは被害を受けた町の復興に使ってもらうように言って寄付とした。俺が撃ったレールガンで壊れた建物もあったみたいだし、これはこれで丁度良かった。


「フィオ~、いい加減離れて――はくれないよな…………」

 館脇さんに頭を下げた時とトイレ以外は常にくっ付いている。離れろと言おうものなら、うるうる視線攻撃だ。大分落ち着いてきたと思うんだけど、その目をすれば俺が諦めると学習したらしい。厄介極まりない、約束を破った負い目もあって強くは言えないし…………これって甘いんだろうか? 元々の原因は俺だしなぁ。

「そうだ、気分転換にちょっと外を出歩くか?」

「行くいく~! 異世界に来たのに戦うか閉じこもってるかのどちらかばかりなんだもの、たまには息抜きも必要よ。フィオも行きましょう?」

「…………」

 渋ってる感じ、ティナも言った通り大して出歩くこともなかったから、たまにはいいかと思ったんだけど…………追悼式に出られなかったから本当は事件現場に献花に行こうと思ってたけど、調べてみたら現場への献花はあまり良くないというのと片付けの問題なんかもあってよろしくないようだった。慰霊碑が作られる事にもなってるらしいから献花はそれが出来てからって事にした。

「ここ飯は美味いけど、グミとかの駄菓子とか出ないし買いに行ってみないか?」

「…………ん」

「あ~、あと外を歩く時はくっ付くのは勘弁してくれ、手を繋ぐとかで許して」

 うわ~、不満そう……というか俺もこの状態に慣れ過ぎだな。出歩く時、じゃなくて普段も止めさせた方がいいだろうに。


「暑いですねぇ、歩かなくても車でよかったんじゃないですか?」

 気分転換を兼ねてるから歩きで散歩がてら適当な店に、と思ってたけど――。

「暑い」

「暑いわ」

「暑いな……というか、よくこんな暑い中で手なんて繋ごうと思うな」

「ワタルが言った」

 いや、手を繋ぐのは俺が言ったけど、別に繋がなくてもいいんだぞ? フィオが放せばティナも放すだろうし――。

「あら? いい匂いね。あれは何かしら?」

「たこ焼きか……食べたくなってきた。あれ食おう」


 普通に買って食べるはずだったのに…………。

「タダでもらえて良かったわね」

 いや微妙、四人だというのに八個入りを十パックも貰ってしまった。代わりに屋台の前で店主と写メを撮る事になったが、写真くらい今更だけど、ちゃっかりしている。さっきの写メを使ってSNSで宣伝してる…………まぁ、いいか。このたこ焼き結構美味しいし。

「不思議な食感ね、外はカリッと中はトロッとしててこの具は弾力があって、どんな物を使ってるのかしら?」

「あぁ、中の具はあれの足――」

『ぶーっ!』

「ぎゃぁぁぁあああああーっ! 熱い、熱い!」

 店の看板のタコの絵を指差したら、熱くてドロドロなのをフィオとティナに顔射された。

「わ、ワタル! あれってクラーケンじゃないの!? こっちの世界にはクラーケンを食べる文化があるの!? 異常よ! あんな怪物を食べるなんて!」

 ティナの言葉にフィオがコクコクと頷いてる。俺への謝罪は無しか……?

「異世界にはクラーケンが居るんですねぇ、他にも空想上の生き物が居るんでしょか? 私も行ってみたいですねぇ~」

 惧瀞さんはそんな事を言いながら暢気にたこ焼きを突いている。

「あれはタコであってクラーケンとは違――」

「名前が違おうと気持ち悪い生き物である事には変わりないじゃない! ワタルは平気なの!?」

「いや、俺も見た目は苦手だからたこ焼き以外ではタコは食わんけども…………たこ焼きなら大丈夫じゃないか? 包まれてるから中が見えないだろ? 一つは食べて飲み込んだじゃないか、身体に害は無いし口に入れちゃえば美味いんだからいいだろ。どうしてもダメなら残していいし。ほれ、フィオは吹いて食べてないだろ、一つ食ってみ」

 爪楊枝で刺して口の前に持って行くとそれを凝視して固まってしまった。そこまで嫌か? 俺は見た目の問題をクリアしてるからたこ焼きは平気なんだけど、顔がこわばってるフィオなんて初めて見たぞ。

「まぁ嫌なら――」

「はむ」

 おぉ、食った。目ぇ瞑ってるし……そこまで嫌なら食べなくてもよかったのに。

「…………美味しい、でも見えるのは嫌」

 具が大きくて少し表面に出て来ている物を空いたパックに除けていってる。フィオはクラーケンの実物見てるからこのくらいは仕方ないか。次を差し出すとパクつく、餌を与える親鳥の気分……どんどん食べるんですけど、やだこれ、面白い。

「ワタル、私も食べるわ」

「ん? あぁ、はい。ほれ次」

 ティナに一パック渡してフィオに次を食べさせる。

「次、次は私にもやらせてください! はいフィオさん、あ~ん」

 惧瀞さんもこれが面白いらしい。さん付けしてるのにやってる事は子供に対するそれと変わらないのはどうなんだろう?

「ちょ、ちょっと! 私にも、その……しなさい、フィオばっかりズルいわ」

 えぇー……子供にするのと大人にするのじゃなんか違うんですけど、頬を染めてじぃっと見てくる。

「…………い、一回だけな」

 ティナにも差し出したらもぐもぐし始めた。苦手ならあんまり噛まずに飲み込む方がいいと思うんだけどなぁ。

「う~ん、味も食感も嫌いではないんだけれど……中身を知ってしまったせいで複雑ね」

 しばらく全員でその場でもぐもぐしてたら野次馬が集まって来ていた。そういえば店主が宣伝してたもんな、夏休みだから暇してるのも多いだろうし、そろそろ退散しよう。


 やっぱり車にしておけばよかったか? 行きはまだ我慢できたけど、帰りはもう面倒だ。汗でベタベタするし、帰ったら先ず風呂だな――。

「っ!」

「なっ!? おい――」

「ぐへぇ!? いでででででで! 折れる! 折れる!」

 後ろから急に近付いてきた男が俺の剣を一本引っ手繰って逃げようとしたのを、惧瀞さんが足を払って転かし、フィオが腕を捻り上げている。ん~、惧瀞さんが初めて護衛っぽく見えた。ぽややんとしてるのに今のは結構素早かったな。

「警察を呼びますからフィオさんもう少しそうやっていてください。あ、腕は折らない様にしてくださいね。完全にその人が悪いですけど、怪我させちゃうと問題があるので」

「ん」

 あ~あ、痛そう。オークションに出品する時にこの剣も同じ材質だ、って動画で言ったのがマズかったかなぁ…………オークションの様子はかなり話題になってたみたいだったし……でもこんなん盗んでも完全に盗品だってバレるぞ? どうやって売却するつもりだったんだ?


 あ~、さっぱりした。散歩から戻って風呂に入って汗を流し、エアコンの効いた部屋で菓子を摘まみながらごろごろしている。あの後すぐに警察が来て、男を引き渡してさっさと戻って来ていた。

「そういえば、これは読まないの? ワタル宛なんでしょう?」

「うっ…………」

 惧瀞さんが持ってきたファンレター(仮)これって読まないと駄目な物なんだろうか? 返事も必要? もう随分ペンを持ってない、字が書けるかどうか怪しいものだ。というかファンレターってのが信じられない、不幸の手紙とかじゃないの? もしくは俺を責める内容とか。

「読みましょうよ如月さん――あれ? これだけ他のと違うような…………? 差出人は中国大使館?」

 は? たいしかん? 大使館って日本の中にある外国みたいなもの、だったか? なんでそんな所から俺宛に封書なんかが届くんだよ? …………また前の時みたいにうちの国に来いみたいな内容か? これは一応確認しておかないと駄目だな。惧瀞さんから受け取って封を開けた。よく考えたら中国語なんて読めないんだが、とか思ってたらちゃんと日本語で書いてあった。

 内容は日本国内で魔物が出現した時期から少し経った頃から中国国内で失踪者が増えていて、それが魔物に因るものではないか? という事、その為一度中国を訪れて欲しいという内容だった。

 中国に魔物? 日本だけじゃなかったのか? …………何らかの手段で船や飛行機に潜り込んで外国へ行った物が居る? ……マジかよ、これから世界中を巡る必要があるのか? そんな暇ないぞ、能力が戻ったんだ。さっさと魔物を処理してヴァーンシアに戻りたいのに、向こうだってあれからどうなってるかかなり心配だ。それなのにこっちで世界中を巡るなんてしてたらいつ戻れるか分からない。

「なぁティナ、この国以外に魔物が直接現れる可能性ってあるか?」

「前に地図を見せてもらったけれど、この国は海に囲まれているのでしょう? ありえないと思うわ」

 なら無視したい、もし居ても雑魚なら警官や軍隊で対処出来るんだ。俺なんて必要ない、そう思いたいけど……他国に直接現れる可能性が無いのなら上手く潜り込んで移動するような奴だ。そんな奴なら普通のオークとかじゃない。行く必要がある、んだろうなぁ…………ご丁寧に飛行機のチケットらしき物も三枚入っている。魔物の件が終息するのはまだ先か…………。

「はぁ~、中国かぁ~…………」

「チュウゴクって?」

「外国の名前、なんかそこで失踪者が増えてて、それが魔物の仕業じゃないか? って、だから一度来て欲しいってさ」

「ふ~ん、それで? 行くの?」

「行かないと駄目だろうなぁ。何も無ければすぐに帰ってくればいいんだし、確認には行くべきだと思う、というわけで出国していいかの確認お願いします」

「ん~、今回の事件の事もありますから難しいと思いますけど、わかりました」

 はぁ~、中国かぁ……あんまり良いイメージないんだよなぁ。ニュースで悪い内容しか見ないし、反日デモなんて見てて引くレベル、領海内に勝手に入って色々攫って行くとか、島を強引に占領していくのとか……行くの怖いなぁ…………あ、マスク買わないと、絶対空気悪いし、食も心配だな…………呼ばれて行くんだし変な物は食べさせないか? そもそも許可が出るかどうかが微妙だが。


 許可が出ないんじゃないかと思っていたのとは裏腹に、中国へ行く許可が出てしまった。今回の事件で討伐された魔物が百七十三体、これまでに討伐されていたものを合わせて三百十七体になって、ティナの言っていた数は大方討伐されたであろうと予測されている。こちらに来て生存している物はほぼ狩り終えているのではないかという事で、残党が居るのなら現地の人たちの安全の為にも是非向かってほしいと言われた。

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