一緒がいい

「ねぇライルさんまだ着かないー?」

「ああ、まだ先だ」

 エルフに付いて来てしばらく森を歩いているけど、本当にワタルの居る場所に向かってる? 変な様子はないから敵意を持っている様ではないし、周囲に気を配っていても妙な気配は無く獣の気配を少し感じる程度だけど…………。

「あ~……その睨んでくるのは何とかならないか? 結構な戦闘をした後だから警戒するのも理解出来るが、こちらに敵意が無いのはお前くらいになれば簡単に分かるだろう?」

「…………」

 そんな事言われてもワタルの無事を確認するまで警戒は解けない。

「あの、本当にワタルは無事なんですよね?」

「話しをして記憶を覗かせてもらった以外には何もしていない」

「そうですか」

 そう返事はしたけど、リオの表情は安心したという風じゃない。嘘を吐いた様には感じなかった、でもワタルの姿を見るまでは安心できない。そんな感じ、そしてそれは私も同じ。


「うわぁ~、すごーい!」

「完全にファンタジーの世界ね…………」

 どうにか日暮れ前に村に着いた……けど、凄い違和感。人間が居ないのは知ってたけど、知ってるのと実際に見るのではやっぱり違うみたい。居るのはエルフと獣の耳と尾を持った人間、それに翼の生えたのまで居る…………あれって飛ぶの?

「ワタルはもう少し先に行った所にある大樹の上にある族長の家に居る。もうすぐ日が暮れるから気になるようなら明日村を見て回るといい」

「私この世界で人が暮らしてる所に普通に入れたの初めてだ…………」

 ミズハラが村を見回してぼーっとしている。

「ほら綾乃、惚けてないで行くわよ」


「戻ったぞ~、ワタルの仲間を連れてきた」

 エルフに連れられて大樹の上に建てられた家に入った。

『…………』

 入ったらワタルがエルフの女に圧し掛かられて顔を寄せ合ってる。怪我とかをしている様には見えない、無事……無事ではあるけど、むかむかする。それに――。

「なにやってんだミーニィ、ナハトが知ったらブチ切れ――ぐほっ!?」

 とりあえず、何もしていないと嘘を吐いたエルフを蹴り飛ばした。

「フィオ! いきなりなにやってんだ!? せっかく安全を約束してもらえたのにこっちから吹っ掛けてどうすんだ!?」

「だってあのエルフが嘘吐いた、だからお仕置――」

「リオ?」

 リオから威圧感を感じる。凄く怒ってる、でも前に叱ってた時となんだか違う? ワタルを睨み付けてる。

「あ~、マズいかも、退散たいさんっと」

 リオが近付くとエルフの女がすぐにワタルから離れて距離を取った。

「あの、リオ落ち着いて――」

「ふんっ!」

「がはっ!?」

 っ!? ワタルがリオに頬を叩かれて床に転げ落ちた。リオが叩いた…………リオの行動に驚いて固まってしまった。

「私たちがどれだけ心配したと思ってるんですか! それなのにこんな、女の人とこんな事しているなんて、聞いてるんですか? ワタル――」

 ワタルが、動かない?

「ん~? あぁ~、これ気絶しちゃってるね。いやぁ~、普通の人間は非力だと思ってたんだけど君は凄いねぇ~」

「気絶……? ワタル、だ、大丈夫ですか!? 起きてください!」

 リオがワタルの肩を掴んでガクガクやってる。気絶するほどの威力があったの? …………リオは結構強いのかもしれない。

「いや、気絶だからだいじょぶだよ?」

「でも気絶するほど強く叩いちゃったなんて――」

「あぁ~、まぁお酒も入ってたし気にしなくてもだいじょぶだと思うよ。それとさっき引っ付いてたのは私が一方的にやってただけだからこの子にはそういう気は無かったはずだよぉ~」

 でも顔が真っ赤でにやけてた様に見えた。前のリオの時みたいに…………盗賊に誘った時に犯すのに興味を示さなかったし、しないって言ってたから他の男と違って女に興味が無いんだと思ってたのに……違うの?

「騒がしいな、酒が入っているとはいえ騒ぎすぎ――」

「族長、お客様です」

 奥から他のエルフが出てきた。族長? ワタルと話して滞在の許可をした人?


「――というわけで、君たちの滞在を許可する事になった」

「はぁ~、負けた相手と結婚するとか漫画のネタみたい」

「馬鹿々々しい、こいつはそれを承諾したんですか?」

「それはまだだが、彼は押しに弱いようなところがある。ナハトは押しが強いから時間の問題だろう」

 結婚? たしか家族になる事……? あのエルフとワタルが? …………そんなの嫌だ。あんなエルフに取られたくない。ワタルは、どうするつもりでいるの? あのエルフと家族になるなら帰る方法を探す旅も止めるの?

「こいつが断った場合、あたし達はまた敵視される事になるんですか?」

「いや、今のところそちらに敵対する意思が無いのは彼の記憶を見せてもらって確認出来ている。それが変わらぬ限りは滞在してくれて構わない。仮設だが天幕で住居も用意した、しばらく掛かるが普通の物も用意するつもりでいる」

「昼間殺し合いをしていたのに随分と至れり尽くせりの対応ね」

「娘の婿になるだろう相手の仲間なら気を遣ってもおかしくはないだろう?」

 敵視はされなくなって襲われる心配はなくなったけど、ワタルが取られるかもしれないって心配が出来てしまった。リオはさっきワタルを叩いてから喋らなくなってるし、どうすればいいの? ここからワタルとリオを連れて逃げる? コウヅキ達は置いて行っても殺される事はないんだからワタルも気にしないはず…………でも滞在を許されたのはこの村、他の場所に行けば敵視される。逃げ回る生活をワタル達にさせるの?

「まぁまぁ、これからの事は少しずつ話し合っていけばいいわ。今日はみんなゆっくり休んで船旅の疲れを取らないと、コウヅキさんは随分体調が悪かったんでしょう?」

「え、ええ……それもこいつの記憶で?」

「ええ、そうよ。この世界に来てからの記憶を見せてもらったの」


 言われた通り今日は用意された天幕で休む事になった。どうなるにしてもワタルが起きてないと決められない、今は休んでおこう。ワタルを割り振られた部屋に寝かせて自分の部屋に来た。落ち着かない、最近はずっと寝る時は傍にワタルかリオが居たから一人で居るのは変な感じがする。

「リオ」

「フィオちゃん? どうしたんですか?」

「一緒に寝ていい?」

 結局眠れなくてリオの部屋に来てしまった。

「……いいですよ」

 リオの返事を聞いて布団に潜り込んだ。温かくて柔らかい、安心する匂い……やっぱりワタルとリオ、二人と一緒がいい。リオも一緒が嬉しいって言ってた、ワタルも同じだといいな…………。


「きゃあああああー!」

 っ!? リオの悲鳴に飛び起きて声のする場所へ走った……ら、ワタルの部屋でワタルが両頬に手形の付いた状態で転がっていて、布団には昨日戦った女エルフが裸で居る。なんで? …………ワタル、したの?

「いきなり入って来て何をするんだっ、ワタルの恩人だとしても許さんぞ」

「それは……そんな事よりどうしてあなたがワタルの部屋に居るんですか!?」

「夫婦になるのだ、同じ寝所に居ても普通だろう?」

 っ!? 承諾したの? …………ワタルを取られた?

「っ!? ワタルはそれを了承したんですかっ?」

「いや、俺は――」

「それはまだだが、そんなのすぐだから問題ない」

 自信満々な笑みを浮かべてワタルに抱き付いてる……なんで抵抗しないの? 本当にそのエルフが言ってる事を受け入れるの?


 とりあえず保留にして朝食、ってなったけど…………。

「昨日の今日であんな……不潔です!」

「ワタルは女に興味ないって言ったのに」

 さっきの困ったような、でも嫌そうじゃないワタルの顔が頭に浮かんでイライラする。

「そんなのどうせこいつの嘘でしょ、うつ病引きこもりがこれ幸いにと手を出したんでしょ、最低ね」

「うつ病引きこもりで女に興味ないって事はホモ? もしくは両刀? 優夜危ないんじゃない?」

 うつ病って何? ワタルは何か病気なの? ほも? 両刀? 知らない言葉が出てくる。ユウヤが危ない……? 男を犯すの!?

「え゛!? わ、航、僕は普通に女の子が好きだからそういうのはちょっと……」

「んなわけあるかっ、俺にそんな趣味は絶対に無い!」

 違った、良かった。女も嫌だけど男とあんな事するワタルは、気持ち悪い……物凄く! それなら他の男と同じで女に興味がある方が全然いい。

「そうか、良かった…………ワタルに合わせるとは言ったが流石に男にはなれないからな」

 また抱き付かれてるのに離れろって言うだけで抵抗してない……やっぱり女に興味あるのもいくない!

 ワタルが朝食を済ませた後にまた族長と話しをしに行くって言ってたけど誰も付いて行かなかった。私も、ワタルの顔を見ていたくなくて行かなかった。一緒がいいって思ってるはずなのに……もやもやする。コウヅキ達は村を見に出かけて、リオも少し一人で居たいって言ってどこかに行ってしまった。一人…………これからどうなるの?

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