ワタルは無事?

「絶対に駄目!」

「いや、でも――」

「そうね、一人で行くとかあんた自殺願望でもあるの? さっきの戦闘だってこの子がいなかったら確実に死んでたでしょ」

 コウヅキなんか好きじゃないけど、今はワタルを止めようとしてくれるなら誰でもいい。村に来いと言ったエルフがワタル一人で来る事が条件とか言って、ワタルはそれを呑もうとしてる。さっきまで殺し合いをしていて、その相手の拠点へ一人で行くなんて馬鹿すぎる。ワタルの能力が凄くても殺す気が無いなら絶対に加減する、そんな状態で殺意を持ったエルフや獣人に囲まれたら勝てるはずもない。コウヅキの言ってるみたいに本当に死にたいの?

「安全確保の為に話しをする必要があるんだからしょうがないだろ、俺も危険だとは思うけど話を聞いてもらう条件なんだから行くしかないって」

「だからって一人で行く事はないじゃない、この子かあたしも一緒に行く方がいくらか安全でしょ。あっちだって能力持ちで、その上身体能力まで高いんだから別に行くのが一人増えようと問題無いはずでしょう? なに無条件に相手の言うこと聞いてるのよ、馬鹿なの?」

 私が言いたい事をどんどんコウヅキに言われていく…………。

「ワタル、私も一人で行くのは納得できません。もしそれでワタルが帰ってこなかったりしたら…………」

「まぁそうなったら犠牲が一人で済んだという事で――」

「そんなの許さない」

 ワタルの服を掴んで屈ませて目線を合わせて睨みつける。いなくなるなんて絶対に許さない、あんなに苦しいのはもう絶対に嫌。

「睨むなって、冗談だって……相手の条件を呑む方がこっちに害意が無いのを分かってもらえるだろ? 頼む立場なんだし条件は呑まないと、それに殺気は感じないんだろ?」

 冗談? ふざけてるの? 私は真剣なのに……ワタルがいなくなるなんて絶対に嫌なのに、リオだって同じ風に思ってるはず、それなのに…………。

「今は感じない、でも戦い慣れてればそんなものは簡単に隠せる。囲まれた後にころ――」

「わざわざ俺一人を殺す為にそんな面倒な事するはずないだろ、紅月が言ったけど能力持ってて身体能力まで上なんだから」

「でも! ――」

「どうするんだー? 行かないのかー?」

「あ、行きます! 行きます! …………って、放せよ?」

 無視してエルフ達について行こうとするワタルの腕を掴んで捕まえた。聞いてくれないなら捕まえておく方が良い、ワタルの力じゃ振り解くなんて出来ないんだから最初からこうすればよかった。

「ダメ、行くなら一緒に行く。一人では行かせない」

「そうですよ、もう少しエルフの方たちと話してみてフィオちゃんを同行させてもらえるように頼んだ方がいいです」

「人間が警戒されてるんだから一人の方が話しがしやすいんだって……たぶん」

 たぶん……そんな理由で納得できるはずない! 腕を掴む手に力が入る。

「あ~…………フィオ、ちょっと来い」

 ワタルが私を引っ張ってリオ達から離れた。なに? さっきみたいないい加減な理由じゃ絶対に放さない。警戒が足りないワタルは私が一緒に居ないと駄目。


「これは必要な事で話を聞いてもらう条件が俺一人で行く事なんだ。だから俺一人で行く。フィオは残ってリオ達を護ってくれ、俺は戦う方法があるけどリオにはそれが無いんだぞ?」

「それは…………」

 確かにワタルばかり気にしててリオの事が抜けてた。コウヅキは甘くないから敵は燃やすだろうけど、エルフと獣人が襲ってきた場合どこまで対処出来るか分からない。それ以前にリオの事を助けないって前に言ってたから当てにするのなんて間違ってる。ユウヤが傍に居るのも不安、さっきの騒動を引き起こした途端に倒れたってコウヅキが言ってたから能力の制御が出来てない。そんな危ないのとリオを一緒にしておくのは良くない。

「ならリオと二人で付いて――」

「だーめーだー、頼むから待っててくれよ。あっちだって今まで襲い掛かってきてた人間ってものの話を聞いてくれるって譲歩をしてくれてるんだ。こっちだって配慮する必要が――」

「聞くかどうかなんて分からない!」

「一旦戦いが止まって話しが出来たんだ。聞いてくれるって、だからリオ達と待っててくれ。大丈夫だから……ヤバかったらどうにかして逃げるし、な?」

 そんな顔してもこれは聞けない、私が傍に居る範囲での無茶なら聞けるけど、これは違う。だから聞かない……聞かないってば! …………うぅ~、見ない様に顔を逸らしたのに頬を摘ままれてワタルの方を向かせられた。

「フィオ頼む」

 うぅ~、うぅ~、頷くな、頷くな! 一人で行かせるなんて絶対に危険、そんなの許しちゃダメ――。

「…………ん」

 私の馬鹿…………納得なんて出来てないはずなのになんで頷くの? ワタルのせいで私が変になってきてる。




「はぁ~」

 ぼんやりと船の上で空を眺める。何やってるんだろう…………危険だと思うのにワタルを一人で行かせて、コウヅキに馬鹿って言われたけど反論できなかった。

「ねね、フィオちゃんキスしたの?」

 は? …………ミズハラが変な事を言ってきた。

「誰と?」

「航しかいないじゃん、無理矢理されちゃった?」

「? そんなのしてない」

「えぇー、だってあの時顔を寄せられてたじゃん。今もぼーっとしてるし、されちゃったから大人しく言う事聞いちゃったとかじゃないの?」

 ぼんやりしてたのは事実だけど、そんな理由じゃない。自分の判断について考えてたからだ。ワタルの言う通りリオを護らないといけないのも分かるけど、もっと他の方法を取れたんじゃないか? そんな事を考えていた。それに――。

「ワタルはそんな事しない」

「…………な~んだ、本当に何もないんだ。面白い話になるかと思ったのにぃ~」

 しばらく私の目を見た後にそう言って離れて行った。私がキスしてたら何が面白いの? 理解出来ない。

「フィオちゃん、元気出しましょ? フィオちゃんが信じて行かせたのならワタルは無事に帰ってきますよ」

 今度はリオが傍に来て隣に座り込んだ。

「怒ってないの?」

「? なんで怒るんですか? 私がフィオちゃんを怒るような事なんて何も無いですよ」

「ワタルを一人で行かせた」

 リオも一人で行かせるのは反対してたから一人で行かせたのを怒ってると思ってた。収容所の時凄く怒ってたし。

「フィオちゃんには怒ってないですよ、ワタルには少し怒ってますけどね。それでも今はワタルならなんとかしちゃうと思っちゃってるんですけどね、フィオちゃんもそう思ったから一人で行くのを許したんでしょ? じゃなきゃ行かせるはずないですもんね、ワタルの腕を掴んでる時のフィオちゃん絶対に放しそうになかったですから」

 そう、頭では危険だと、警戒するべきだと考えてるのに、ワタルのせいで大丈夫だと思ってしまった。

「そんな顔しなくても大丈夫ですよ。帰ってくるって言ってたならちゃんと帰って来てくれます。ワタルは無茶しますけど何とかしちゃいますから」

 リオが笑いかけてくれて少し気が楽になった。今は頼まれた事をしよう、エルフや獣人が居なくても変な鳥がまた来るかもしれない、他にも変な物が居る可能性もある。そういうのからリオを護る。


「お~い! ワタルと族長の話し合いが終わって滞在の許可が出たぞー」

 船内から外を警戒していたら外から声が聞こえてきて確認に出るとあの時のエルフが戻って来ていた。許可が出た? ならワタルは無事? …………ならなんで戻って来てないの?

「やったー! 航やるぅ~。やっとこれで逃亡生活が終わる~。あ、麗奈ほっとしてない? やっぱり気になるの?」

「綾乃と同じで逃亡生活が終わる事に安心しただけよ!」

 騒いでいるミズハラ達をおいてリオと一緒に船を下りてワタルの事を確かめる。

「あの、ワタルはどうして戻ってこないんですか?」

「あぁ、ちょっと事情があってナハトを村まで運んでもらったんだが、それで疲れたみたいだ。それに人間の足に合わせてここに来るより俺一人で知らせに来る方が早いからな、あいつは村に滞在するだろうからお前たちを迎えに来た」

 本当にそんな理由? …………ワタルが戻ってこない事に不安を感じる。ワタルに何かしたんじゃ――。

「そんなに睨んでくれるな、あいつは無事だフィオ」

 っ!? なんで私の名前を?

「それでこっちがリオだったな? 紅い髪で炎を使えるのがコウヅキ、能力を暴走させたのがユウヤで茶髪の娘がミズハラ、ワタルの記憶を覗かせてもらってお前たちがこの大陸に来た真意を確認させてもらったから害意がないのも分かっている。俺たちももうお前たちを攻撃する事はない、信用できないというなら構わないが信じてくれるのならすぐに出発しよう。人間に合わせるとそれなりに時間が掛かるからな、日暮れまでには村に着いて休みたいだろう?」

 記憶を覗く? そんな能力があるの? ……確かにワタルの知っている事を丸々知る事が出来るならワタルが敵意を持ってここに来たんじゃないって理解してもらえるだろうけど…………。

「ははは……その顔だと信じてはもらえそうにないな。まぁお前はワタルとリオ以外には気を許していない様だったから仕方がないか。ワタルの無事が確認できれば少しは変わるか?」

「フィオちゃん、行きましょう? この人は嘘を吐いていないと思います」

「あ、俺はライルだ。よろしくな」

 信じたわけじゃない、でもワタルの事を確認しないといけない。

「リオが言うなら…………」

「信じる信じないは自由だが睨むのは勘弁してくれ、ナハトを圧倒するようなやつに敵意を向けられるのは中々に心臓に悪い」

「フィオちゃん」

 むぅ、まだ敵じゃないって決まったわけじゃないのに。

「ユウヤは起きているのか? まだ起きていないなら俺が運ぶが」

「いいんですか?」

「ああ、俺が来たのはそれも理由だしな。さぁ出発しよう」

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