番外編~フィオ・ソリチュード~

始まり

 私はいつも退屈している。

 毎日が同じ事の繰り返し、訓練と称した同族殺し、生まれた時からここに居る私たちは言葉よりも先に殺し方を覚えさせられる。互いを殺し合わせて出来が良い物を残すらしい。

 私は他の混ざり者どうぐより出来が良いらしい。だから私を強くする為に多少の犠牲は仕方がないと人間かいぬしが言っていた。どうせ掃いて捨てる程居るし、奴隷を使って何人でも産ませるから数が減る心配もないらしい…………くだらない。

 気が付けばこんな事を繰り返させられてた、生まれた時から道具な混ざり者わたしたちだから人間の指示に従うしかない、そういう風に教え込まれて育ってる。稀に反抗するどうぐも居るけど、そういう人はみんなの前で潰されてぐちゃぐちゃになる。身体能力では混ざり者の誰よりも劣るはずの、異界者のよく分からない能力ちからで潰される。人間は使えない道具、自分たちの意にそぐわない道具はすぐに処分する、意にそぐわないのは見せしめとして、役に立たないのは口減らしとしてエルフの居る土地へ人攫いに行ってエルフに殺させるか、戦闘訓練の的になる。

 こんなくだらないモノが私の日常。


 訓練なんてもう意味がないのに…………誰を相手にしても弱すぎてすぐに殺してしまう。私はいつの間にか、身体能力の高い側の混ざり者で作られた部隊、超兵部隊最強と言われるようになっていた。それでも毎日数人は殺しをさせられた、殺しの感覚を忘れない様にする為だと人間は言っていた。

 私の訓練相手に選ばれた人はみんな青ざめて怖い物を見る目で私を見る、そして死ぬ間際に決まって言う『化け物』と…………人間が混ざり者をそう呼ぶ事があるのは任務で外に出た時に知っていた。でも私は化け物にも『化け物』と言われてしまう、同じ様な姿形なのに、私が望んで殺し方を覚えたわけでもないのに。


 あぁ、そういえば一人だけ変わったのが居た。私と同じ様に長い髪をしたピンクの女の子、私との訓練で唯一毎回生き残る人、私には一度も攻撃出来ないくせに最後まで死なない、名前は…………覚えていない、すぐに死んで入れ替わるから誰かの名前を覚えるだけ無駄だし、人間めいれいするがわも誰が指示を出そうと聞くしかないから覚えても意味がない。


 普段は毎日休む間も無く訓練をやらされる、殺す訓練、身体能力を更に伸ばす訓練、持久力を付ける訓練、異界者の目撃情報が入れば合間に任務として捕獲に向かう。でも大抵は覚醒者に成っていないから混ざり者が行く必要はなくて普通の兵士で事足りる。手に負えない様な能力を持った者が現れた時だけ混ざり者が駆り出される。

 でも今回の任務は今までのものとは毛色が違うみたいだった。この任務が後にあんな事をする為のものだとは私は知らなかった。


 超兵部隊でも優秀とされている者百人で挑んだこの任務はあっけなく失敗した。一瞬で半分が死んで撤退を余儀なくされた。私は続行でもよかったけど、リーダーをしていた男の指示だったから従った。任務中の判断はリーダーをしている者に従えと教え込まれていたからそうした。

「どうすんだよヴァイス! いきなり半分も簡単に死んだぞ! しかも一瞬でだ! あんなのの捕獲なんて無理だろ、こっちには覚醒者だって居ないんだぜ!」

 髭面の男が焦った様子でリーダーの男に怒鳴っている。リーダーはヴァイスって名前なんだ…………そういえばあの男はそれなりに優秀で人間によく命令されていた気がする。

「だとしてもやるしかないだろ、失敗して戻れば役立たずの烙印を押されて俺たちは殺されるだけだぞ、作戦を練り直してもう一度行くんだろ? ヴァイス」

 マスクの男はまだやる気みたい、当たり前か、失敗して戻ればあっけなく潰されるんだから。

「いや、俺はこのままずらかるつもりだ。お前たちはどうする? またあれの捕獲に挑んで殺されるのと、逃げるの、どちらを選ぶ?」

 驚いた、あのヴァイスという男は逃げ切れる気でいるみたい、どこへ逃げたところで覚醒者の能力からは逃げられないのに。

「ずらかるって、正気か!? 人間どもは覚醒者の能力を使って俺たちがどこに居ても殺せるんだぞ! ヴァイスならそのくらい知っているだろ!」

「はっ! あんなのは自分たちより強い俺たちを従わせてちゃんと戻って来させるための嘘だ。偶々だがあのクズどもの会話で聞いた事がある、俺たちを殺せるのは軍の本部に居るあの胸糞悪い覚醒者くらいだ。だから逃げようと思えば逃げられるんだよ、俺たちは」

 嘘…………そんなものを私はずっと信じ込まされてたんだ……馬鹿みたい、でも逃げ出して何かしたい事があるわけじゃない、私が知ってるのは殺す事だけ、特に望みもない、ただ、このくだらなく退屈な毎日に少しの不満があるくらい。

 だったらあの場所に戻るの? わざわざ潰されに? それこそくだらない。

「フィオ、お前はどうする? お前毎日退屈そうにしてるだろ、俺たちと来ればその退屈が変わるかもしれないぞ」

 ヴァイスが私に聴いて来る。付いて行けばこの退屈な毎日が変わるの?

「逃げてどうするの? 私は殺す事しか知らない」

「それで充分生きていけるさ、俺たちはこれから盗賊団を名乗って町や村を襲って生活するんだからな、殺しさえ出来れば生きていける」

「そんなので本当に大丈夫か? 騒ぎを起こせば、超兵や異能兵だって出て来るんじゃないか?」

 異能兵、兵士として使われてる覚醒者がそう呼ばれてる。

 気の弱そうな男が怯えている、でもあの男の言う事は尤もだ。意にそぐわない混ざり者が暴れていれば処分をしにやってくるはず。

「超兵ならいくらでも対処出来るだろ、俺たちは優秀だからこの任務に選ばれたんだぜ? 選ばれなかった奴らなんて俺たちに敵うはずもない、超兵最強も居る事だしな、異能兵に対してはこちらも異能で対抗する、だから近場の収容所を襲ってまず異界者を確保する。後は適当に移動しながら村や町を襲っていく、不規則に襲っていれば軍も簡単には俺たちに追い付けやしない、道中で隠れ家に使えそうな場所が見つかれば最高だな」


 確かに、超兵の中には私より強い人はいない、異能兵じゃ超兵の移動に追い付けない。その間にこちらも覚醒者の能力を得られれば逃亡は可能…………戻っても殺されるだけ、死ぬ事に恐怖は無いけどわざわざ痛い思いをしに戻るのは馬鹿々々しい、もし殺されなくてもまたあの繰り返しの毎日……そこへ戻るの?

「それでどうだ? いくら最強だからって戻れば殺されるかもしれないぜ? だったら俺たちに付いて来る方が賢い選択だろう?」

「…………付いて行ってもいい、でも私は命令は聞かない」

 あの場所から逃げるのなら、もう他人の為に動きたくない。

「ああ、それでいいぜ! 俺たちは上下関係のない『仲間』だからな、ただし行動を共にするんだ、多少の指示は聞いてもらうぜ?」

「仲間じゃない、付いて行くだけ……少しなら聞いてもいい」

 そう、仲間じゃない、私とヴァイス達は違う、同じ道具って扱いだったけど、私は『化け物』だから仲間じゃない…………。

「……まぁ今はそれでいいさ」

 こうして私はヴァイス達にに付いて行く事になって盗賊になった。


 最初に襲った収容所で異界者の男を一人見つけた。

 その男はヴァイスの言った条件で簡単に仲間になる事を決めた。それから間も無く、男は覚醒者に成った。覚醒者、ツチヤの能力は土や岩を操れたからそれを使って山奥に洞窟を作って、そこを隠れ家にする事になった。出入りしない時は洞窟の入り口は塞がれるから見つかる可能性も低い、安全な住処にみんなが喜んでいたけど、私の退屈は変わらないまま。


 それからは異界者を捜しながら村を襲って金品や食糧を奪って回った。抵抗された時は壊滅させる事もあった。ヴァイス達は何がそんなに楽しいのか、女を犯して気に入れば隠れ家に攫って帰りもした。どうせすぐに飽きて殺すくせに。

 みんなはそれなりに楽しそうにしている、私の退屈は変わらないのに…………。


「ようフィオ、お前いつも退屈そうだな、暇つぶしに俺と一発ヤってみないか?」

 くだらない、まぐわいは見ているだけで不快、犯している時の男の顔も、泣き叫ぶ女の顔も、壊れた様に喘ぐ顔も、体液の臭いも、全部が嫌い。

「おい、無視すんなよ!」

「私に触ると殺す」

 私に伸ばされたツチヤの手が止まった。

「そんな事言っていいのかよ? 俺が居ないと困るんじゃないのか?」

 ツチヤは勘違いをしてる。ツチヤの能力は便利だけど別に私には必要ない、だから私に不快を与えるなら迷わず殺す。後でヴァイスが煩いだろうけど、そんなのどうでもいい。

「困るのはヴァイス達だけ、私には関係無い」

「…………分かったよ、お前には関わらないって、だから睨むなっての」

 くだらない、異世界の人間といっても考えている事はヴァイス達と殆ど変わらない、殺す事と犯す事ばっかり。


 今日もまた村を襲う、でも私がやる事は何も無い。私が殺す必要がある程強い相手なんて居ないからみんなが殺して壊して犯すのを眺めてるだけ、ヴァイスが私を連れて来たのはたぶん軍の追手に対処する為、だから追手に見つかってなかったら私は何もする必要が無い。無意味に殺さなくていいのは楽だけど、何もしない時間が増えた。染み付いた癖で訓練の真似事をして身体を動かすのと眠る以外してない、気まぐれで襲った村から持ってきた本を読んだりしてもみたけど内容は私には理解出来ないモノだった。


 村を襲って周辺を探索して異界者を捜す。異界者が見つかった時はヴァイス達の機嫌がいい、仲間にするのも簡単だからだと思う。ヴァーンシアの人間を殺せる、犯せると言えばみんな簡単に仲間になる。みんなこの国の人間が憎くて仕方ないみたい、だから復讐の機会を与えるヴァイス達の言葉を喜んで受け入れてる。

 でもツチヤ以外の異界者は覚醒者に成る事は一度も無くて、異界者たちは自分たちは特別だと思い込んで、ヴァイスと自分が同等と勘違いをして女の取り合いとかのくだらない事でヴァイスを怒らせて処分される。せっかく見つけても毎回こんな感じでみんな死ぬ、どうせいつまで経っても能力を得ない役立たずだから処分しても問題無いってヴァイスは笑ってた。捜す事にはあんなに必死なのに…………ツチヤは最初は処分に反対してたけど二人目が死んだ辺りからは自分も殺す側に回ってた。


 くだらない、同じ世界の人間でも結局みんな自分が大事だから誰かを助けようとなんてしない。それは襲った村でも同じだった、同じ家に住んでる人を家族と言うらしいけど、それを囮にして逃げ出そうとする人とか、それを差し出して自分の命を乞う人とか、自分が助かる為にみんな簡単に誰かを犠牲にする。

 拾った本に家族は大切な物って書かれてたけど、やっぱり作り話、大切な物ならあんなに簡単に捨てるはずない、それとも『大切』ってそんなに軽いものなの? 誰かが誰かの為に何かするなんて作り話の世界の出来事、現実にそんな事をする人は存在しないいない、この事を知って少しだけがっかりしてる自分が居る。

 何を期待してたんだろう? どうせ私は道具で化け物なのに…………。

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