変なの見つけた
今日も村を襲ってる。
見つけた異界者はツチヤ以外を全部殺したから次を見つけようとヴァイス達が焦ってる。あんなに躍起になるなら殺さずに置いておけばいいのに……。
もうかなりの村を皆殺しにしてる、私たちに対する討伐隊が何度か現れたけど超兵は弱いから簡単に倒せたし、異能兵は接触前に気付いて回避してる。
まだ問題は起こってない、でもこの状態を長く続けるのは無理がある、今はまだ弱いのしか出てこないけど軍だって必死になって異界者を集めてた。私たちの知らない覚醒者も沢山いるはず、それに対処し続けるのはヴァイス達には無理、まともな戦闘をした事の無いツチヤの能力がどの程度役に立つかも分からないし、何よりこの生活は退屈……退屈が変わるって言ったのに、何も変わらない、変わったのは殺す事が極端に減った事くらい。
「相変わらず退屈そうだな」
「ヴァイス達は楽しそう」
「ああ、自由だからな。今まで散々俺たちを道具扱いしてきた純血の奴等を犯すのも殺すのも愉しくてしょうがない」
「そう……」
みんなはそんな事が楽しいんだ…………私には分からない、壊す事の何がそんなに楽しいの?
「お前盗賊になってから殆ど殺してないだろう? 討伐隊と自分に斬りかかって来た奴くらいしか殺ってないんだろ、もっと殺せ、そうすれば退屈せずに済む。混血者を蔑む連中を痛め付けて殺すのは最高に気分が晴れる」
そんなのじゃ私の退屈は消えない、今まで私が何人殺させられてきたと思ってるの? 殺したって何も変わらない、目の前に居る存在が生き物から物に変わるだけで私の気持ちは変化しない。
「そんなもの楽しくない」
「ふんっ、そうかよ。ならいつも通りに周辺を探索して異界者を捜してこい、その間俺たちはここで遊んでいる」
私が否定したのが気に入らなかった様子のヴァイスが怒った様に命令してくる。私は部下でも仲間でもないのに……でもいい、ここでくだらない光景を眺めて血と体液の臭いを嗅いでるよりは走り回ってる方が気も紛れるかもしれない。
それからは略奪や殺しはみんながして、私は異界者捜しって役割になった。食糧に困らなかったら何でもいい、どうせこの退屈も変わらない。隠れ家に居る時の眠る時間が増えた、いっそこのままずっと眠ってしまえたらいいのに。
周囲の村は襲い尽くして、討伐隊を撃退した事で調子に乗ったヴァイス達は今度は町を襲うと言い出した。村みたいな小規模の損害と違って、町を襲えば確実に強力な異能兵が討伐隊として出てきそう…………忠告はしたけど、どうしてもやるみたい。
町への侵入は簡単、人間の守衛なんて混ざり者には無意味、あっさり首を落とされて転がっている。それに気付いて叫ぶ声が聞こえる、でもすぐにそれも消える。男と若くない女は要らないからすぐに殺される、暫くして不要な物を壊し終えると別の声が響き始める。自分の不幸を嘆く悲鳴…………これを聞いているヴァイス達はとても嬉しそうな、楽しそうな顔をして笑ってる、私にはあの煩いのの何が楽しいのか分からない。分かればこの退屈は消えるの? …………私には理解出来そうにない。
「おいフィオ! 異常は無いか―? そんな場所に居るんだからしっかり見張りやれよー!」
別に私は見張りをするつもりで門の上に居る訳じゃない、不快な物から距離を取っていたいだけ。
っ! 黒い髪……? 二人居る、もう一人居るけどこっちは金髪だから異界者じゃない、それでも充分な収穫、異界者を見つけた事を理由に暫く村や町を襲う時の同行をサボろう。
門から飛び降りて落ちている剣を適当に拾う。
「どうしたんだ? 急に」
「遠くに黒い髪の人間が見えた」
「! 異界者か? 最近は見つからなくなってたから久々だな」
「なら俺たちも行くぜ、異界者の発見と捕獲は分け前が増えるからな」
「邪魔」
「はあ!? そりゃ――」
髭面が何かを言ってるのを無視して異界者に向かって走り出した。さっさと捕まえてしまおう、襲った場所で不快な光景を見せ続けられるのは飽きた、これなら隠れ家で寝ている方がマシ。
三人がこっちに気付いたみたい、金髪と黒髪の一人が遠くの森に向かおうとしてる、森の中を捜すのは面倒。
「急ぐ」
もう一人の黒髪は剣を持って動く様子がない……私と戦う気でいるの? それとも囮として残されたの? っ!? どうして? 逃げた黒髪が戻って来た。金髪が必死に連れていこうとしてるけどもう一人の黒髪の手を掴んで放さない、何をしてるの? 剣を持ってる方がもう一人黒髪の……女? を金髪に向かって突き飛ばしてる。分からない、なんで逃げないの?
三人の居る場所に辿り着いて、少し行き過ぎて森への進路を塞ぐ位置で止まる、すれ違った時に確認したけど瞳が黒いのは剣を持ってる人間だけ、もう一人の黒髪は珍しいけど瞳が蒼いからヴァーンシアの人間みたい。
剣を私に向けて構えてる、余計な怪我をされて死なれても困る、剣を弾き飛ばす様に一撃叩き込んだ。なのに転けはしたけど剣を放さなかった、異界者ならヴァーンシアの人間よりも弱いはずなのに。
「ひっ! ば、化け物…………」
言われるのは分かってる、でも聞くと不快……金髪を少し睨んだら目を逸らして黙り込んだ。
異界者は私を惚けた様な顔して見てたけど、私の持っている剣を見たとたんに驚いた顔をして剣を構え直した。混ざり者の私に勝てる気でいるの? それとも混ざり者を知らないの?
「フィオ! お前いつも速すぎだろー」
「少しは俺らに合わせろよ―」
カイル? とダージ? が追い付いてきた。名前はよく覚えてない。みんないつも同じ事をしているから区別が付かない。それに私が二人に合わせる必要性を感じない。
「二人が遅すぎる」
「俺たちはあれで全力なんだよ! お前やヴァイスと一緒にすんな!」
ダージ? が怒鳴って来る、煩い……。
「んで、いたのか? 異界者」
カイル? は手柄を横取りしたくて仕方ないみたい。
「いた。当たり」
「マジかよ。お前目ぇどんだけ良いんだよ」
このくらい普通なのに。
「見えたのは黒髪だけ」
「はっは~、賭けは俺の勝ちだなダージ」
「うっせぇ! カイル、次は負けねぇ」
賭け事…………偶にみんながやってる、選択肢を選んで正解した方に外れた方が何かを渡してる。みんなは何をしてても楽しそう…………。
「にしても、本当に異界者を見つけるとは相変わらずフィオの勘は凄まじいな、ヴァイスも喜ぶぜぇ、きっと」
賭けに勝ったからカイルは機嫌がいい。そんなに楽しいモノなの?
「オマケで良い女まで付いてるしな。あれはかなりの上玉だ」
「っ!」
カイルの視線に脅えて女が異界者の後ろに隠れた。どうして? 異界者の男も女を護ろうと剣を構えてる。なんで異界者がヴァーンシアの、この国の人間を護ろうとしてるの?
「にしても、お前! なんで俺たちに剣を向けてんだ? 向ける相手間違ってるだろ?」
カイルの疑問は当然、私も不思議で仕方がない、どうして自分たち異界者を蔑んで酷い扱いをするアドラの人間を護ろうとしてるの? 変な人…………。
「異界者が剣を向けるべきなのは、この国の人間だろう? それともヴァーンシアに来て間もないのか?」
そうか、ダージが言った様にこの世界に来て間もないならこんな変な行動を起こす事もあるんだ。
「ああ~、もしかして今からそこの男を殺して、そっちの女で愉しむところだったか? だったら悪いことをしたな、俺たちは異界者に用があるだけなんだ、お前に危害を加えるつもりはないから好きに愉しむといいぜ! あと終わったら、その女
こんな時でも女を犯す事を求めてる、不快…………カイルの言葉を聞いた異界者が怒っている様に見える、この国の人間の為に怒ってるの? なんで?
「用ってのは?」
「あぁ、用ってのは俺たちダスク盗賊団に入ってくれ、ってのだ」
ダージが勧誘してる、少し変わってるけどこの異界者もいつものと同じですぐ仲間になる――。
「拒否したら?」
拒否? 拒否するの? 今までの異界者は簡単に仲間になってたのに? この異界者は変、今までのと全然違う気がする…………私、少しワクワクしてる?
「拒否ぃ? なに言ってんだ? お前この国がどんな所かわかってないのか?」
「拒否する利点がお前にはないと思うが?」
「…………条件がある。お前たちに付いて行くから、リオをこの
やっぱり、異界者なのにアドラの人間を護ろうとしてる、変、今までの異界者と違う、なんでこんな行動をするの? 私の中にこの異界者への疑問が溢れて来る。
「ワタル!?」
「いいんだ」
女の方の態度もおかしい、アドラの人間なら異界者を蔑むのに…………あの女にはそんな感じがしない。カイルとダージが嫌な笑いをしてる、条件を飲む気が無いんだ。
「ああ! いいぜ! その条件飲んでやる」
嘘だ、異界者もそれに気が付いてる。難しい顔をしてこの状況をどうするか悩んでる、変、変なの、なんで誰かを護ろうとしてるの? そんなの作り話の中の事じゃないの?
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