噴き出した嫌な気配はどんどん濃いモノになっていく、この封印石を壊させるわけにはいかない、やるしかな――。

『――――!』

 っ!? 悍ましい叫喚が響いた。出てきた…………? まだここの封印石は残っているのに? ここが無事でも他が壊れているのなら、これ一つでの維持は出来なかった? 要だと言っていたからこれさえ無事ならまだ何とかなると思っていたけど、もう終わり――。

「なに固まってるの! まだ雑魚が出て来てるだけよ! ここの封印石が無事ならまだなんとでも出来るの! だからこの子たちを――」

『雑魚とは心外だなぁ、エルフの女』

「っ!?」

『へへへへへ、イイオンナダ、オカシガイガアル』

 醜悪に歪んだ顔をした、細身でエルフに似た長耳をした人型の何かと、普通の人間の倍位の巨大な体躯をした豚面の化け物(恐らくオーク)が姫様を見てニタニタ笑っていた。

「オーク、とエルフとの混血のハイオークってところかしらね? エルフの血が入ってるのに随分と醜く頭の悪そうな顔ね」

 エルフとの混血…………族長が言ってた奴か? あいつが優夜たちをおかしくした原因か? なら殺す! すぐに殺してこの騒動を終わらせてやる。

 ミスリル玉を取り出して魔物目掛けて発射した。轟音を響き渡らせて短剣から魔物へ閃光が走り、魔物を吹き飛ばした。

『あ~あ、やりやがった。異世界の人間の方が俺たちよりもよっぽど化け物じゃないか、おい! そっちの氷のガキ、さっさとその最後の封印石を壊せ』

 混血だと言われてた方は躱していた。オークはのろまなイメージがあったけど、エルフの血が混じって身体能力も上がってるのか。

「黙れぇええ! 僕は自分の世界に帰る為にやってるんだ! お前たちの手下になったわけじゃない、僕たちを元の世界に帰す能力も無い奴が出て来るな!」

『がっ、ごふっ、この、ク、ソガキ…………』

 優夜が放った氷槍に胴体を貫かれて混血のオークも死んだ。あっさり殺した、完全に魔物に操られていて魔物の味方になってる、ってわけじゃないのか?


「優夜もう止めろ! こんな奴らが世界中に溢れたら――」

『溢れたらお前ら他種族を男は殺して、女は犯し尽くすだろうなぁ。ガキがやらないなら自分たちで壊せばいいだけだ』

 出て来た奴がまだ居るのか、周囲をオークと混血オーク、オークよりも更に巨体の醜い魔物に囲まれている、あれはオーガってところか? これ以上お前らみたいなのに出て来られて堪るか!

「殺す」

 今喋ってた奴はさっきの混血オークより遅い、一気に距離を詰めて喉を斬り裂いた。こんなのが闊歩する様な状態になったら大災厄だ、そんな事になったらあの村の人たちだって被害を受けるかもしれない、リオを平穏な暮らしに戻す、なんてのも叶わなくなる。

「そんなの我慢出来るかぁあああー!」

 加減無しの電撃を撃って周囲の魔物を一掃するが、際限なく黒い山の方角から湧いて来る。湧いて来る物の中には小型のオーガ(たぶんゴブリン)の様な物やイヌ科っぽい頭部をした人型の物、上半身が女で下半身が蛇の物なんかも居る。

「ワタル、魔物は後にしなさい! 雑魚よりも封印石を壊せるこっちの子の方が厄介なの! ここの封印石が壊されたら本当に危険な物まで出てきてしまう、だから封印石を壊せる存在を排除する方が大事なの!」

「なんであいつが航の声で航と同じ能力を使ってるんだよ…………どうなってるんだよ! あっちの奴もこっちの世界の人間なはずなのに能力を使ってるし動きも異常だし…………何がどうなって…………」

 姿が別の者に見えていても、その他のズレで混乱して優夜の動きが止まってる、今なら気絶させられるか? 優夜と瑞原に向けて電撃を放った。

「っ! もう僕たちに関わるなぁあああああ!」

 全方位に冷気を発し、氷槍を生成して目に写る物を貫いていく。電撃を食らって死んだ魔物の死体も凍りつき、氷槍で刺し貫かれて砕けていく、湧いてきた魔物も同様に凍らされて、砕かれ散っていく。

 俺は結局また岩陰に隠れる羽目になった。それにしても寒い、剣を二本抜いて両手に持って電熱を発生させて誤魔化しているけど、直撃してたら俺も氷漬けだろうな…………。

 まだ優夜の能力は衰えないのか…………他人の能力の強化に特化した能力ちからだからなのか、瑞原の力の容量が大きいのか、優夜の使う能力は全く衰えを見せない。それどころか、冷気が押し寄せる魔物共を伝って凍り付かせていき、黒い山へ向かって魔物の氷像を作っていく。


「優夜も魔物もヤバすぎだろ…………」

「状況に混乱して暴走しつつあるのかもしれないわね、封印石を壊すって目的も見失って魔物を攻撃しているし」

「姫様いつの間に……まぁ無事で良かったです…………ていうか戻ってナハトか紅月を連れて来てくれれば氷の能力に対抗出来るのに」

 姫様の能力便利だけど広範囲に影響を及ぼす様な能力とは相性悪そうだから能力使うなら援軍を連れて来てくれればいいのに。

「王都からここまで結構な距離があるのよ? それに修練場でワタルと遊んでたのもあるし、もう宮殿に戻る程跳べないわ。それにしても……寒すぎ! なんであの子こんなに無茶苦茶なのよ! ワタル温めて!」

「うわっ、ちょ、抱き付くな」

 豊満な胸が形を変える程に押し付けてくる。

「寒いのよ~、人肌が恋しいのぉ~」

 俺に抱き付くより電熱で温めた剣の傍に居る方が温かいだろうに…………。

「なにを暢気な事言ってるんですか、ここの封印石が壊されたら終わりなんでしょう?」

「でもあの子から冷気が噴き出してるんだから近寄れないし、動く物に反応して能力ちからを向けてるからとりあえずは安心よ? それにほら、自分たちを氷壁で覆って引きこもっちゃった」

 確かに、出入り口の無いかまくらみたいな物が出来上がってる。でも能力の放出を止めたわけではない様で、かまくらを中心に冷気が吹き付けて、魔物の氷像が増えていく。

「あれっていつになったら止まるんだよ。優夜一人だったら氷槍の雨一回で電池切れを起こしてたのに」

「でんちぎれって?」

「力が尽き果てるって事です。というか離れてくださいよ、剣の傍の方が温かいでしょう?」

「でんちぎれは力尽きるって意味……なら女の子の方の力の容量が大きいんでしょうね、ワタルはあの娘が覚醒者だって知らなかった、って事はどのくらい能力を使い続けられるかも分からないのよね?」

 離れてくれってのは完全スルーですか…………俺も温かいし……我慢しよ。

「分からないです。他人の能力を強化する能力ってこんなに無茶苦茶が出来る程強いモノなんですか?」

「他の能力と同じで個人差があるから、完全にあの娘の力が桁違いに強いって事になるわね」

 マジかよ…………単体では何の効果も発揮しないのに他の覚醒者と組んだらこんなに厄介な代物になるのか。


「それにしてもワタル……」

「? なんですか?」

「大きくなってるわ、こんな時なのにやんちゃな子ね」

「っ!? 姫様こそこんな時に何してんですか!? 触るのをやめてください! っ! 撫で回すな!」

 つーか自分でも気付かなかったよ! なんでこんな状況の時にそんな事になってんだよ…………自分にがっかりだよ。

「あら、その気なのかと思って――」

「そんなわけないでしょう! 状況考えてくださいよ! こんな時にそんな事しようとする奴が居たらそいつは絶対、確実に! 頭おかしい馬鹿ですよ!」

「ならこんな状況じゃなかったらするのかしら?」

 状況考えてくれ…………この話題を続ける意味無いだろ…………。

「しないです」

「えぇ~」

 何考えてんだ姫様…………それは優夜と瑞原もか、封印石を壊すって目的を見失ってひたすら冷気を噴き出し続けている。


 魔物が日本に帰してくれるみたいな事を言ってたのに、魔物にも攻撃を加えてるし、挙句あんな所へ引きこもってどうする気なんだ?

『然り』

「っ!? 誰だ?」

「? なに言ってるの? ワタル」

「え? 姫様には今の聞こえなかったんですか?」

「何か聞こえたの?」

 姫様には聞こえてない?

『帰る為ならどのような行為も厭わぬと吹くので使ってみたが、同じ異界者を見て居竦み、動き易いように箍を外してやっても尚躊躇う、見える相手を恨みの対象と認識する様にしてやって漸く動き始めたかと思えば、雑魚共を凍らせてあのような物に閉じ籠るとはな、使えぬ道具であったな…………さて、貴様はどうかな? 俺の役に立つ道具か、試してやろう』

 っ!? 何をする気だ!?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る