終わりの始まり

「やるって言ったんだから早くなんとかしなさい!」

「いやいやいやいや、これ動けないでしょ!」

 優夜は氷槍をガトリングの様に連射してきている。岩陰に身を隠してないとあっという間に串刺しにされて、穴だらけになってしまう。

「大体なんで姫様まで一緒に隠れてるんですか? 空間斬ってその裂け目で攻撃を受ける様にしたらいいじゃないですか、人以外も入るんでしょう? あの裂け目」

「確かにそういう躱し方も出来るにはできるけど、空間斬るのってすんごく疲れるのよ? こんなに無茶苦茶撃って来るのを受ける為に何度も空間斬ってたら疲れて動けなくなっちゃうじゃない」

 エルフでも使える能力に限界があるのか、俺も実験で何発撃てるか試した時にぶっ倒れたし…………なら優夜はどうなんだ? 空を覆って広範囲に氷槍を降らせ、防御用に結構な大きさの氷壁の生成、その上この氷槍のガトリング…………。

「能力ってやっぱり力が尽き果てる状態って起こるんですか?」

「あるモノを使えば無くなるのは当然でしょ? 人間の能力者、覚醒者よりもエルフの方が容量は大きい事が多いけれど、使い続ければ疲弊もするわ」

 だとしたら優夜はどうなってるんだよ、覚醒者に成ったばかりの時に空を覆う氷槍生成だけで限界に達して倒れてるのに、今回のは前回より大規模な上にまだ能力を使い続けてるぞ?

「力の容量が増えるって事はありますか? 例えば練度を上げると能力の効果が増したり、使い続けられる回数が増えるとか時間が延びるとか」

「あるわ、でもかなり長期の訓練が必要よ」

 だとしても、王都までの道中で訓練なんてしてない…………ならこれはどういう事なんだ? なんで急にここまでの力を付けた? 魔物の影響か? だとしたら優夜に電池切れは起こらないのか?


「姫様、優夜の後ろに移動したいんですけどお願いできますか? 後を取って速攻で感電させます」

「出来るけど、失敗したら氷漬けか氷槍で串刺しにされるわよ? たぶん」

「このままここに居続けても串刺しにはなりそうですけどね」

 さっきから岩が少しずつ削れていって、氷と一緒に破片が降って来る。岩を削る硬度がある氷ってどうなんだ? まぁ当たれば確実に串刺しは免れないな。

「確かにじっとしていても仕方ないわね、しっかりやりなさいよ? 結果次第では婿候補にしてあげるわ」

「遠慮します」

「なっ、なんでよ~? 姫の提案を断るってどういう事よー! それとさっきもまた姫様って言ったわね、名前で呼びなさいって言ったでしょ」

「ほんにゃのんひなこほいっへるふぁはいじゃないれしょ」

 グイグイ両頬を引っ張られる。リオにもよくやられるし…………流行ってんの?

「あらやだ、結構いい触り心地」

 暢気な…………。

「ふうひんへきまみょるんじゃにゃはったんじゃんれふか?」

「そうよ、こんな事して遊んでる場合じゃないわね、終わった後で遊ばせてもらうわ」

 結局遊ぶんかい…………。

「じゃあ行くわよ」

 姫様が斬った裂け目に入って優夜の後ろに出た。まだ俺たちが岩の後ろに居ると思って乱射をしていてこっちには気付いてない、今の内に気絶させる! しばらく寝てろ――。

「優夜後ろ!」

「! 卑怯者がぁあああ! っ!? がぁあああああ!」

「きゃぁあああああ!」

「っ!? うぅ、くっそ、あいつ無茶苦茶だ」

 電撃を撃とうと、優夜へ手を伸ばしたのを瑞原が気付いて叫んだのと同時に優夜から冷気が噴き出してきて、伸ばした右手が凍り付いてしまった。冷気に気付いて避けようとした時には遅かった、全身が凍る前に避けられたから良かった、とするべきか、警戒が足りてない間抜け、とするか…………一応電撃は当てたし成功って事で良しとするか。


「ワタル! 無事――あなた手が!?」

 姫様は上手く回避してたみたいで外傷は見られない。やっぱり俺って間抜けなのかも…………。

「あ~、一応無事です」

 左手で短剣を抜いて電気を流して、電熱を発生させて面の部分を右手に当てる、これで解凍出来て元に戻ってくれればいいんだけど…………凍傷で右手が壊死して腐り落ちるとか考えたくない、確か急激に温めたら駄目なんだよな、少しずつ、ゆっくり…………。

「そんな解凍作業を、僕が、黙って見てると、思ってるの? さっさとお前たちを殺して、封印石を壊さないといけないんだ! 大人しく死んでよ」

 そんな簡単に死んでやれるかよ……って、気絶してない!? 見知った人間に撃つって事にビビッて必要以上に抑え過ぎたらしい。でも感電の効果はあったようで優夜は膝を突いた状態から動けない様だ。それに瑞原は倒れている…………? 倒れてる? なんで? 俺は優夜しか狙ってないぞ?

 まあいい、もう一度撃って次で確実に気絶させる! っ!? やっぱり氷壁の生成速度もかなり速い、こっちが電撃を撃った次の瞬間には壁が出来てる。あの状態でもお構いなしか。

「なんでお前が航と同じ能力を持ってるんだ!? それにそっちの奴だってこの世界の人間のはずなのになんであんな能力が…………? どうなってるんだよ!?」

 混乱した優夜が無茶苦茶に冷気を放ち、氷槍を生成し始めた。周囲の物は凍り、貫かれていく。俺たちは回避しながら、またさっきの岩の裏へ逃げ込んだ。

「ワタル、あっちの倒れてる女の子を狙いなさい」

 は? なんで瑞原? 連れて戻る為に大人しくさせる必要はあるけど何の力もない瑞原は後回しで問題ないはずなのに。

「なんで瑞原を? あいつは覚醒者じゃないですよ?」

「いいえ、あの娘も覚醒者のはずよ、恐らく触れている相手の能力を強化、増幅させる能力だと思うわ、だからあっちの氷の子の力が衰えないの」

 っ! 岩陰から優夜たちを窺うと、確かに優夜と瑞原は手を繋いでいる。

「急に強くなったと思ったらチートだったのかよ」

 優夜が能力を使い続けているから、倒れてはいても瑞原も気絶してないんだ。

「? ちーと、ってなに?」

「あぁ~、ズルとかインチキって事です」

 にしても、いつの間に瑞原まで覚醒者になってたんだ? これも魔物に影響されての事なのか?


 表面は解凍出来たけど、手の感覚が曖昧だな、利き手をやられたのは痛い。大分解凍出来たから腐り落ちる様な事はないと思うけど、当分上手く動かせないかもしれない。

 ん? 急に辺りが暗くなった、一体何が――っ!? また空を覆う氷槍かよ、まだこれだけの事が出来るのか…………。

「っ! 姫様! 封印石の上に向かって俺をブン投げてください」

「え?」

「早く!」

「ああ、もう! どうなっても知らないわ、よ! あと姫様って呼ぶなー!」

 姫様に投げ飛ばされて封印石の上に乗った。

「全部壊れろぉおおおー!」

 封印石に乗ったのと同時に優夜がまた氷槍を降らせ始めた。

 っとにめんどくせー! 身体全体から電撃を放って封印石上空の氷槍を消滅させた。また広範囲に降り注いでる、姫様は自分の身は自分で守れるだろうけど、ここ以外の封印石はどうなってるんだ? っ!? 嫌な予感がする、ここに居たらヤバいと、早く逃げろと脳がガンガン命令してくる。遠くに見える黒い山との間の空間に亀裂が見える。もしかしなくても他の封印石が壊されたんだろう、後はここが壊されたら魔物が解き放たれるのか?


「っ!? ワタル! 殺さないなんて悠長な事を言ってる時間は無くなったわ! この子たちは全力で排除します」

 姫様は言い終わる前には動き始めていて、気付いた時には優夜たちの後ろに回り込んでいた。能力を使ってなくてもやっぱり凄い。

「ちょっ、待っ――」

「させるもんかぁあああああああ!」

「くっ、本当に無茶苦茶な能力ね」

 姫様が優夜の首を斬り落とそうと剣を振ろうとしたところで、優夜から噴き出した冷気に阻まれてしまっていた。回避はギリギリ間に合ったみたいで、身体を凍らされてはいないみたいだ。

 もう殺すしかないのか? もう悩んでる時間が無いのは分かってる、決めないといけないんだ。優夜たちを殺すか、この世界の安全か、を決め――っ!? 黒い山の方角から嫌な気配が一気に噴き出してくる、さっきの亀裂が大きくなってる、もう選ぶ時間もないのか?

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