搭乗は可? 不可?

「もさもさもさ~」

『きゅぅ~きゅぅ~きゅぅ~』

 ゲルト達の縄張りに向かう途中、フィオがもさを頭に乗せてご機嫌な様子。

「ちょっとあんた、あれどうするのよ? あの娘もさの事物凄く気に入っちゃってるじゃない、献上品にするんでしょ、マズいんじゃないの?」

 確かにマズい、でもどうするんだ? フィオからもさを取り上げるのか? なんか苛めてるみたいで可哀想…………。

「あれってフィオちゃんの為に捕まえたんじゃなかったんですね。フィオちゃんがワタルがくれたって言ってたから、私はてっきりワタルがプレゼントしたんだと思ってました」

 くれたって…………持ってろとは言ったけど遣るとは言ってないかったよな?

「あの状態を見ると取り上げるのは可哀想だよねぇ~、ロリコンがややこしい事するから」

 瑞原にジト目で見られる。俺のせいじゃないだろ、最近誰かからジト目で見られる頻度が高い気がするんですが…………。

「でもあれを献上品にするんでしょ? なら取り上げないと駄目なんじゃない?」

「よし優夜、お前に任せた、俺には無理だ」

 優夜に丸投げして肩を叩く。

「ええ!? 僕ヤダよ、あんなに嬉しそうにしてる娘からペットを取り上げる役なんて」

 そうなのだ、普段表情をあまり変えないのに今のフィオは凄く嬉しそうにしてるのだ。それなのに取り上げるとか俺も嫌だ。

「なに優夜に丸投げしてるのよ、あんたが勘違いさせたんだからあんたがやりなさいよ」

「いや、だってあれ…………」

「もさもさ~」

『きゅぅ~きゅぅ~』

「滅茶苦茶懐いてるわね」

 そう、それも問題だ。フィオの呼び掛けに反応してもさも返事をして、もさもさ尻尾を振って機嫌がいい様子なのだ。あれって今から別の飼い主に懐いたりするんだろうか?


「フィオ~、もさの事気に入ってる?」

「…………別に」

 上機嫌なのを知られるのが恥ずかしいのか、返事をしたらすぐにそっぽを向いてしまう。ダメだあれ、取り上げるの無理、少なくとも俺はやりたくない…………。

「どうすんのよ?」

 やたら紅月が聞いてくる、この世界の『人間』であるリオとフィオを避けてる感じだったのに、今の感じは妹を心配してる姉みたい……多少は打ち解けたんだろうか?

「どうするって言われてもなぁ、あれはもう取り上げれないだろ。俺はやりたくないぞ?」

「なら、どうするのよ?」

「もう一匹捜すとか?」

「出来るの? もさだって捜して見つけたんじゃなくて単なる棚牡丹ラッキーだったじゃない」

「うっ…………」

 確かに捜していない、だからどこを捜せばいいとかもよく分かってない。もう一回降って来ないかなぁ、ってそんな都合のいい事が何度も起こるはずもなく。


「ナハト、ゲルト達の縄張りに着いたらもう一回カーバンクル捜しがしたいんだけど」

「? 何故だ? カーバンクルは珍しいから一匹いれば充分だと思うぞ? それにそう簡単に捕まえられる物じゃない、もさは運が良かったというか、変わった個体だ。変わった性格をしているから偶々捕まえられただけだ、普通は見つけるのも苦労するはずだからな」

「でも、その……もさをフィオから取り上げるのはちょっと無理だ。だからどうにかもう一匹捜さないと献上品が無くなる」

 フィオから取り上げるのは諦めた。今まで楽しい事なんて殆どなかったであろうフィオがあんなに楽しそうにしてるのを壊す様な事は俺には出来ない。ならもう一匹用意するしか方法はない。

「確かに気に入っている様だし、もさの方も懐いている様だが……元々献上品にする為にワタルが捕まえたのだから返してもらえばいいじゃないか」

「それはしたくないというか……出来ないといか……楽しそうにしてるフィオの邪魔をしたくない」

「まさか……父様が言っていたがワタルは本当に小さい娘が好きなのか?」

 族長め、なに娘に要らん誤情報与えてんだよ!

「そういう理由じゃない…………」

「本当か? 私が小さくなれば受け入れてくれるとかはないか?」

「ないない」

 ロリコンが定着していく…………。

「少し捜す程度ならいいが、そのくらいだと見つからないと思うぞ?」

 だよなぁ、俺だってもう一匹捕まえられるとは思えない。

「もさをフィオのものにして宝石だけを貰えばいいのではないか?」

 紅月と瑞原、それと今はフィオにも睨まれそうな選択肢だな、捜して見つからなかったら最悪それを実行するか、フィオも宝石には興味無いだろうし。


『来たか、人数が増えているな、まぁいいが。単刀直入に結果だけ伝えるぞ、お前たちを運んでやるのは無理だ。興味を持つ者も居たが反対する者が多すぎるのだ』

 やっぱり駄目だったか、最初に乗せてもらえたのはかなりのラッキーだったんだな。

「ゲルト、どうしても無理なのか?」

『無理だな』

「あ~あ、僕も乗ってみたかったなぁ」

「そんな事より歩きで旅しないといけないとか最悪~、なんでこの世界電車もバスもないの~」

「この大陸に来る前だって歩きだったじゃない」

「でも脱走の時は馬車に乗れたじゃん~」

 紅月は期待してなかったのか冷めた反応だけど、優夜と瑞原がブーブー言っている。俺ももう一回乗せてもらいたかったけど、あまり期待はしてなかったから特に不満には思わない。この世界に来てからは移動は殆ど自分の足だったんだから、今更歩きだと言われても当たり前だとしか思えない。

「そうか、無理を言ってすまなかった。という訳だ、悪いが皆歩きだ」

『ええ~』

 やっぱり優夜と瑞原がぶう垂れている。

『悪かったな、代わりにこれを遣る、持って行け』

 ゲルトが銜えていた何かをこちらに向かって放った。なんだこれ? 石? ってこれもさが額に付けてるのと同じ石!? それが三つも…………。

『お前たちが帰った後に見つけたから採っておいた。ナハトが負けた祝いだ』

「ゲルト……気が早いな! 私たちはまだ結婚していないのだぞ」

 結婚すると認識されてるのが嬉しいのか、ナハトははにかんで頬を染めもじもじしている。

「俺結婚する気ないんですけど…………」

『ふん、なら必死で逃げるんだな、ナハトは言い出したら他の者の意見を聞かぬししつこいぞ? お前が逃げ切れるとは思えんがな』

 逃げてもこの世界じゃ見つかるよ、既に俺の居場所の分かる地図を作られてるんだから…………。

「にしても三つって凄いですね。カーバンクルを捕まえるのは面倒だ、って言ってたのに」

『お前たちがやるには、という意味でだ。俺に掛かれば容易い事だ』

 流石長、おかげで献上品が出来た……って駄目だろ、これはゲルトからナハトへの贈り物だし。

「良かったな、捜す手間が省けて」

「あ、うん…………てかこれを献上品にしていいの? ゲルトからナハトへの祝いだろ?」

「『私たち』への祝いだからな、ワタルがそう使いたいならそれで構わない」

 私たちを強調して言われた。う~む、逃げれるのかなぁ? 逃げれないとしても俺が受け入れるとは考えにくい、この先どうなるのか…………。

「なら一つだけ貰うよ。残りはナハトに渡しとくよ」

「ふむ、そうか、なら私が預かっておこう」


「ねぇーさっさと行こうよ! 歩きならさっさと行かないと日が暮れちゃうんじゃない? 僕あまり野宿とかしたくないんだけど」

「あー、私もしたくない、森で野宿した時にでっかいゴキブリ出たし」

 瑞原たちも見ていたか、嫌だよなぁ、あれ……思い出したら気持ち悪くなってきた。

『ナハト、道中気を付けろ、最近封印から逃れた魔物どもが騒がしい』

「封印から逃れたと言っても多すぎて封印出来なかった雑魚が繁殖した物だ、そんな物に私がどうにかされると思うのか? そんな風に言われるのは心外だぞ、それにワタルも居るのだ、何が起こっても問題ない。いや、むしろ起こってくれた方が面白いかもしれない」

 俺は何も起こらない方が良いんだが、力を認めてもらえるのは嬉しいけど確実に過大評価だ。

『だと、いいがな』

 その言い方止めてくれ、フラグっぽくて嫌だ。


「この青い点がミンクシィなんだよな?」

「ああ、そして目的地が黄色い点の王都だ」

「ならピンクの点は? それとこの黒くなってる土地ってなんなの? 魔物が封印されてる場所って言われてるって聞いたけど、ホント?」

 ホントだとしたら夥しい数の魔物が居るって事だよな、ほぼ大陸の半分が黒くなっているし。王都がこの黒い場所に近いのは意味があるんだろうか?

「ピンクの点は主な村だな、今日の目標は今日中にミンクシィの隣に位置している村に行き着く事だ。他には小さい集落が幾つかあるが地図には載っていない。そして確かに黒くなっている土地は魔物が封印されている場所だ。大陸半分位を使っているがこれでも押し込めた方らしい、世界中の魔物がここに封じられているのだからな、それでも封印から逃れた物が居て、その一つがワタル達が海岸で見たハルピュイアだ」

 世界中の魔物がこの黒い土地に…………悍ましい光景だろうな。

「なんでわざわざ黒い土地の近くに王都があるんだ? それに封印から逃れた魔物を狩ったりしないのか? せっかく封印してあるのに、漏れた奴らが繁殖したら意味ないんじゃないのか?」

「封印の土地に王都が近いのは封印の監視の役も担っているからだ。逃れている物を狩らないのは面倒だからだな、雑魚だから私たちと普通に戦っても奴らに勝ち目はない、それくらいは奴らも知っているから襲ってくる事も無いしな、それに始末した後の人攫いの処理をしてくれるから放置しているんだ」

 魔物が死体処理をしているのか、喰われた奴らは気の毒だな。あいつらだって自分の意志で人攫いをやってるわけじゃないだろうに、上が無茶苦茶だと下にいる者はかなり辛い立場になる。

 嫌な国の人間といえど、流石に殺した人間を魔物の餌にしているという事実に全員が顔を顰めている。聞いていて気分のいい話でもないしな。


「ねぇ、あのハルピュイアって言うのはどうやって繁殖してるの? 僕が見たのは雌っぽいのだけだったんだけど」

 んな話突っ込んで聴くなよ、あれの繁殖方法なんて知りたくないぞ。

「ああ、あれは生きた人攫いも攫って行っただろう? あれの種を使っているんだろう」

『え゛!?』

 ナハト以外全員驚愕、あの魔物って人間と混血なのか…………? 吐き気がしてきた。

「それ本当なの? あんな化け物にあたし達日本人の血も流れているの?」

 紅月も聞くなよ、考えたくなかった事を口に出されて日本人組が固まった。

「混血と言うのとは少し違うんじゃないかと思うが、あれは雌しか居ないから他の生き物の種を使っている様なのだが、繁殖の切っ掛け程度のものなんじゃないかと考えられている。姿形はあれしか見た事がないからな、他の生き物が混ざった様な姿をした物を見たと言う者も居ないし」

 だとしても気持ち悪い、生きたまま攫われた者はそういう目的で攫われて、終われば喰われるんだろうか? おえぇぇ、気色わりぃ、カマキリみたいだ。

「どちらにしても不快な事実ね」

 全くその通り…………攫われた奴ら、憐れだ。

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