リオ先生?

 読んでくださりありがとうございます。

 本文の前に一つだけ留意点、というかお知らせがあります。

 この話では地図についての会話があるのですが、元々別サイトに投稿していて、そこには挿絵機能があったので挿絵での地図表示ありきで書いてしまっているのですが、カクヨムには挿絵が入れられないので、地図が気になる方は他サイトもしくは『みてみん、ヴァーンシア』で検索してみてください。

 この先も地図に関する話が出る事があります。

 お手数をおかけして申し訳ございません。





 港を出て二日目、紅月の調子が頗る悪い。何度か吐き、食事も水分も摂れていない状態だ。優夜たちは楽になったと言っていたから紅月にも効果があるだろうと、マッサージをしようとしたら「必要ない」と言われ、近付けば燃やすと言わんばかりの目で睨まれた。自分が人に好かれる様な人柄でない事は自覚しているが、ここまで拒絶されると結構へこむ、元々こういうのに打たれ強くない上に、人付き合いを最近まで絶っていたからかなり精神的にくるものがある。


 優夜は痛みの刺激で多少は気分の悪さが軽減出来ているらしく少しだが食事をする事も出来たしマッサージをしてやれば気分も改善されてはいるらしい。

 瑞原はマッサージが効いたのか、適応力が高かったのか、今は殆ど気分の悪さは無いらしく、スマホにイヤホンを繋いで音楽を聴きながらごろごろしている。この世界に来てからずっと一緒だったであろう紅月が苦しんでいるのに暢気なものである。ちなみに瑞原なら邪険にしないだろうと、紅月のマッサージをさせてみたが効果はなかったようだ。

 別の大陸までどの位の日数が掛かるのかが分からない以上紅月の状態を少しでも改善してやりたいが、俺が近付けば睨むし、他にそれらしい事を思いつかないので手詰まり状態だ。

「リオは船酔いの対処法なんて分からないよな?」

 少しリオとの間を空けて隣に座り込みながら聴いてみる。知っていれば紅月が嫌がってもリオなら何かしてそうだから知らないんだとは思うけど、ダメ元で聴いてみた。

「ごめんなさい、私も何かしてあげたいんですけど…………」

「あ、いや、別に謝る事じゃないって、誰も悪くないし。にしても、こいつはよく寝るなぁ」

 話題を変えようとリオの膝で眠り続けるフィオの事へ水を向ける。もう丸一日以上眠り続けてる。

「フィオちゃん頑張ってくれましたから」

 それはそうだが、睡眠時間としてはどうなんだろう? 寝過ぎで脳が死んだりしないのか?


「それにしても寝過ぎだし、なんか食べた方がいいと思うんだけどな」

「あ~、そういえば僕、寝過ぎると脳が衰えるって話を聞いた事があるよ」

 話を聞いてた優夜が近付いてきた。

「それ、マジ?」

「うん、それにしてもよく寝るねぇこの娘、僕は気分悪くてあんまり寝られないのに」

 そう言ってフィオの頬を突きだした。

「おぉ、これは凄いかも、航が言ってたのも納得…………ええっと、なんだったかなぁ、寝過ぎてる人と普通の睡眠時間の人とだと認知テストの結果が寝過ぎてる人の方が悪くなってて、寝過ぎだと体内時計が狂ってホルモン分泌がおかしくなって生活習慣病になりやすくなる、だったかなぁ、たぶん。うわっ、これ本当にやわすべ、子供の肌って凄いなぁ」

 寝過ぎっていい事ないじゃん…………引きこもってた間俺も結構寝ていた、俺、もう脳が死んでんじゃないの? フィオも訓練以外では寝てるって言ってたし、このままだとヤバいんじゃ…………?

「そういえば優夜って何歳だ?」

 俺は高校生くらいだと思ってたけど確認はしてない。

「僕? 十七だよ。航は?」

 十七…………。

「俺は二十四」

「あれ? 七つも違ったんだ。二、三歳違うくらいだと思ってたけど、結構違うんだね」

「ちなみに今お前が突いてるやつは十八だからな」

「確かにこれは癖に――って、え!? い!?」

 フィオの頬を突いていた優夜の指が噛まれたのに気付いて慌てて優夜の口を塞いだ。

「アホ、叫ぶな、そんな事したら一発で見つかる」

「だって滅茶苦茶痛いって」

「突いてたお前が悪い」

 俺も前に噛まれたし、だから寝てる時にはあまり触れない。

「うぅ、あ! でも気持ち悪いのが更に薄れたかも」

「そりゃよかったな、もっと噛んでもらえば?」

「い、いや、遠慮しておく、それにしてもこの娘が年上だったなんて…………」

 船尾側に戻って瑞原の様に音楽を聴きながらごろごろし始めた。


 …………密航者ってこんな感じでいいんだろうか? ここから出るわけにはいかないし、出来る事があるわけでもないから騒がなければ何しててもいいんだけど、なんかなぁ、緊張感がないというか…………まぁいい、とりあえずフィオを起こそう、寝過ぎはよくないし、何か食わさないと。

「おい、フィオ、起きろー、お前もう丸一日寝てるぞー」

「起こすんですか?」

「動き続けて疲れたのも分かるけど、丸一日寝たら充分だろ、それに何か食べた方が良いだろうし」

 噛まれないように、突くんじゃなく摘んで引っ張る。本当にやわすべだな、引っ張ってぐにぐにしてみるが起きやしない、充分寝ただろうに、こいつはどうなってるんだ?

「もう少し寝かせてあげてもいいんじゃないですか?」

 母親が子供を慈しむ様な感じでフィオの頭を撫でながらリオがそう言う。

「甘いよお母さん」

「お母さん?」

 ヤバ、口に出してた。

「あ~、フィオの頭を撫でてるリオが子供を慈しんでる母親みたいに見えたからつい…………」

 うわ~気まずい、まだ二十歳のリオに母親って…………ちょっと失礼だな。

「ふふふ、姉妹じゃなくて親子ですか?」

「あ~、うん、俺兄弟いないから親子って印象だった」

「でも私、まだそんな歳じゃないですよ」

 ですよねー。年齢だけならフィオとは二つしか違わないんだから姉妹の方が正しいんだが、フィオがチビ過ぎて…………。

「あら、フィオちゃんおはようございます」

 気付けばフィオが起きてこっちを睨んでいる。まさか寝てても察知するのか? お前は。

「は、腹空いてないか? お前一日中寝てたんだぞ」

「食べる」

 パンと干し肉を渡すともそもそと食べ始めた。どんどん詰め込むもんだからリスとかハムスターみたいになってる。

「そういえばフィオは気分悪かったりしないか?」

「? なんで気分が悪くなるの?」

 こいつは平気そうだ。超人だしな、船酔いになんかならないか。

「船の揺れのせいで体調が悪くなる事があるんだよ。紅月はそれで今死んでる、優夜と瑞原はマシになったみたいだけどな」

「ふ~ん」

 全く興味なさそう、少しくらい心配してやっても…………無理か、会って間もないんだし、元々他人に興味もなさそうだもんな。

「なぁフィオ、どの位で別の大陸に着くか分からないか?」

 せめて後何日か分かっていれば紅月の気分も違うかもしれない。

「ふへにのふのなんへはひめてだはらわふぁらなひ」

 答えるのは口の中の物を飲みこんでからでいいよ…………口をもごもごさせながらフィオが荷物を漁り始めて、なにか取り出した。なんだあれ、紙?

「なんだそれ」

「ちぶ」

「は? …………一先ず口の中の物を食い終われ」

「ん」

 変な単語に聞こえてしまった…………フィオがもごもごしてる間に紙を見る。これって地図だよな、世界地図? 前にリオが描いてくれたのに似てるし。大雑把な地図だなぁ、世界地図だとしたらしょうがないのか? 地図の所々に赤い点と黄色い点がある、なんの印だ? ん? この赤い点だけ黒丸で囲ってある。

「その黒丸の所が私たちが船に乗り込んだ港、赤い点は港で黄色いのは王都」

「ほ~、なら一番北の大陸に近い港から出たのか」

「そう」

 北の大陸のどこに向かってるのかは分からないけど、北の大陸自体は近いように見える…………見えてもあくまでも地図上だから関係ないか、結局後何日掛かるのか、出来るだけ早く着いてほしい、紅月を見てると流石に気の毒だ。


「せっかく地図があるんだし、他の国の事とか教えてくれよ」

「私はアドラの事しかしらない」

 軍に居て兵士をやってたなら知ってると思ったのに…………。

「なら私が説明しますね、私も人から聞いた程度で詳しくはないですけど少しは分かりますから」

「ああ、よろしく、先生」

「せ、先生ですか? 私も詳しいわけじゃないんですけど…………がんばります。ではまず、この西にある大陸が私たちの居た大陸でアドラ帝国ですね。帝国はワタルたちも知っての通り奴隷制がある国です。悲しい事ですけど異界者を奴隷扱い、奴隷人種と呼ぶ人が多いです。それに昔は他の国の人も奴隷人種としていた事もあって、他国との交流はありますけどあまり上手くはいってないみたいです」

 他国にもそんな感じだったのかよ。こんな国に放り出された俺たちはかなり運がわるいんじゃないか?

「次に地図の中央にある大陸がクロイツ聖王国です。ワタルが行こうとしてた国ですね」

「そうなの?」

「はい、そうですよ。知らずに行こうとしてたんですか?」

 知らずに行こうとしてました。だって他の国の事なんてほぼ知らないもん、クロイツって国が異界者の受け入れに積極的だ、ってのはリオに聞いた覚えがあるんだけど、あの船長がどこの国の人かなんて確認してない、とにかくアドラを出る、って事しか考えてなかった。

「前にも言ったかもしれませんけど、クロイツは異界者の受け入れに最も積極的です。それに魔物封印の際にエルフと一緒に戦った史実もあって他国、南の大陸にある四国とは特に親交が深いそうです。クロイツと南の大陸の四国は同盟を結んでいて、クロイツがまとめ役の様な立場にあるみたいです」

「まとめ役って事は南の四国への影響力も強かったりするの?」

「はい、南の大陸の西と東の端の国ハイランドとバドには昔奴隷制があったそうですけどクロイツの影響を受けて廃止になったくらいに影響力があるんですよ。それにクロイツの働きかけで南の四国、西からハイランド、マーシュ、ドラウト、バトって言うんですけど、この四国も異界者を受け入れてるんですよ」

 奴隷制を廃止させて異界者の受け入れまでさせるなんてかなりの影響力じゃないか、凄く良い国じゃないかよ、クロイツに行きたかった…………。


「あ、それとこのマーシュは前に話したレッサードラゴンを馬代わりに使ってる国ですよ」

「えぇえええー!」

『っ!?』

「航急になに騒いでるの?」

「そうだよ、見つかったらどうすんの!」

 突然の大声に全員びっくりして、瑞原には怒られた。今のお前の声も結構大きかったけどな。

「いや、だって、ドラゴンに乗れる国に行ってみたかった…………」

「え!? そんな国あるの?」

 優夜も興味を惹かれたらしく、こちらにやってくる。

「この国では馬代わりにドラゴンを使ってるらしい」

「へぇ~、なんかファンタジーっぽい感じ、僕も行ってみたかったなぁ」

「だよな、異世界でドラゴンに乗るとかロマンだよなぁ」

 くそぅ、なんでアドラなんかに放り出されたんだよ! 他の国なら渡航とかも出来ただろうに。

「えっと…………続き、いいですか?」

「あ、うん、どうぞ」

 リオ先生の講義は続く。

「次は東の大陸ですけど、東の大陸の北側がディア王国、南側がデュースト王国となってます。元々は一つの国だったそうなんですけど、内乱で二つに分かれてしまったそうです。ディアは他国との交流が殆どなくて、奴隷制がありますけど異界者は見つかり次第処刑されてしまうって聞きました」

 マジかよ…………アドラより酷くね? 知らない場所に放り出されて人里を見つけたら近付いて行くだろ、でもそれで即刻捕まって死刑? アドラでよかったかもしれない、リオに会えたし、日本人の村にも行けた。酷い目にも遭ったけど、なんとか生きてもいる。


「それで、南のデューストですけど、ここも奴隷制があるらしいんですけど、異界者の受け入れもしているらしいんです」

 なんじゃそりゃ? なら何を奴隷にするんだ?

「東の大陸の国は同盟に入ってないの?」

「はい、ディアとデューストは緊張状態にあって、近くの国、バドとクロイツとは不可侵条約を結んでいるそうです」

 緊張状態か、戦争が起こりそうな土地に放り出されなかっただけマシなのかもしれない。

「最後に北の大陸ですけど、ここはクオリア大陸と言われていて、フィオちゃんも言ってましたけど、ここには人間は居なくてエルフと獣人だけが暮らしているって言われてます…………すいません、北の大陸については昔話に出てくる程度なのでこのくらいしか分からないんです」

 少しリオがションボリしてしまった。まぁ普通は行けない土地なんだから情報が無いのが当然だろう、でもこの真っ黒な部分はなんなんだろう?

「この大陸が半分位黒いのはなんでか分からない?」

「それは魔物が封印されている場所だって言われてます。本当の事は分からないんですけどね」

 魔物が封印されている場所…………ファンタジー感が出てきた気もするけど、リオも居るし危険な事は起こらないといいなぁ。

 リオに聞いた国の配置はこうだよな?

 マーシュ、行ってみたかった。

 あぁあああああ! クソッ! あんなタイミングでクラーケンなんかが出て来なければぁああああ! せめて船に乗り込んだ後なら、退治して他国へってなったのにぃ~。

 ドラゴンへの未練でしばらく落ち込むことになった。

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