第53話 乙女が吼える・後編

 『城』の周囲では突然の砲撃によって水面が大いに荒れ、停泊中の艦船が転覆するのではないかというぐらいに揺さぶられていた。さらには大気を焼く様に連射された白亜の閃光は、その衝撃と熱量、はては電磁波かなにかまで発生させたようで、一部の報道ヘリを機能不全に陥れ、『ユノ』はそちらの対応をしてやらなければならなかった。

 電子機器に異常をきたす程の大出力の荷電粒子砲かパルス砲か……昌にしてみればその仕組みはどちらでも構わないのだが、矢継ぎ早に送られてくる報告を聞く限りでは、威力は申し分ないらしい。


「凄まじい火力だな……お爺様が血眼になって探すわけだ」


 送られてくる映像データには『城』の放った閃光が巨大な≪ヴァーミリオン・ソリクト≫を撃沈するものもあった。その周囲に≪アストレア≫と≪ユースティア≫がいたことも確認できていたが、そのことはもはやどうでもよいことだった。こちらに≪ヴァーミリオン≫を近づけさせないように足止めをしてくれればそれでいいとさえ考える。

 それ以上に驚くべきは『城』である。自身が駆る≪ユピテルカイザー≫は現存するマシーンの中では最強と言ってもいいスペックを誇っているという自負もある。この機体であれば敵の戦艦であっても容易に破壊は可能だ。だが、所詮≪ユピテルカイザー≫も一体のマシーン。何十と戦艦が群がっては油断もできない。

 しかし海に浮かぶこの『城』はたった一隻であっても≪ヴァーミリオン≫の艦体と互角以上に渡り合えるのではないかという性能を見せている。内部を調査している部下たちからの報告では『城』はまだその機能の十分の一しか発揮できていないとのことだ。それ以上は解析も調査もできないらしいが、充分すぎる程の性能であることに変わりはない。


「だが、それは敵も同じか……脅威と感じているからこそ、戦艦タイプを連続で繰り出してきたのか……だとすれば敵にも知性はあるということになるな」


 『ユノ』であっても≪ヴァーミリオン≫の全貌は掴みきれていない。祖父、銀郎は何十年も前からその存在を掴み、ここまで準備をしてきたというが、宇宙から攻めてくる化け物という情報以外はさっぱりであった。本拠地はどこにあるのか、知性はあるのか、戦力はいかほどのものか、それらの一切合切は不明で、ただただ敵であるという事実のみが存在する。

 昌たちにしてみれば、敵ということがわかればそれで構わないし、『ユノ』が所有する戦力で十分に対応ができるということがわかればそれで十分であった。細かいことを知りたがるのは科学者連中だが、それらは好きにやっていればいいし、興味のないことだ。

 一部の政財界、軍事企業たちは≪ヴァーミリオン≫の技術を解析して転用しようなどと思っているらしいが、それも好きにすればいい。どうせ、それらの全ては龍常院が管理するわけだし、最悪は『ユノ』の名目で潰すこともできる。


『昌様……』


 サブコクピットにて待機する朱璃から通信が入る。昌が思案にふけっていることに気が付いていたのか、その声はいつもの凛と張ったものではなくどこか清楚で静かなものだった。


「どうしたんだい?」


 昌はそんな気をまわす朱璃に笑みを向けながら、対応した。


『エイレーン各機と蓮司様より通信が……その、戦闘区域へと向かいたいと……』

「あぁ、構わないよ、向かわせやろう」

『良いのですか? こちらの防衛もありますし……』

「貴重な航空戦力だが、まぁキャンキャン騒がれるよりはいいさ。彼らの働く場所も用意してやるのが雇い主の務めでもある」


 苦笑とも微笑ともいえない曖昧な表情を浮かべながら、昌はパネルを操作して各マシーンへの通信を開く。


「ミネルヴァ、エイレーン各機はヴァーミリオン出現地点へ急行。残りはこちらで待機だ。いつ敵が船を狙ってくるともわからないからね」

『了解』


 各機からの声が重なる。

 ≪ミネルヴァ≫と≪エイレーン≫は流石に動きが速い。一瞬にして隊列を組み、あっという間に加速に乗って消えていく。


『私も戦に馳せ参じたいのですが、いかがでしょう?』


 相変わらずマシーンに乗り込む時は鎧兜のようなパイロットスーツを身に着けている蒼雲のよく通る大きな声が送られてくる。


『お兄様のマシーンではたどり着く頃にはすべてが終わっています。ここはフットワークの軽い彼らを差し向けるのが適任かと』

「朱璃の言う通りだよ、蒼雲。確かに君が向かえば片が付くだろうけど、マーウォルスは足が遅い。戦場を行ったり来たりするのは難しいのさ。それに、この場を敵に襲われた時、守りの要であるその機体がいないのでは僕も不安だ」


 ≪マーウォルス≫は飛べないことはないが、空戦が可能な程ではない。なおかつ空の敵に対する手段を持ち合わせていない。水上をホバリングすることぐらいは可能だが、やはりその実力は足場のある戦場でこそ発揮される。

 しかしながら、≪マーウォルス≫の真髄は格闘能力の高さにあるのではない。仮にこの場が新たな≪ヴァーミリオン・ソリクト≫に狙撃された場合の万が一の保険ではある為に過信は禁物だが、≪マーウォルス≫の守りは鉄壁だ。完璧に作動するという前提だが、例え報告にあった海を割る光球であっても≪マーウォルス≫であれば防ぐだろう。

 故にこの場を動かすわけにもいかなかった。

 それに、そろそろ真面目に『世界平和』の為に動かないと風当りも悪くなる。そのあたりを任せるには、蓮司や浩介のような愚直な性格の面々は扱いやすいし、表にも出しやすい。


「世界の平和を守るってのは難しいものだな」


 他人事のように呟きながら、昌は煩わしい外界からの報告をシャットアウトした。

 『城』が手に入った以上はこちらから攻勢に出る事も可能である。『ユノ』の建前を果たすには絶好のチャンスでもあった。


「はてさて、お爺様はどうでるかな?」


 いかに考えを巡らせたところで全ては祖父の考えひとつで簡単に変わってしまう。このまま攻め込むのか、否か。


「まぁいいさ。お爺様の悲願達成に繋がればね。こちらとしても暇つぶしにはなる」


 昌は少年のように笑いながら、ことの成り行きを見守ることにした。


「とばっちりを受けるようで可哀想だが、まぁ家が悪いと思うんだな。真道美李奈」




 ***




「んまぁ! 敵が多すぎるのでなくて!」


 些かヒステリックに陥りながらも、麗美はわらわらと群がる≪ヴァーミリオン≫を的確に撃破し、≪アストレア≫と市街地へと向かわせないように尽力していた。≪ユースティア≫の機動力と遠距離に対応できるウィングキャノンの組み合わせは今、この場においてはスペック以上の活躍を見せている。言ってしまえばたった一人で戦線を維持しているのだから。

 下方では≪アストレア≫が巨大な≪ヴァーミリオン≫と対峙している。その相手は麗美も報告には聞いていたもので、一度は≪アストレア≫を破壊してみせた強敵であるという。で、あるならば即刻援護に向かいたい所だが、それを周りの≪ヴァーミリオン≫たちは許してくれない。


「えぇい! しつこい!」


 眼前に躍り出た一体を瞬断する。続けて真上を取ろうとする別の敵めがけてビームを斉射、二条の閃光が≪ヴァーミリオン≫の頭部と右腕を抉り取っていく。バラバラと破片が雨のように降りかかるが、≪ユースティア≫はそれを払うようにして、機体を高速回転させる。

 紅い竜巻と化した≪ユースティア≫は両腕のブレードを左右に展開し、巨大な回転刃物の如く敵の集団へと突撃する。塊のように群がっていた≪ヴァーミリオン≫たちは一斉にレーザーと発射するが、紅い竜巻はそれらを弾き、一瞬のうちにそれらを粉砕して見せる。爆発の中から躍り出た≪ユースティア≫は一瞬だけその動きを止める。


「うっ……くっ……いかにユースティアのバランサーとショック機能が優秀でも、こうも連続では……」


 戦闘が始まって二時間あまり。この間にも麗美はクロストルネードアタックを十回以上は繰り出している。威力は絶大だが、高速回転させる関係上、機体にかかる負荷は凄まじく、≪ユースティア≫の完成度がいかに高かろうと、蓄積される負荷をなくすことは出来ない。それ以上にパイロットにかかる負担も大きい。コクピット周りに装備された各種安全機能は≪アストレア≫のもの以上であり、回転しようと、ぶつかろうと確実にパイロットを守る。だが、それでも完璧に衝撃を殺すことはできずに、こちらも疲労という形でパイロットに蓄積するのだ。

 麗美は、はっきりと言えばそこまで体力のある少女ではない。マシーンに乗って戦う中で、いくつものアシストを受けてやっと戦場に立てているのが事実だ。この長時間の戦闘で、気を失っていないことを誉めてあげてもいいぐらいに彼女は死力を尽くしていた。

 時折、遥か彼方よりビームが殺到してきた為にこれでもずいぶんと敵の数が減った方だと思う。そのビームも気が付けば途絶えているし、改めて敵の総数を確認すればもう途中で数えるが面倒になる程だ。


「センサーに反応、新手!?」


 アラートが鳴ったようだが、疲労の為かほんのわずかに反応が遅れてしまう。熱源が自身の周りに飛来しているのがわかった時には、麗美はまだ動けずにいた。


「……!」


 が、その熱源は≪ユースティア≫のすぐ横を通り過ぎて、接近をしかけていた≪ヴァーミリオン≫を撃破する。


『於呂ヶ崎麗美嬢とお見受けする!』


 五つの戦闘機が≪ユースティア≫の横をかすめていく。


「あれは、エイレーン……?」

『こちらはユノの宮本浩介であります。今よりそちらを援護します!』

「浩介……お兄様の上官様!」

『今はどういうわけか上司と部下の立場じゃないのでね!』


 浩介の名は何度も聞いている。自衛隊時代の鬼教官、鬼隊長であると。どんな人かと思っていたが、このように言葉を交わす中では礼儀正しいおじさまではないか、と麗美は思った。


『ヒュー! これがトップガンの婚約者ですかい!』


 別の回線から訛った日本語が聞こえてくる。その画面にはアメリカの軍人らしい金髪の男がいた。気が付けば五つの顔がモニターの端に映し出されている。


『自分はレスターと申します。レディ、以後お見知りおきを!』

『レスターさん、そういう趣味なんすか?』


 金髪のレスターがウィンクを送ってくる。そのレスターに呆れたように返すのは日本人だった。


『俺はフェミニストだぜ? レディに優しくは基本だ。東もそうしておけよ』

『東は所謂草食系ですから』

『なんだとマーシィ!』


 日本人パイロットの東はマーシィと呼ばれた南米風の男に食って掛かっていた。

 そんな彼らに対して咳払いをしながら呆れた表情を向けたアジア風の隊員が口を開く。


『あーそろそろ隊長の雷が落ちますよ君たち』

『ハンのいう通りだ! 貴様ら、撃墜されても知らんからな!』


 浩介の号令の下、五機の≪エイレーン≫はミサイルをばらまく。自動追尾で四方八方へと変則的に飛び散っていくミサイルは無数の爆光を咲かせた。


『よぉし、各機、自由戦闘。下の空の敵は我々で殲滅する!』


 機首のレーザー、上部のビームキャノンが夜の空に煌く。五機の≪エイレーン≫は≪ヴァーミリオン≫たちの合間を潜り抜け、その懐へと攻撃を叩き込む。速度はそのまま、しかしながら巧みな機動は≪ヴァーミリオン≫を翻弄し、反撃の隙間も与えなかった。


「あのお方たちがいるということは……!」


 麗美はめぐるましく、周囲を探った。不意に視界の下方に銀色の光を確認した。


「お兄様……!」


 ≪アストレア≫と巨大な≪ヴァーミリオン≫の近く、≪ミネルヴァ≫がいる。その一瞬、麗美は通信を送ろうとしたが、迷った。


「いえ、いいわ。来てくださっただけでも、良いということにしましょう……私はまだ、許していませんからね!」


 どうせ来るならこっちに来て助けにくればいいのに。僅かにそんな不満を抱きながらも麗美は呼吸を整えて、再び戦場へと舞い戻る。

 向うから謝るまで絶対に許さない。麗美は一度決めたらとことんなのだから。




 ***




 ≪アストレア≫は再びアストライアーブレードを振り上げ、巨大な≪ヴァーミリオン≫へと果敢に接近する。それでも正面ではなく、小刻みにスラスターを点火、軌道を変えながらの接近であった。

 対する≪ヴァーミリオン≫は巨体を震わせ、触手を振り回すということで対応してくる。その単純な行動は、しかし巨体というアドバンテージが脅威へと変える。一撃が≪アストレア≫に大きなダメージを負わせるその動きは、どうしても接近を鈍らせる。


「蝶のように……とはいきませんわね」

『シンプルイズベスト。こういう巨大で堅牢で暴れるだけの存在は対応が難しいですね。遠距離から蜂の巣にできればどれほど楽か……』

「無理なことを口にするものではなくてよセバスチャン。それで通じるなら、お爺様はアストレアなど作らないはずだもの」

『左様でございますな。ですが、アストレアでも些か厳しいのも事実……さて、どう攻めたものか』


 主従は冗談を言いあうが、それは苦しみを和らげるためだ。実際は手詰まりであり、焦りもある。今の所、巨大な≪ヴァーミリオン≫は敵意を≪アストレア≫に向けている。市街地へと向かう気配はないが、これがいつ気まぐれで変わるのもわからない。


「突破口は見えているのに、口惜しいですわね。あと一手、欲しい所ですけど……」

『ふむ……その一手になりえますかな?』


 二人はセンサーに新たな反応が示されると同時に頭上を見る。銀色の巨人が闇夜にその体を煌かせながら降り立っていた。それはいずや見た≪ミネルヴァ≫である。白銀の≪ユースティア≫とでもいう程に瓜二つなマシーンは両腕のブレードをウィングキャノンを≪ヴァーミリオン≫へと向けていた。


「ごきげんよう、蓮司様」

『……あぁ。援護する』


 蓮司はぶっきらぼうな返事を返してきた。取り敢えず敵対の意志はないらしい。


「あら、どういう風の吹きまわしかしら?」


 美李奈は皮肉たっぷりに返してやった。ちょっとした仕返しである。


『市民が危機にあるというのならば、それを救うのが我々の使命だ。俺はそれを遂行するまでだ』

「なる程……では、今はその言葉を信じましょう」


 まぁ及第点と言ったところか。美李奈はフッと笑みを浮かべて画面に映る血気盛んな青年へと視線を向けた。蓮司は視線をそらし、急ぐように通信画面を切ってしまう。


「と、言うことよセバスチャン。連携、取れますわね?」

『ハッ、お任せを』


 再び≪アストレア≫が剣を構え、突撃する。≪ヴァーミリオン≫はその猪突の如き接近をあざ笑うように二本の触手を振り回す。

 が、頭部に無数のビームの掃射を受けてしまい、わずかに動作にブレが生じ、触手は見当違いな方向へと振り下ろされる。


『ミネルヴァの機動性ならば!』


 ≪ミネルヴァ≫はビームを斉射しながら、一直線に≪ヴァーミリオン≫の正面へと降り立つ。爆炎が張れ、空洞のような目が≪ミネルヴァ≫を睨みつけていた。

 ≪ヴァーミリオン≫が鳥の骨のような頭を震わせ、プレス機のような嘴を開き、かみ砕こうと首を伸ばす。

 しかし、その緩慢な動きでは≪ミネルヴァ≫を捉えることは出来ない。≪ミネルヴァ≫は流れるように機体を左へと移動させ、がら空きになった首の付け根へと両腕の剣を振り下ろす。剣は鈍い音を立て、弾かれるだけに終わる。だが、それでいい。≪ミネルヴァ≫の役割は挑発だ。攻撃は通じないにしても≪ヴァーミリオン≫の周囲を飛び回り、注意をそらすこと。

 その誘いにまんまと乗った≪ヴァーミリオン≫は狂ったように首を振り回し、新たな敵影めがけて触手を振るった。しかし、捉えることは出来ない。その間にも≪ミネルヴァ≫の攻撃は各所に繰り出される。



「お見事!」


 ≪ミネルヴァ≫に翻弄される≪ヴァーミリオン≫の姿は隙だらけである。それであっても巨体と触手が振り回されている点については注意が必要であった。不規則な動きはこちらの予想と反した動きを見せるものである。

 さらに言えば≪ヴァーミリオン≫が光弾を放つようなことになればそれこそ市街地への被害が生じてしまう。≪ミネルヴァ≫はそうならないように≪ヴァーミリオン≫の視線を空に向けるように動いてくれてはいるのだが……


「セバスチャン、出力調整はいかがかしら?」

『万事万端、いつでも最大出力で行けます。ですが、一回限りと心得てください』


 エネルギーを酷使しすぎたらしい。

 だが、美李奈は不敵に笑った。


「十分よ」


 そう十分だ。それは過信ではない。必然的な自信である。穿つべきは敵の右肩付け根。本能の赴くままに暴れているように見える≪ヴァーミリオン≫ではあるが、損傷個所を防ごうとする防衛行動はつまり、そこがウィークポイントとなることを示している。そこに最大出力のアストライアーブレードを叩き込む。

 これはかつてのリベンジである。それにここでこの敵を倒さねば街が危うい。

 ならばこそ、やってのけなければならない。

 美李奈はアームレバーを握り直した。動きを見極めろ。≪アストレア≫の加速でたどり着く一瞬の隙を見つけるのだ。

 ≪ミネルヴァ≫がビームを放ちながら上空へと退避する。≪ヴァーミリオン≫が首を伸ばし、それを追いかける。触手が空へと向けられる。


『今です!』

「ハァッ!」


 美李奈は踏み込む。爆発的な加速が体を後ろへと投げ飛ばすが、それでも美李奈は前のめりに体を押し上げる。≪アストレア≫の青い体が閃光の如く闇夜を斬り裂く。

 黄金の刀身が煌いた。


「天の光よ! 貫け!」


 ≪ヴァーミリオン≫が接近に気が付く。反撃の触手を振り下ろそうとするが、既に上空へと伸ばしきった触手を戻す時間はない。

 黄金の刀身が赤き悪魔の肩口へと突き刺さる。根元まで突き刺さったアストライアーブレード。≪アストレア≫の動力炉が轟き、それは咆哮となった。

 そして……黄金の光が≪ヴァーミリオン≫の肉体を内側から斬り裂くように、溢れる。苦痛から逃れるように、首が伸ばされ、絶叫が漏れる。黄金の光が≪ヴァーミリオン≫の口中と空洞のような瞳から漏れた瞬間、その巨体は一瞬だけ膨れあがり、爆発をひこ起こす。その衝撃は上空にて戦闘を続けていた≪ユースティア≫たちにも届き、山肌を焼き、大地を抉った。朝焼けにも似た爆光の中、悠然と立つ影が浮かび上がる。

 黄金の剣を構え、何人にも侵されることない清浄なる青き輝きを放つ≪アストレア≫がそこにはいた。

 爆光はすぐに収まる。≪アストレア≫は剣を払い、地面へと突き刺した。


「……」


 コクピットの中、美李奈は神妙な面持ちで黙っている。が、すぐに大きく息を吐いて、座席にもたれ掛かった。


「ちょ、ちょっと驚きましたわね……」

『はい……アストレア、機能不全。エネルギー切れですし、表面装甲が少し溶けましたね』


 損害を知らせる表示がいくつもモニターに浮かぶ。アラートは相変わらずうるさい。

 だが、巨大な影はもうそこにはいない。空の敵も≪ユースティア≫たちが撃破したのか、反応は消失してる。聞こえるのはマシーンのエンジン音だけだ。

 それだけを確認した美李奈は今度こそ全身の緊張を解いた。流石に疲れてしまった。

 麗美からなのか蓮司からなのかわからないが通信が届いているが、今はそれに返事を返す余裕もない。美李奈はダメだとわかりつつも瞳を閉じた。


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