第42話 ~主~

「ビリニュス!」

「朱火さん!」

 林の中だったがビリニュスは立っていたのですぐに見つけられた。

 椿姫に聞えないように小さい声で呼び、ビリニュスも小さい声で返事をした。

「大丈夫か?」

「ええ。何とか戦えるまでに回復しました」

「そうか。さっそくだが手伝って欲しい」

「僕にできる事なら」

 私はさっき思いついた作戦を耳元で囁いた。

「だ、大丈夫でしょうか?」

「もうそれしか倒す方法は無い」

「浄化できますかね」

「やってみなくちゃわからない。それからさ」

 一応聞いてみる事にした。

「椿姫はお前にとって上司だろ。いいのかよ」

「……大丈夫です。僕は朱火さんに協力します」

 ビリニュスは意外とあっさり協力してくれた。

「では、行って来ます」

「気をつけろよ」

 ビリニュスは椿姫の所に向かった。

 私は見つからないように木に隠れて椿姫を見た。

 まだ、立てないみたいだ。

「椿姫様」

 ビリニュスが椿姫の目の前に立った。

「椿姫様。大丈夫ですか?」

「うぅ……その声はビリニュスか? ちょうどいい! 私を立たせてくれ」

「はい」

 ビリニュスは腕を組むようにして椿姫を立たせた。

「お前もやればできるではないか。もう放していいぞ」

「……」

 ビリニュスは放さない。

「放せと言っているだろ! 主人である私の命令だぞ!」

「主人、ですか」

「そうだ、お前達の主人は私だ! なんせ私がつくり出したものだからな」

「そうですか……」

 ビリニュスは後ろに回って椿姫の両肩を腕で押さえつけた。

「ビリニュス何を!」

「今です朱火さん!」

「何!?」

 呼ばれたので私は林から出てきた。

「ビリニュス! 放せ!」

 椿姫は暴れているがビリニュスからは離れられない。私をお姫様抱っこするくらいだから力あるんだよな。意外と。

「嫌です」

「まさか私を浄化させるのか!」

「はい」

「何故だ!」

 それは私も気になっていた。

「僕は今まで貴方をとても尊敬する偉大な方だと思っていました。しかし……」

 ビリニュスは少し黙った。

「僕の様に少しでも自分に逆らった者を死刑にしたり、僕を技の実験台にしたりしてわかりました。貴方は自分さえ良ければそれでいい、という性格みたいですね。僕はそんな人にはとてもついてはいません」

 つまりあまりにも自分勝手な正確に呆れてしまったという事か。

「何だと! ではお前はこれから誰に従うというのだ!」

「誰かに従う事が僕の人生なのですか? なら僕は……」

 ビリニュスと目が合った。……次に言う言葉が読めた。

「朱火さんに従います」

「……ふん! 勝手にしろ! 元々お前は捨て駒みたいな物だ! 出て行きたいのならさっさと出て行け!」

「ありがとうございます。ではもう貴方は主人ではないので放せと言っても放しません」

「!!」

 一本取られたか。ざまあみろ。

 私は三叉槍を椿姫に向けた。

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