第12話 ~立場~

「えぇ!!」

 私とビリニュスは驚いた。

 これ外せるのかよ!

「ツバキ様の手にかかれば他愛も無い。それはツバキ様がお造りになった物だからな」

 製作者なら外せるのか。

「話を戻す。どうするのだ? 続けるのか?」

 今ここで断ればメイドとして働く事が無い。

 嬉しい事だ。

 だが、何だか引っかかる。このまま辞めていいのか?

 人間の事を見下しているような連中に馬鹿にされたままで……。

「朱火さん僕が……」

「ビリニュス。お前は黙っていろ」

 ビリニュスは何か言いたそうだったがベルンに遮られた。

「指揮官長。僕は朱火さんの……」

「パートナーとでも言いたいのか。確かに『続ける』と答えたらそういう事になる。しかし決めるのは朱火自身だ」

「そうですが……」


「これ以上私に口答えするようであれば……どうなるかわかっているな」


「……」

 な、何だ?

 ベルンはいきなり冷たい表情になり、ビリニュスはそのまま黙ってしまった。

 しかも少しビリニュスの顔が青ざめている気がする。

「お前は今、名誉挽回の為に働いているのだろう。ツバキ様のご意向に逆らった罪の償いとして」

「……はい」

「私に逆らうという事はツバキ様に逆らう事と同じだ。これ以上罪を重ねるとツバキ様も黙ってはいられないぞ」

「……」

「口を噤んだか。まぁ当然だろうな。それにしても、権力に負けて怯えきったその姿。まるで人間だな」

 人間?

 確かこいつらにとって人間は……。

 

『人間は自分の事しか考えていない愚かな連中だ。自分だけ良ければ他はどうでもいい。人間は常にそのように考えている下等な動物だ』


 そうか!

 ビリニュスは自分達の神のような存在でもあるツバキに反抗したから『自分の事しか考えていない』って仲間に思われたんだ!

 そして反抗したのにも関わらず執事の仕事をしている態度が『自分だけ良ければ他はどうでもいい』と同じ事のように見られていたのか!

 それにさっきの言い方からすると『人間』という言葉は執事にとって『クズ』や『ゴミ』みたいな言葉として使われている様な口振りだった。

 こいつら……。

 話は聞いていたがここまで人間を馬鹿にしているのかよ!

 このままにしていられるか!

「いいだろう! やってやる!」

「ほう……」

「朱火さん!」

 ベルンは少し見下している言い方だったが、ビリニュスはこの返事を待っていたのか明るい表情になった。

「いいのか? 後から指輪を外すことはできないぞ」

「かまうもんか! メイドの仕事、やってやる!」

 『喧嘩女王』と言われたこの私を含む人間達に喧嘩を売るなんていい度胸しているからな!

「そうか……人間にしてはいい覚悟だ。これからは蟲に取り憑かれる人間が多くなってくる。忙しくなるぞ。……健闘を祈る」

「了解」

 普通こんな事を言われたら元気良く返事をするだろうが、私は一言で済ました。

 本心でこいつらの仲間になったわけじゃないからな。

「ビリニュス。お前は引き続き朱火のサポートを頼む」

「わかりました!」

 さっき馬鹿にされたばかりなのによくそんなに元気良く返事ができるな。

 再び信頼されたと思って喜んでいるのか?

「これからも頑張って蟲を浄化していきましょうね! 朱火さん!」

「ああ!」

 こうして私は引き続きメイドの仕事に専念する事になった。

 見ていろよ!

 人間の底力を見せてやる!

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