第11話 ~指揮官長~
こうして学校に入ったが……。
私は今、明かり無しの真っ暗な深夜の学校を歩いている。
「怖っ!」
本当に幽霊が出そうだ!
「大丈夫ですよ。僕に付いて来て下さい」
「お前怖くないのか?」
「僕は人間みたいに幽霊なんて怖がる理由がありませんから」
肝が据わっていてうらやましい。
先が見えない長い廊下をライト無しで歩くのは私でも怖い。
しかも入った事がない学校だ。
こんな広くて知らない所で離れ離れになったら大変なので私はビリニュスに付いて行く事にした。
歩いているうちに目が慣れてきて、少しずつ暗闇の中が見えるようになってきた。
できればもう二度と来たくない。
今回だけで勘弁してほしい。
「さあ着きましたよ」
「はあ~……」
着いた、と聞くと思わず溜息をついた。はっきり見る事はできないが、大きな扉があった。
理事長室という風格に合わせているのであろう。二つの大きな縦長の引き手を一気に引かないと開かない仕組みになっていた。
コンコンコン。
ビリニュスがノックした。
聞えているのか?
ギイイイイイイ
「うわっ!」
突然扉が開いて思わず声を上げた。
「言ったでしょう。今この建物はツバキ様が自由自在に操れるのです。扉を開ける事くらい簡単ですよ」
扉が開くと三メートルくらい奥の方に少しだけ明かりがあった。
よく見ると明かりの正体は右サイドにある縦長の大きな窓から照らされている月明かりだった。
月明かりは大きい縦長の立派な机とその後ろにある偉い人が座るような革製の大きな椅子を照らしていた。
しかし、椅子は何故か後ろ向きに置いてあった。
机の傍には暗くて顔はよく見えないが人影があった。
「ビリニュスか。それにもう一人……」
嘘だろ!?
暗闇からでも私達を見て直ぐにわかっただと!
「はい。ツバキ様にお聞きしたい事があってきました」
「残念ながら今、ツバキ様はいらっしゃらない。聞きたい事とは……そこの人間のメイドについてか?」
すごいな。自己紹介もしていないのに私の事を人間だとわかるとは。
少し動いたのだろうか? 月明かりがビリニュスと話している人物を照らし始めた。
長身でスラっとした体型はビリニュスよりも執事服が似合っており、青い髪の前髪は左サイドで自然に分け目ができている。
世間で言う『イケメン』と呼ばれる俳優やアイドルを連想しそうだ。私はそっちの方には詳しくないが。
しかし、ツバキはいないのか。『簡単には会えない』とは聞いていたが、それもやっぱりお偉いさんで忙しいからか?
「さすがはベルン指揮官長。朱火さんを見ただけでわかるなんて」
「当然だ。朱火と言ったな」
「何だ」
私が返事をするとベルンは少し険しい表情になった。
「……まるで我々を気に食わない態度だな」
「当たり前だ。アンタ達の上司は人間を馬鹿にしているとか聞いたらな」
「その話は……ビリニュスか。なぜその事を話す必要があった」
「それは……僕達の事について色々話しているうちに話してしまって」
ビリニュスは少し緊張しながら説明していた。
もしかして、話したらまずい事だったのか。
「まぁいい。こちらに来てもらおう」
呼ばれたので真っ直ぐベルンに向かって歩き、話せるくらいの距離で止まった。
「お前がビリニュスに会ってからの事を説明してもらいたい」
私はビリニュスと会ってからの事をすべて話した。
「なるほど。今回お前達は普通の人間では見えるはずの無い執事が見えた事について聞きに来たのだな」
「ああ。もしかしたら私は過去に自力で蟲を克服した事があるかもしれない。それから見えるようになった、と考えている」
「可能性は高いな。もしそうだとしたらお前はかなりの実力者だ」
「実力者?」
「そうだ。言い方を変えるとお前にはメイドの才能があると言っても過言では無い」
そういえばビリニュスも似たような事を言っていたな。
『実力者』に『才能』ねぇ。
喧嘩以外で言われたのは初めてだ。
「お前はこれからもメイドとして働く覚悟はあるか?」
「覚悟……ねぇ」
急に言われてもなぁ。
「大事な事だ。しっかり考えてから決めろ」
もしこのままメイドを続けたらどうなるだろう。
また朝早い時間や放課後にメイドに変身して蟲を浄化するのか?
「人間が変身して浄化を行うとなれば精神力も削る事になる。人間の場合、精神力は体力より回復が遅い。お前の負担は減るばかりだ」
「僕がサポートします!」
「ビリニュス……」
後ろでビリニュスが声を上げた。
「僕が朱火さんをサポートして人間達を助けます。それに朱火さんがはめている指輪は外す事ができません」
そうだった。
私は嫌でもメイドとしてこれからも……。
「いや、今ここで外せるから聞いているのだ」
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