第3話 ~出会い~

幸い、あれ以上遅れること無く八時十五分に駅に着くことができた。

 一つの厄介事が解決した安心感が身に染みて感じていた。

 そのせいか浮かれていたのかもしれない。

 またしても厄介事が起こってしまった。

「迷った……」

 私は今、住宅街の行き止まりにいた。

 ちゃんと道を把握していなかった。

 学校は住宅街の中にあり、その住宅街は大通りの他に小道が多くて複雑だ。そんな迷路のような所で迷ってしまった。

 スマホがあれば地図アプリでも使って調べることができるが今は持っていない。

 入学式で聞いた話だと持ってくるには許可書が必要らしい。しかし一年生にはまだ発行されていない為、持ってくる事ができない。

 最近は物騒な事件をニュースでよく聞いているので、こんな所は早く抜け出したい。

 腕っ節に自信がある私でもできれば遭遇したくない。

「仕方が無い。建物に向かって行こう」

 幸い学校の建物は見えている。それに向かって来た道を戻ろうとした。

「うぅ……」

 どこからかうめき声がした。

 気になったので辺りを見回すと奥の方にエメラルド色の物が見えた。

 近寄ってみるとうつ伏せになって倒れている人がいた!

 倒れている近くまで走って確認するとエメラルド色はその人物の髪だった。

 私はすぐに倒れている人の上半身を少し持ち上げ、相手の尻から下を地面に置いて介抱した。

 目は閉じていて返事は無い。顔を見ると女っぽい感じがするが服装を見ると男っぽい感じがした。見た目の年齢は同じくらいだ。

 燕尾服って名前だった気がする。お金持ちとかに仕えている男の人、なんだったかなぁ?

 そうそう執事だ! 執事とかが着ている服に似ている。白い綿手袋を両手にはめているのをみると、もはやそれにしか見えない。

 今まで閉じていた目が突然開いた。

「うぅ……あ、貴方は?……」

 この声は、男だな

「気がついた? というか何でこんな所で倒れていたんだ? しかもそんな格好で」

「それは……道に迷っちゃって……それでお腹がすいて、倒れて気絶して……」

 怪しい。

 なんだか今思いついた言い訳にしか聞こえない。

「……それ本当なのか?」

「本当ですよ! 信じられないのですか?!」

「その格好といい、怪しいからだ」

「うっ……」

 とりあえず男が目を覚ましたので男の上半身を持ち上げていた手を放した。

「助けてくれてありがとうございます。そういえばあなた学生ですよね? 学校はどうしたのですか?」

「うわああぁぁ! 完全に遅刻だー! 道はわかんないし……もうだめだ……」

「おまかせください! 助けてくれた御礼に僕が学校まで送って差し上げます!」

 気持ちはありがたい。

 しかし……。

「アンタ迷って倒れていただろ。だったらこの辺の道なんてわかんないんじゃない?」

「うっ……」

 さすがにこの答えには『図星です』みたいな顔をした。

 とにかく急がなければ! ただでさえ道に迷って時間食ったっていうのに!

 今日の私はとんでもなくついていない。今日は仏滅、いや厄日なんじゃないのか!?

 時計は無くても、もうすぐ一時限目が始まろうとしているんじゃないかという感じがしてたまらない。

「まあ確かにそうなのですが。……ちょっといいですか?」

 男が立ち上がった。すると。

「なっ!?」

 いきなり私をお姫様抱っこしたのだ!

「ちょ、待て! 何を考えている!」

「すみません。すぐに解決する方法がこれなのです。飛びますよ」

「飛びますよ? 冗談じゃない!」

「それっ!」

「うわあああぁぁあぁぁぁぁぁ!」

 本当に飛んだ!

 まっすぐ上に飛ぶと目の前にある行き止まりをつくっていた住宅の平らな屋根の上についた。

 信じられん。

「大丈夫ですか?」

「……」

 さっきまで倒れていた奴とは思えない。こいつ一体……。

「あのー。僕の話聞いています?」

「ああゴメン。お前すごいな。人間技じゃないぞコレ」

「……あなたもですけどね」

「何か言った?」

「いえ何も。あ! あれですか? 学校」

「あぁ! そうそう! あれあれ」

 綿手袋をはめた男の白い人差しの向こうを見ると学校が見えた。

 住宅街の中に高い建物ある為、こうして見るだけでもすごく目立っている。

「そういえば自己紹介していませんでしたね。僕はビリニュスです。よかったら貴方のお名前を教えて下さい」

「ビリニュスか。私は朱火。四宝朱火」

「では朱火さん。お礼の続きをしますよ」

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