第5話 たこやきだけで充分

「たこやき予約した」

 週末の晩御飯はたこやきで決まったようだ。

「かき氷もあるんだって」

(無ければいいのに……)


 住宅街に地味に営業しているたこやき屋さん。

 知らなければ、気づかないであろうレベルのヒッソリ感。


「予約した桜雪です」

「お待ちしてました……少しお待ちください」

(待ってたのか…待たせるのか…待ってたけど待たせるんだな…)

 日曜の夕方、結構人がいるものだ。

「たばこ吸ってくる~」

 一度店を出た彼女がトタタタと戻ってきた。

「御向かいの家、喪中だよ」

「うん…どうした?」

「なんかね…」

 と、ふたたび店を出る。


 かき氷とたこやきを持って車へ戻ると、車の側でチョコンと座ってたばこを吸っている。

「はい」

 と、かき氷を渡すと助手席で食べ始める。

「これで300円?」

「うん」

「高くない?」

(あなたが頼んだんですよ…僕はかき氷好きじゃない)

「食べてみて」

「うん…ヨーグルト味だね」

(たこやき食べないのかな?)


「ファミマ行く」

「ファミマ?なぜ?」

「おにぎり買うの」

「おにぎり持参してたんじゃ……」

「夜食」


 当然のように、胃薬を買う彼女。


「どらやき買ったの食べてみて……どう?」

「まずいね」

「たこやきの前にケーキ食べて、アタシの食べ残しだけど」

 タッパに洋ナシのショートケーキとモンブランが潰されて入っている。

「見るからに不味そうなんだけど……」

「美味しかったよ」

 ぐちゃぐちゃのケーキを食べると、

「おにぎり」

 と持参した五穀米のおにぎりを差し出す。

「味ないよ……」

「うん…握っただけだから、あっ!たjこやき食べる?」

(買ってから長かったな~たこやきに行きつくまで)

 たこやきをおかずに、五穀米を食べる。

 もうお腹いっぱい。


「交代」

 ミニ冷やし中華を差し出してくる。

(交代いいから、全部食って……)

 彼女は、きゅうりの浅漬けを1本食って、冷やし中華半分食って、たこやきの小麦粉だけ食べる。

 タコは好きではないのだ。

「胃薬もう飲んだの?」

「飲んだ」

「何度も言うけど、胃薬飲むくらいなら、食わなきゃいいでしょ」

「一口食べてみたいだけなんだよね」

(だから…買わなきゃいいじゃない……1食3000円ってどうよ…)

「これも…コンビニおにぎり」

 自分でおにぎり持参した意味!


「たこやきどうだった?」

「うん…たいして美味くない」


 横を見ると、チョコを食い始めてる。

(だめだ…治らないな…病だ、これ病だよ)


 改めて考えてみると、私は彼女の食べ残しを食べ、彼女に新しい食材を買い与えているのである。

 なぜこうなるのか?

 彼女は1個食べないからだ。

 一人で完食すれば、こんなに買う必要もないのである。

 新商品だから…コンビニに行くと、それだけの理由で大して美味くも無いものを買うのである。

 一口食べたいだけが我慢できない。

 アイスやチョコばかり食べる。

(我慢を覚えないとダメなんだろうな)


 彼女のことは好きだが、一緒に食事をするのが苦痛なのだ。

 そして、その夜、私は予想通り、腹を壊すのである。

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