第37話
僅かに差し込む太陽を頼りに方角を定める。こういう時、飛行機乗りで良かったと痛感させられる。
ジリジリやらキーキーやら虫の声の木霊する森の中に道らしい道などは無い。獣道すらない。小さな蟻の行列だとか、蚊トンボに似た虫が群れを成している姿だとか、とかく虫はよく見かける。しかし最初に遭遇した弾丸のようなバッタだとか、想定していた巨大昆虫だとかは見かけない。ポノラから貰った実が効いているのだろう。
さらに歩みを進める。日の角度から計算して大体昼時ぐらいか。最近は満足に食事を摂っていたせいか、空腹が前よりも少し辛いな。しかし未だ食料たり得る何かを探しきれていない訳だ。
ここの樹木の特徴か、幹は剪定されたかのように真っ直ぐに伸び、はるか頭上にしか枝葉が見受けられない。加えて樹々の蒸散作用からか、常に靄のかかっているこの森では幹もヌメッて昇るのも難しい。仮に木の実が頭上にあったとしたら採るのは困難だろう。
それでもこれだけ多くの虫を支える森ならばそれに見合う食料もあるはずだ。それを探さねば。
探しながらの散策ではあまり効率的に歩みを進められず、気がつけば日を捉えられない時刻となってしまった。
火を使えない以上、これ以上の散策は危険だ。ポノラとメイは休憩を取っているのだろうか。旅慣れていないメイがいる以上、移動距離は俺とそう変わらないと思うが。
それにしても結局虫以外は何も見つけられなかった。腹が鳴りっぱなしだ。食えそうな葉っぱも生えていない。日の光が弱いせいかキノコ類をよく見かけるものの、まるで防空壕の中の如く植物を見かけない。あるのはコケ類ばかりだ。最悪それを食うか。
とにかくこれ以上の散策をしないと決めた以上、ここらで寝床を作らなければ。大きな樹洞はいくつか見つけたが、そこには既に大量の虫がおり、それをどかすのも何か気が引けたので仕方なく穴を掘っている。ある程度掘れたら交差させた木の枝を半球状に組む。次に落ち葉を編み込んでそれに掛け、穴に被せた。恐ろしく簡単な
しかし穴は実に簡単に掘れた。殆ど腐葉土だったからか、アグノーの爪を数振りすれば簡単に吹き飛ばすことができた。その際大量の幼虫が吹き飛んだが、やはり蟲の森ではあるな。
翌朝、飢餓感とともに目を覚ます。木の実の臭いが飛んでいる気もする事だし、改めて塗り直すか。……はぁ、腹は減っても、あれは食いたくないなぁ。
意を決して実を噛み潰す。糞、腹が減っても不味いものは不味い。ああ、糞、おえ、くっ、不味い、不味い……。
体に塗り込み
しかしそこには何もいなかった。
土の中に潜ったのか。いや、違う。所々に食い散らかした跡がある。恐らくこの部分は毒で、無毒の箇所を食われたのだろう。かなりの数がいたはずだが、昨夜の内にやられたのか。
まてよ。高い樹木しかない。キノコとコケ類のみ。大量の腐葉土と幼虫……。
もしやこの森、虫と樹木だけで食物連鎖が成り立っているのではないか?
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