第27話

メイ殿について玄関を出ると、家の前に一人の男が立っていた。

濃い金髪を総髪にした、青い瞳の彫りの深い顔立ちだ。ヒゲを整えていて中々に男前じゃないか。だが、ううむ、やはりメリケンの年齢は判り辛いが、中年になるかならないかといったところか。立派な白い外套を纏い、手に赤い花束を抱えていた。


「メイ!今日こそ返事を聞かせて貰おう!私の伴侶になってくれ!」


ああ、やはりこいつがメイ殿に迫っている男か。

真っ直ぐにメイ殿を見ていたが、メイ殿の背後にいる俺達を見たら露骨に顔をしかめた。


「何故こんな所にトト族がいる。ここは人間の国だ。しかもここは大占術師であり領主であるスターリッヒ様の家であり、我が妻となるメイの家でもあるのだぞ。薄汚いクルハラコラは目にすることすら烏滸おこがましい。とっとと消え失せろ」


成る程、トト族への差別というのは中々に根深いのかもな。クルハラコラは恐らくトト族への蔑称か。

糞、中々に腹立たしいな。その場にいるだけで恩人がそこまで言われるとは。


「ルーゼフさん、この方々は客人です。あなたの言動は客人を招いたお祖母様への侮辱になるかと」


ルーゼフ?聞いた名だ。何だったか……。


「客人?ドラゴネルト・スターリッヒ様ともあろうお方が、大事な領地にこんな臭いクルハラコラを招くとは考えられない。それにその男も何か変な魔力の流れが……さては洗脳をしたか?いや、スターリッヒ様を洗脳するとはかんがえられないが……」


何か変な疑いをかけられている。

その時、メイ殿が俺の左腕をグイッと引っ張り抱きついてきた。中々に……おお。


「すみませんルーゼフさん。私はこの人と一緒に旅立ちますので、あなたの想いには応えられないかと。諦めてくださった方が賢明かと」


思わずメイ殿を見るが、全く視線を合わせてくれない。この言い方では勘違いされてしまうのではないか。

実際ルーゼフとやらは目をまん丸に見開き、花束を手から離してしまった。全く今の光景を理解できないといった様子だ。俺もわからんが。


「……やはり、洗脳されているのか」


ゾクリと寒気が走った。メイ殿を押すように反射的に左に避けると右の頬を何かが掠めた。

今の俺をもってして、何が飛んできたか分からなかった。血が頬を伝う。汗が額を伝う。こいつも魔法使いか!


「チィ、避けたか。メイ、安心しろ!そいつを殺して洗脳を解く」


「正気かルーゼフとやら!大体洗脳とは何だ!俺は魔法なんて使えんぞ!」


「洗脳なんて、私とお祖母様を愚弄する事かと。訂正して大人しく諦めるべきかと」


「ルーゼフちゃん、癇癪を起こしたらいけないねぇ。それにルーゼフちゃん程の魔法使いなら洗脳を受けているかどうかなんて……」


「わかるものか!」


口々に諌めようとするが、ルーゼフは言葉を遮り叫んだ。


「魔法は夢のようなもの!人の夢が無限にある様に、魔法もまた同じだと教えてくれたのは他ならぬスターリッヒ様ではないか!だが、確かにその男からは変な魔力の流れこそすれ、洗脳のような複雑な魔力では無さそうだ。ならばやはりその後ろの小汚いトト族が犯人か!待っていろメイ!王国筆頭魔術師ルーゼフ・ゼッパランドが退治してくれる!あとそこの男、気安く名前で呼ぶな!」


激昂し、唾を撒き散らし怒鳴り散らすルーゼフ改めゼッパランド。

またか、またポノラを侮辱するか。侮辱だけではなく、退治する?殺すということか?ならば敵よ。


「俺が相手になる。ゼッパランド、ここは手狭だから違う所に移るぞ」


「移る?相手になる?馬鹿め、この場で殺してしまえブゥア!?」


ポノラに手を向けて、先程俺に放った魔法を使おうとしたゼッパランドだが、そんなことは予想済みよ。

手の紋様を光らせ、素早く近付き魔法発動前に投げ飛ばした。家の前に積んであった薪に結構な勢いで突っ込んだが、それでもすぐにヨロヨロと立ち上がってきたから中々に根性のある奴だ。


……しまった。投げ飛ばさすに飛び蹴りでも食らわせればよかった。


「く……その紋様、なるほどな、姫は失敗したのか。ならば容赦はしない。貴様を殺し、クルハラコラを殺し、メイを救ってみせる!」

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