第28話
紋様を知っているし、マリティが失敗した事も予想したというのか。
……思い出した。マリティを人質に逃げている時、ルーゼフがいればと呟いていた。王国筆頭魔術師とも言っていたし、もしかしたらかなり強敵なのではないか?
糞、やはり飛び蹴りでも食らわしとっとと終わらせればよかったか。
ゼッパランドは指で
「ジュプル、ジュプル、マーレジュプラ、マーレ……」
「耳を塞いでノリユキ!聞いちゃダメ!呪詛よ!」
ポノラが突如叫ぶ。呪詛?深く考える前に急いで耳を塞ぐが遅かった。
「な!?」
天地がひっくり返った。比喩ではない。空が地に、地が空になった。
落ちる!何かを掴まねば……っぐ!
何かが二の腕を掠めた。またあの不可視の魔法か。目を離した隙をつかれたか。
「チッ、また外したか。呪詛の掛かりも甘い。魔法抵抗がありそうだ。だがまあその様子だと景色がひっくり返っているのだろう。地面に這いつくばってる姿が様になってるなぁ。怖かろう、怖かろう!あの世で後悔しな、愚かにもクルハラコラ如きの味方であったことを!」
糞、よく舌の回る奴だ。空に落ちるかもしれないなんて考えた事もなかった。地につけている足を少しでも離せば、このまま空に……あ。
思い切って走り出す。当然ながら落ちない。天地が逆さ、俺はこれを知っている!
投げ飛ばした所為で少し空いた距離を一気に詰めるよう足に力を入れ、近付いたところで飛び蹴りの体制に入った。
ピシ……
「……驚いた。まさか逆さの呪いを解かずに動けるとは」
だが、奴の目前で何かに阻まれる。障壁か。いつの間に張っていやがった。
「当たり前だ。俺は元々“飛行機乗り”だぞ。“背面飛行”なんてお手の物だ」
「“飛行機乗り”に“背面飛行”?どこの国の言葉だ。しかし、近付いたな。ここも俺の間合いだぜ。ジュ……」
しまった、また呪詛か!慌てて耳を塞ぐと、奴は右手で円を描き、それにより生じた光の輪っかを地面に押し付けた。糞、呪詛じゃない、引っ掛けか!
輪っかが足元でグンっと広がり俺を囲う。何が起こる。判らんが、何か起こる前に奴を黙らせてやる!
「オラ!」
ピシ……
もう一度蹴りを放つが、またしても障壁に阻まれた。
糞、病み上がりで力が今一だ。だがもう一発!
「オラァ!」
バリン!
見えない障壁が割れて奴に蹴りを入れるのと、輪っかの
縁は壁となり、全体が眩しく光り出した。思わず目を覆う。何だ。何が起きてる。
指の隙間から僅かに見えるのは、無数の俺の影が壁に映し出された光景。何の意味があるのだ。
不意に眩しさが消えた。光が収まったのか、いや、それだけではない。壁も無くなり、天地逆転状態が元に戻ってやがる。だが、明らかに変なことがあった。
無数の影だけが残っていた。
「痛い……。全く非常識だ。障壁を蹴り破るなんてあり得ない。しかし掛かったな。これぞ秘術影分身。この影一つ一つが貴様の実力と同じだ。貴様の様な馬鹿力にはこの手の魔法が効果覿面だろう!」
見えない障壁のせいで大分威力が殺されたからか、気絶させるには至らなかった。だがそれでもそれなりに効いたのか、奴は腹を抑えながらヨロヨロと立ち上がってそう吼えた。
しかし、影が俺と同じだと。冷や汗が頬を伝う。あの怪力が俺自身に降りかかってくるのか。
奴が空を手刀で切ると、無数の影が四方八方から一斉に襲いかかってきた。糞、どうすれば……ん。
影は随分とのろい。まるで普通の人の様だ。もしかして反映されているのは“本来の“俺の力ではないか。だとしたらそんなに恐る事は無いのではないか。
無数の影が一斉に殴る、蹴ると仕掛けてくるものの、ひょいひょいとかわすことが出来る。ただ如何せん数が多い。避けても避けてもゼッパランドへは一向に近づけない。そして不気味な事に、影の向こうの奴は不敵に笑っていやがった。
「やはり貴様の力は魔法由来か。念には念を入れて影分身の魔法を使ってよかった。さあ影どもよ!闇の牢獄となり閉じ込めろ!」
奴の言葉と共に影が殴る蹴るをやめ、かわりに俺に纏わり付いてきた。
糞、影なのに実態があるとはどういう事だ。どんどんどんどん纏わり付き、重みが徐々にまし、ああ、苦しい。ああ、暗い。身動きが取れん……。
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