第23話
俺の怪我はかなり重体であったようで、一週間生死の境を彷徨ったそうだ。吹っ飛ばされた時に全身を強打し、あまつさえ土手っ腹をブチ抜かれてよくぞまあ生きていたと我ながら思う。
そんな瀕死な俺を運んだのはポノラではない。体格的に流石に無理だ。ではどうしたかといえばゴブリン族に教えられた村をポノラが見つけて助けを呼んでくれたらしい。当然ながらあんな怪鳥のいる山に近付こうとするお人好しなどいない。ホロウブロスの亡骸を譲ると言うと嘘をつけと鼻で笑われたそうだ。
しかしポノラは機転が利いた。ホロウブロスの冠羽をかざし、村の人々を説得したそうだ。
ゴブリン族の長老アンドバの話によれば、トト族はこの辺りにおらず見世物として捕まる可能性もあるというのに、本当に頭の下がる思いだ。
それからこの村に運ばれ治療を施された俺だが、腹に穴を開けてまともに生きられるはずなどない。
アンドバも言っていたこの村に住む高名な占い師とやらが、理屈は分からんが高度な魔法を使い治してくれたのだとか。ただあくまで傷を塞ぐだけで、それでもなお死にかけていた訳だから俺も中々に悪運の強い男よ。
だがまあ意識を取り戻してからと言っても立ち上がれるようになるまで一週間、まともに動けるようになるまでさらに一週間かかり、最近になりようやく体力を取り戻す為の運動を出来るようになった訳だ。
勿論その間ただ休んでいた訳ではない。これまでの様子を聞き出していたのだ。いやぁ苦労した。これほど人の話を真剣に聴いたのは初めてだ。
そう、俺はこの世界の言葉を覚えたのだ。
勿論完璧では無いが、日常会話なら何とかなる様にはなった。習うより慣れろとはまさにこの事よ。人間、必要に駆られれば覚えるものだ。
さて、感慨深い思いにふけっている内に体力を取り戻す為の日課の運動を終えてしまった。
今お世話になっている家に戻ると既に朝食が用意されていた。
なんとポノラは俺が回復するまでの間の衣食住の保証まで漕ぎ着けた様で、こうして毎日二食(この村では二食が普通らしい)飯にありつけている。
そもそもホロウブロスはここ数十年死骸でさえ市場に出回らない珍品で、その羽ですら一枚でひと財産になる程の高級品だそうだ。羽を拾いに山へ向かって、死体で帰れば御の字とされるようだ。やはり、命あっての物種よ。
「おや、帰って来たかい。丁度今できたところだよ。ささ、冷めない内にお食べな」
「ノリユキ、動ける様になったからと言って無茶はしないでね。さあ、早く食べよう」
お世話になっているリンバ婦人とポノラが出迎えてくれた。ただいま戻ったと一声かけ席に着く。
出された料理は麦粥の様な物に
麦粥は毎食出てくる、この村の主食だ。粥の様な見た目だが口当たりはお茶漬けに近い。味はほんのり甘みがある。
そして芋だが、この芋はなんと木に生るのだ。一度収穫を手伝ったが驚いた。見た目と味はそのまんま男爵芋なのにも驚かされた。
この魚はよく獲れるのか、それなりの頻度で出てくる。鱒の様な味で脂が乗っており大変美味い。一度角を口にしたのだが、二人にえらく驚かれて以来口にしていない。まあ美味しくはなかったから好き好んで食おうとも思わん。
「リンバ婦人、今日も美味しかった。ありがとう」
「はっは、それは良かった」
食べ終わり人心地着く。
このリンバ婦人、昨年旦那を亡くした所謂未亡人だ。といっても歳は二回り以上離れている。未亡人、響は素敵だが、まあ現実はこんなものだ。
この村の人々は蒙古人風の顔立ちで、リンバ婦人も例に漏れない。恰幅がよく、よく笑う人だ。料理がとても上手い。驚くほど美味い。
「食べ終わったならレトレトの収穫を手伝って欲しいんだが、体は大丈夫かい?」
「うむ、問題ない。リンバ婦人、それは美味いのか」
「当たり前さ、あたしが料理するからね」
「ノリユキ、私も行くわ!」
リンバ婦人の後に続き、ポノラも加えて3人で村外れにある畑へと向かった。
道中村をよく見てみる。家は基本的に丸太で作られている。屋根は急斜面で床も高い事からかなりのドカ雪が降るのだろう。青い塗料が使われている事も無さそうだ。
高名な占い師がいる割に、この村で村人以外を見かけることはほぼ無い。行商人を一度見かけただけだ。よっぽど辺境にあるのか。実に長閑な村だ。
その占い師には意識のある内に出会えていない。忙しいのか、はたまた何か思惑があるのか。
そんなこんなで畑に着いた。
レトレトとは花の名だそうで、野球の球程ある青い実と球根を収穫するそうだ。
俺達が畑仕事に精を出していると、隣の家のお爺さんがおーいと呼びかけて来た。
「ノリユキ、ポノラ、お前らジュジュマが呼んでるぞー。それ終わったら行ってやれー」
「……ジュジュマ?どういう意味だポノラ」
「えっとね、偉い魔法使いの事だよ。多分占い師のことかなぁ」
占い師が今になって何の用だ。
一抹の不安を抱えながら、畑仕事を終えた足で占い師の住む家へと向かった。
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