第20話

カチカチカチと嘴を鳴らし、片側三つ眼をギョロギョロ動かし、明確な敵意を持って俺を見下ろす怪鳥。呼応する様にすぐ様アグノーの爪を抜き構える俺。

ポノラは未だ岩陰にいる。それで良い。この敵意が俺だけに向いているのならば、その間にこの鳥助をぶった斬る。


しかし、これはアグノーと戦った時とは訳が違うな。あの時は不意打ちに加え刃の長さが命に届きうるものであった。だが、糞、今回の敵はデカ過ぎるぞ。刃が急所に届くのか。


「キャラララルル」


奴は大きく翼を広げる。天を覆うかの如し巨翼。同時に俺は奴の元へと駆けた。

まずは脚の腱を切り機動力を無くす。そう思い振りかぶった時だった。


「がばっ!」


ビュオウと一陣の風が吹き、俺の身体は宙を舞った。木の葉の如く巻き上げられ、そのまま岩に叩き付けられた。

糞、辛うじて受身は取れた。しかし肺の空気を全て叩き出されたかのようだ。糞、取れたと言っても背中は痛いし糞苦しい。


「スゥ……っぷはあ!ああ、何なんだ、はぁ。糞、鳥助、はぁ、羽ばたいただけで、はぁ、まるで台風だな」


まずは呼吸を整える。しかしまぁ、見た初めはこんなのが飛べるものかと思ったが、この風圧なら納得だ。しかし、だとすると……。


奴は再び翼を広げだ。

しかし所詮は鳥頭の二番煎じよ。そう易々と食らってたまるか。


奴に向かい駆ける。今度は地を這うように低い体勢で。

暴風が頭の上を吹き抜ける。一瞬首ごと体を起こされそうになるが気合一番で何とか耐える。

懐に潜り込めた所で今度は前脚の蹴りが襲って来た。体を捻り何とか躱し、その場で跳躍した。


ボフッと何かに埋もれた。羽か。感覚的には足が何とか露出するくらいには深く埋まったのか。しかし好機よ。アグノーの爪を握り直し、体に思い切り突き立てた。

肉の感触の後に、きっさきが何か非常に硬いものに触れた。今の俺の力とアグノーの爪を持ってしても充分に刺さったとはいえない感触。これはやはり……。


考える間も無く露出していた足が何かに掴まれた。そしてそこから思い切り引き抜かれ、空中に放り投げられた。

くちばしを使ったのか。足が万力に挟まれたように痛かったぞ。服も破れてやがる。


着地して足の様子を見るが、青タンができてるぐらいで血も出てない。骨にも異常はなさそうだ。てめぇの羽の中で暴れられない様手心を加えやがったな鳥助。

まあそんな中でも羽の一枚ぐらいは取ってこれた。しかし翼の部分でもないのにやたらデカイな。この羽一枚が団扇くらいデカイ。しかも棉より断然軽いと来ている。加えてかなり丈夫だ。なまくらじゃあ刃すらも通らなそうだ。突き刺した時の感覚からすると骨も堅い。


あの巨体を飛行させる為に骨も羽も軽く、あの巨体を飛行させる為に筋肉というエンジンを発達させ、エンジンの力に耐えられる様骨が丈夫になった訳か。


「偉大なる飛行馬鹿よ。笠井殿、この世界にも飛行馬鹿はおりまするに。哀しいかな、この世界でも飛行馬鹿と闘う運命にある様です」


手に持っていた羽を捨て、アグノーの爪に付いていた血を振り払う。

対峙する鳥助は俺を睨み、闘牛の様に前脚で地面を掻く。


さあ、仕切り直しだ。

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