第18話

明け方から朝になった頃、抱えていたポノラがようやく目を覚ました。揺れないように歩いたとはいえ、よくまあ寝たものだ。さすがに寝起きで森の中に居た為にひどく混乱はしていたが、未だ遠くに見える立ち昇る黒煙を見せたら何故か途端に納得してくれた。ポノラは中々に頭が良い。


その後は言葉を教わったり、適当に喰える物をポノラに見繕ってもらったりしながら双子山を目指した。

途中で見つけた湖畔で一休みし、生乾きだった洗濯物を干しつつ先程見つけた芋のような物とハリセンボンのような全身に棘のあるトカゲを焚き火で焼いて食べた。

芋の方は驚く事に中身が餅のような食感で、栗を淡くしたような味だった。焼く前は固かったのだが。

トカゲはわからん。美味いは美味い。ただかなり筋張っていた。どんな味かといえば肉の味だ。美味いが、煮込んだ方が美味い気もする。アグノーの方が活力の湧く味だったな。


さて、洗濯物を取り込む。うん、しっかり乾いている。あの集落で借り受けたーーまあ結果的に盗んだことになったのだがーー服は大変ありがたい。なんてったって飛行服は目立つ。

今着ている服は木綿生地を浴衣の様に帯で締めている地味なものであり、こっちの世界の服だけあって目立たないだろう。……いや、寝間着を昼間に来てたら目立つか?

しかし、この飛行服も俺にとって唯一の財産なってしまったなぁ。


「ラ、フェレッタイノ?ラ、モア-ブライゴイエ」


飛行服を見ながら感傷に浸っていると、ポノラに袖を引っ張られた。早く行こうと言うことか。



森の中をしばらく歩くと見通しの良い平原に出た。ゴブリン達が使っていたものか、集落の者達が新たに作ったものか、双子山に向かって土の道が伸びていた。仮に後者だとしたらやっぱり抜け道を利用されてたんじゃないか?

まあ、終わったことだ。お、抜け道で思い出したがそう言えば手紙をもらっていたな。内容くらい知りたいし、ポノラに見てもらうか。


俺の横で鼻歌を歌いながら歩くポノラに手紙を渡した。しばらく難しい顔して眺めていたが、手紙を横にしたり、逆さまにしたり。終いには首をコテンと倒し、俺に返して来た。首を振ってる。分からなかったらしい。字がわからないのか、字が汚かったのか。

申し訳なさそうな顔をしているが、まあポノラが分かっても俺に伝えるすべが無いのだ。気にしていないと頭を撫でると、満足そうにして今度は歌い出した。


ポノラは切り替えが早い。つい数日前にアグノーに殺されかけておいて、今こうして元気に歌を歌っている。見習うべきだな。


道端に生えている手頃な草を千切り、歌に合わせて草笛を奏でた。そんなに上手くないから音色は単調だが、それでも随分気に入ってくれたらしい。ポノラの歌声に喜の色が加わった。


知らない歌に合わせた下手くそな草笛が草原に響く。とても牧歌的だ。とても。



そうこうしている間に双子山の麓に着いた。日はまだまだ高い。地図を頼りに抜け道を探すとわりかしすぐに見つけることが出来た。隠してあると言っていたが、果たして本当なのか。もはや確かめようが無い。何故なら……


「入口が崩れてやがる」


地図が間違っていたとかは無さそうだ。目印となる場所なども細かく描かれてあった為に、この落石場所こそが抜け道の入り口だとはっきり分かる。分かるからこそ……ああ糞!


「ポノラ、ここ、通らない。山越える。山、ホロウブロスいる。大丈夫?」


「ホ、ホロウブロスイノ!?ダ、モンテン、シュマシュ、ホロウブロスイノ?」


ホロウブロスという言葉に取り乱すポノラ。しきりに落石した洞窟と双子山を見比べている。かと思えば耳を動かして山の方をじっと見つめている。

なんとなく分かったのだろう。あの山を越えるのに抜け道を使おうとしたが、あの有様では無理だと言うことを。


やがて観念したのか、力無く俺の袖を引っ張り双子山へと歩みを進めた。山越えを決断してくれた様だ。

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