第7話
妙なことが起きた。
私は実家で一人暮らしのような生活を送っている。 母は蒸発し、父は仕事で帰らず、私は父から送られてくる生活費で毎日を過ごしている。
本日、妙なものに襲われ、撃退し、妙な女の子に遭った。 そして。
「先に寝る? ここで?」
「そうだよ?」
「なんで?」
「住むとこ無いし。 一人暮らしならいいでしょう?」
どういうことだ。 まったくわからん。
「まあまあ! 家事はするし、住み込みの家政婦だと思って?」
「そんな無茶苦茶な……あれ? さっきと髪と目の色が違わない?」
先程までの非常識な色ではなく、今は栗色の髪に琥珀色の瞳だ。
「いやいや、目や髪の色が変わるわけないじゃん? 見間違いでしょー」
「そう、そう、かな。」
「とにかく、これから宜しくね? 仁美ちゃん」
こうして、私達の生活は始まったのだった。
。
「えー……転校生の、倉岡」
「瑠奈です! 好きなものは綺麗なものです!
よろしくね!」
……周りの男子がざわついている。
確かに見た目は可愛らしいかもだけど。
「席は窓際の一番後ろだ。 人数の都合上一人席だが、堪忍してくれな。」
「はーい」
今朝一緒に登校してきたわけだが、いや本当に元気な子である。
見つめていると、ウインクをしてきた。
なんだお前その慣れたウインクは。
そして男子どもはうるさい。
「先生、私佐藤さんの隣になりたいです」
……へい?
「ああ、構わんぞ。 高坂、倉岡と席を代わってやってくれ。」
「あーい」
先生も軽いわ! なんでやねん!
席替えなんてしてやる必要無いだろう!
「えへへ、よろしくねー、佐藤さん」
「あ、うん……」
「佐藤ずるいぞー」
「俺の隣に来なよー」
「うるさいぞ。 では授業の支度をしてくるから各自準備をしておくように。」
倉岡さんの座学の不出来が判明するのに、そう時間はかからなかった。
。
昼休み、私はいつものように中庭の木陰に座り、カレーパンの包みを開ける。
我が学校の購買はなんと手作り、それも揚げたてのカレーパンを販売しているのが魅力だ。
私が好きなカレーパンだ。 しかもこれが揚げたてである。 買わない理由は無い。
それに加えてこのカレーパン、私好みの味なのだ。 もう昼は毎日これである。
静かにそよ風に吹かれながら、晴れの日はこうして木陰で一人静かにカレーパンをサクサクじゅわっと味わう。
なのに……
「このカレーパン本当に美味しいねー⁉︎」
何なのだ。 この倉岡さんとやらは私に張り付いて離れない。
おまけにこの子目当ての男子まで何匹か着いてくるのだからたまったものではない。
「あのさぁ……昼食くらい一人で……っ」
ま、待て。 そんな目で見るな。
そんな餌のお預けを食らった子犬のような。
「わかった……。 好きにすれば?」
「やった!」
やれやれだよ、と頭を掻く。
「ところで午後は体育だけど、あんた運動くらいはできるよね?」
「おっとおっと佐藤さん? この私をバカにしてません?」
「私よりバカじゃん」
「ひどくない⁉︎」
「で。 できるの? 運動。」
「得意ですよ〜。 得意も得意、大得意。 これでも私バク転できるんですよ?」
「へ、へぇ? まあまあじゃない。」
「佐藤は運動できるのにマットはド下手だもんな!」
「そうなの? 高坂くん。」
「ああ、こいつは」
「黙ろう、高坂。」
「あはは、仲良いんだね〜」
「もう……」
「そういえば倉岡ちゃんってどこから来たの?」
それは私も気になる。 こいつに関しては謎ばかりだ。
「えーっとねー」
「うんうん」
「ひみつ?」
「なんじゃそりゃ……」
「佐藤さんも知りたかったー?」
「別に。」
カレーパンを齧る。
「佐藤、転校生が傷付くぜー?」
「そうだよ! ガラスのハートが砕け散るよ!」
「あんた図太そうだし。」
そんな話をしていると、チャイムが鳴る。
「じゃあ、そろそろお開きにしようか。 倉岡ちゃん! また後でね!」
チャラ男め……
「ねえ、体育って何するの?」
「確か、バドミントン?」
「へぇ……」
「何その笑い」
「ねえ仁美ちゃん、勝負しようよ。」
「ハッ、この私に勝てるとでも?」
「私が勝ったらー、カレーパン! 三つね?」
「よし、受けて立とうじゃないか」
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