第6話

倉岡、聞き覚えがある。 そうだ、


「手帳の……」


「手帳?」


目の前の少女は懐を探る。


「あらら。 どこかで落としちゃったかな。

貴方が拾ってくれたの?」


「え、うん……先生に渡しちゃったから今は無いけど」


「そっか、ふふ、ありがとう。 私ね、明日からここに通うんだ。 貴方何年生?」


「二年生」


「あはは! 同じ学年だね! 私三組になるらしいんだけど、あなたは?」


「お、同じ」


「すごい! 運命的じゃない?」


やたらとテンションが高い。

初対面だというのに肝の据わっている子だ。


「じゃなくて、さっきのあれは何なの? 妖怪じゃないって言ってたけど」


「あれ? あれはねー、蝕手って言うんだ」


「触手? 別にウネウネとはしてなかったと思うけど」


「違う違う、『むしばむ』『手』って書いて『蝕手』。 あれは人のよくない感情の残滓が集合、意識を持ち、その感情のままに人を傷つけるものなの。」


「はい?」


「とりあえず、良くないものなの。 でもあの蝕手って大きな特徴があって。 感情の残滓が高密度で集合した粒、蝕手がさらに集合したやつってのはすっごく硬くてね。 簡単に傷はつかないんだ。」


おかしい。 だってさっきのは


「そうそう、疑問な顔をしてるね。 私も不思議なんだよね。 あんなものでは倒すのはもちろん、ダメージなんて与えられない筈なんだ。」


「じゃ、じゃあどうしてさっきのは」


「んー? もしかして貴方、何か特別な能力を持ってたりしてね? ふふ。」


特別な、能力。 取り柄なんてない、忘れっぽい私に?


「まあいいや、この場の片付けはしておいてあげるから、貴方……あれ、名前って聞いたかしら。」

「佐藤、佐藤 仁美」


「仁美ちゃんね。 片付けはしておいてげるから、帰っていいよ。 また明日、学校で会おうね」





シャワーを浴びながら、先程の出来事を思い返す。

突然現れた怖いものは、実は人の悪い感情から生まれた蝕手というもので、人に取り憑く。

普通はめちゃくちゃ硬くて……。

でも、私には何故か斬れた。

しかも、倒す事ができた。


『何か特別な能力を持ってたりしてね?』


「……ふふ、なんだか主人公みたい」


「そうだねー?」

「ふぁい⁉︎」


「く、倉岡さん!? どどどうしてここに」


唐突な出現にひっくり返りそうになる


「鍵かかってなかったよ? 女の子なのに無用心だねー」


「そ、そう? ごめんなさい……」


「あはは、謝らなくていいよー。 じゃ、私さきに寝てるからねー」


「う、うん! ……うん……?」

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