お花見(2)

 その後気づいたんだけどさ、とサンドイッチの具だけをつまみながら、レナードソンが話を続ける。

 シエラは思い出話を聞くのが恥ずかしいのか嫌なのか、離れて子どもたちと遊んでいる。


「俺って追いかけるのが好きなんだなって。シエラってそこんとこ上手くかわすじゃん」


 確かにレナードソンがいくら告白しても、バッサリかつやんわり断ってたし、普段から笑ってはぐらかす場面はよく見る。


「ミステリアスっての? だから熱が冷めないのかも。シエラが俺のこと好きか、未だに分かんないもんなー」

「……そこはちゃんと確認しておけ」


 結婚して子どももいて今さらという気もするが。


「えー、でもそこが楽しいんじゃん!」


 レナードソンが歯を見せてにかっと笑う。


「……そうか」


 その喜びはセルシオにはいまいちよく分からないが、幸せを感じるところは人それぞれなのだろう。




「はーっ、お腹いっぱいっ」


 脚を伸ばし、幸せそうに息を吐く。

 持ち寄ったお昼ご飯を食べ、みんなでわいわいできて満足だ。


 セルシオがアルトの頭にぽんと手を乗せる。


「疲れてないか? 朝早かったし」


 アルトは毎年このお花見の準備に張り切っていて、今朝も早くから起きて用意をしていた。

 心配そうに見る目をじっと見返す。

 ふふっと笑い、「大丈夫」と答えた。


 そしてなぜか肩を震わせ、不気味に笑い始める。

 セルシオが呆れて半眼になった。


「アルトちゃん、楽しそう……」


 本日も夫のクロードによって手の込んだ髪型をしているリムリーがつぶやく。

 隣には同じ髪型の娘がちょこんと座っていて、二人とも無表情でお人形のようだ。


 アルトが頰を染めてにこっと笑う。


「うんっ。楽しみなことがあって。年に一度の」


 頭上にハテナマークを浮かべて首を傾げるが、アルトは含み笑いするだけで答えない。

 代わりに「ね」と同意を求めるので、セルシオは気まずそうな顔で、寝ているソラを撫でてやり過ごした。


「そうだアルトちゃん。母さんが、今度いつ来るの? って……」


 今日の花見にセルシオの両親も呼んだのだが、ここからかなり遠いため、残念ながら来ていない。


 アルトがぱあっと顔を輝かせる。


「本当っ? ぼくも会いたいな。お義母さんとおしゃべりするの楽しいんだもん」


 セルシオの母はかなりのおしゃべりで、セルシオとリムリーの口数が少ないのは母のせいではと思うくらい、一人でよくしゃべる。


 そんな母と、アルトは何と同じテンポでしゃべることができ、結婚の挨拶で初めて会ったときからすっかり母のお気に入りだ。


「母さんと同じ速さでしゃべれるのはアルトちゃんだけ……。相手してもらえて、私も助かってる」


 リムリーの言葉にうんうん、とセルシオまでうなずいているので、これまではどうしてたんだろう、とアルトが笑顔の口の端を引きつらせた。


「あっ、そういえば。セルシオはいつ頃ぼくを好きになったの?」


 アルトがきらきら期待の目を向ける。

 何を唐突に、と嫌そうな顔をするが、さっきのレナードソンの話に触発されたらしい。


 見えない犬の尻尾をぶんぶん振るので、セルシオが困って目を伏せた。


「……さあな」

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