第26話
「おまえたちぃ~っ、永霞叶詠を捕らえなさいぃ~っ!」
ブシャウスキィは癇癪を起したような金切り声で、周囲に佇む柔道部員たちに命令した。
ザッザッザッザッ!
やや機械っぽいぎこちない動作で、柔道部員たちが一斉に遠く離れた永霞を目指して駆け出していく。
「はぅんっ、円城寺・雲雀・ラトランダー! 藤堂鷹士! くひぃっ、永霞叶詠を守るじゃんよーっ!」
子宮を揉まれ続ける刺激に耐えながら、チキータはどうにか声を絞り出した。
「「御意」」
タカにぃと生徒会長が、柔道部員と永霞の間に、立ち塞がるように割って入る。
「ぬふうぅぅ~~~」
ブシャウスキィは忌々しそうに唸っている。
両手が塞がれているので、生徒会長の子宮まで抜き取るのは難しそうだ。一つを口に咥えればいけそうな気もするが、まだそこまではする様子もない。
「
呟いたタカにぃの肩が張り詰めた筋肉によって猛々しく隆起する。
タカにぃが手にしているのは、ハンマー投げのハンマーだった。
ワイヤーに繋がれた鉄球が遠心力によって高速で飛来する。それは、一番速く近づいてきた柔道部員の頭部目掛けて、横殴りに襲いかかった。
ブゥーンッ、ボゴォッ! ブゥーンッ、ドガァッ!
頭蓋骨が粉々に砕け、脳漿が飛び散る。タカにぃは向かってくる柔道部員たちを次々に薙ぎ倒していく。
それでも、男子柔道部員の数は三十名超。タカにぃの脇をすり抜けて、何人もが永霞との距離を詰めようとする。
「わたくしもいましてよっ!」
ザシュゥッ!
生徒会長のサーベルが、瞬く間に三人の柔道部員の心臓を貫いていた。
「変身能力、
ブシャウスキィが堪らず叫ぶ。
その指示を受けて、まだ無傷の二十人ほどの姿がぼやけた映像のように、変化していく……。
気がつけば、十人ずつの、タカにぃと生徒会長が、本物のタカにぃと生徒会長を取り囲んでいた。
いったん倒された柔道部員たちも、一、二分もすれば回復して再び起き上がってきそうだ。
自分たちについても言えることだが、不死者同士の戦いは決着というものが本当につくのか怪しく思えてくる。倒しても倒しても、しばらくすればすぐに復活してしまうのだから。まさにエンドレスだ。
意思を持たない眷属、柔道部員たちが変身した偽のタカにぃと生徒会長が、入り乱れた状態で本物に襲いかかる。
が――。
ブゥーンッ、バキィッ!
ザシュッ、ザンッ!
二人が、恋人の姿を模して飛びかかってくる敵に躊躇するのかと思いきや、そんなことはなかった。
タカにぃは生徒会長に見える敵を、生徒会長はタカにぃに見える敵を、それぞれ容赦なく一蹴する。
ブシャウスキィの作戦は、まったく無意味だったと、思いかけたそのとき。
「「あっ……」」
十人のタカにぃと、十人の生徒会長の動きが止まる。困ったように、それぞれがそれぞれの顔を見回している。
見ている俺にも、どれが本物のタカにぃと生徒会長なのか、わからなくなってしまっていた。
偽者全員がご丁寧に、タカにぃならまったく同じハンマーを、生徒会長ならやはり寸分違わぬ形状のサーベルを、手にしている。いや、サーリャの説明によれば、俺たちはそのように幻覚を見せられている。
戸惑い動きが止まってしまったタカにぃと生徒会長に、偽者たちが一斉に武器を繰り出した。
「くっ!」
「きゃっ!」
偽者が手にした偽物のハンマーとサーベルをタカにぃと生徒会長はどうにか回避する。
だが、避けたと思ったそばから次が迫り、完全に防戦一方に追い込まれてしまった。
本当は柔道部員たちは素手のはずなので、掴みにいっているのだと考えられる。とはいえ、柔道の達人に掴まれてしまったら、投げ技も絞め技も関節技も要注意であり、避け続けなければいけないことに変わりはない。
いやもしかすると、タカにぃたちの怪力なら、返り討ちにすることもたやすいのだろうか?
と、そこに、
「はっはあーーっ! 今いくぞぉっ、永霞叶詠ぇーーっ!」
ギラついた濁声が、響いたのだ。
柔道部員の中でただ一人意思を持つ眷属、増島克矢がいつのまにか、永霞まで五メートルの位置まで接近していた。
「ここはわたくしが食い止めますわっ! 鷹士は永霞さんの援護に!」
攻撃を掻い潜りながら、生徒会長が言う。
「し、しかしっ!」
タカにぃは躊躇う。
「永霞さんを押さえられたら、わたくしたちの敗北でしてよ! 優先順位を間違えないで!」
生徒会長に説き伏せられ、
「くっ、すぐ戻るよ、雲雀!」
タカにぃは走り出した。
タカにぃを追って、何人かの偽者もついていく。残る二十人以上を生徒会長は全部一人で引き受けることになる。
お、俺は何をやってるんだ……! 縮地で、すぐに永霞を助けにいかなければ! それから、タカにぃと生徒会長にも、加勢にいかなければ!
ところが、
「待つのだ、芹生龍征」
ずっと傍観者に成り下がっていた俺に、呼びかける声があった。
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