第24話

「チキータよ、貴様も首を離されたままやつにいいようにされるのは不本意であろう? やつに一矢報いる気概があるのなら、首を繋げてやってもよいぞ?」

 サーリャはそんな提案を持ちかける。

 見ればよろよろと、頭部を失ったチキータの身体がサーリャの方へと歩いてきているじゃないか。

「けっ、どうせオレ様を捨て石にして、やつの手の内を知りたいだけじゃん? でも、乗ってやるじゃんよーっ!」

 チキータは投げやり気味に承諾した。

「ほれ」

 するとサーリャは、チキータの生首を身体に向かって弧を描くように放り投げる。

「ちょっ、テメェ、もっと大事に扱うじゃんっ!」

 空中で回転し、視界も揺れまくったのだろうか、初めチキータの身体はわたわたと両手をばたつかせ、慌てた素振りを見せるも。

 生首が手の届く距離まで来たときには、安定した動作でしっかりとキャッチしたのだった。

 チキータの身体は、首の切断面をぴったりと傷口にあてがう。向きを微調整。そして――。

「覚えてやがるじゃんっ!」

 数秒後には、何事もなかったかのように、完璧にくっついていた。

「まあでも約束は約束じゃん、……よく見とくじゃんよーっ!」

 そう言うと、チキータはデザートイーグルを手に、ブシャウスキィへと駆け出していく。

 実は、チキータはとても義理堅い性格なのかもしれない。

「ほっほっほっ、お仕置きが怖くて、逆ギレしちゃいましたかぁ? お茶目さんですねぇ、チキータちゃんはぁ~」

 輿に担がれたままブシャウスキィは、緩んだ態度を改めもしない。

 そして、おもむろに、何かを取り出す。

「これな~んだぁ?」

 ブシャウスキィの手のひらには、ちょうど子供の握り拳くらいの大きさの、ピンク色をした、見ようによってはハート型に見えなくもない、肉の塊が載せられていた。

 内臓? 人体模型の中に入っているのを見たことがある気がする。

 苦虫を噛み潰した表情で、チキータは呟く。

「オレ様の……心臓じゃん……」

「せいかぁ~いぃ~」

 嬉しそうに言って、ブシャウスキィは――。

 グッチャアァッ!

 その肉塊を力いっぱい、握り潰したのだ。

 バタンッと、チキータは苦悶に満ちた顔のまま硬直し、受け身もなしにその場に倒れ込む。

 ブシャウスキィは手を開く。

 ぐしゃぐしゃになった肉塊は……、コマ送りの映像のようにゆっくりと、元の形へと戻り始めた。

「やはりな」

 口を開いたのは、サーリャだった。

「真祖が真祖を従わせる場合、相手の心臓を抜き取るのが常套手段なのだ」

「心臓を抜き取るって……、痛いのか?」

 俺は思わず尋ねてしまう。

「抜き取られただけでは痛くないな。不死者真祖は切断などで身体の一部が分離されたときにあまり痛みが生じないのでな」

 そういえば、さっきチキータの生首も全然平気そうだったな。

「だからあのように携帯も可能だ」

 チキータの生首も(以下略)。

「だが、その分離された部位を破壊されると、痛い。特に心臓は、修復されるまでまったく身動きができなくなるほどにな」

 俺も自分の心臓を槍で貫かれた際の痛みを思い出し、震えがこみあげる。

 あれ、じゃあ、自力で心臓から槍を抜いた俺って、けっこう我慢強いってことか?

「不死者真祖の内臓など、替わりに石でも詰めておけばよさそうなものなのだがな。機能を果たしているわけでもないのだ、不死者真祖の心臓は血管を循環させぬ」

 憎々しげに、サーリャは吐き捨てる。

「にもかかわらず、真祖の内臓は、人間と同じ感覚を有している。我々が、人間を模してつくられていることを忘れるな、と身に刻まれているのだ」

 真祖をつくったのは神様……、地球の意思だとサーリャは言っていた。

「やって、くれるじゃんよ~……」

 抜き取られた心臓がブシャウスキィの手のひらの上で自動修復されたチキータは、すごく嫌そうに、本当はもうずっと倒れたままでいたかったと訴えてくる表情で、銃を構える

「ほっほっほっ、そんなにあれがお望みなんですねぇ、チキータちゃぁ~ん?」

 ブシャウスキィのいやらしい顔つきが、さらに気持ち悪さを増した。

「これな~んだぁ~~~?」

 また新たに、ブシャウスキィが取り出したのは……、肉の色をしたナマコのような物体、片側がやや細くて反対側にいくほどに太くなっている、そんな内臓らしかった。

 が、俺にはそれが自分の中にあるという実感が湧かない。あまりにも、馴染みがない気がしていた。

「オレ様の……」

 チキータの様子がおかしい。視線を下に向け、恥辱に塗れたかのように頬を赤らめる。

「し……」

 し……?

「子宮、じゃんよーっ!」

 泣きそうな声で叫ぶチキータ。

「だぁ~いぃせぇ~いぃ~かぁ~いぃ~~~」

 ブシャウスキィは、べろおっと、涎滴る長すぎる大きすぎる舌を口から出すと、チキータの小ぶりな子宮ほぼ全体を余すところなく舐めたのである。

「くっ、ひぃぅぅっ……!」

 チキータはへなへなと力が抜けたように内股になり、今そこには大事な内臓は収まっていないはずの下腹部を押さえ、悶えた。

「ほっほっほっ、お次は指でつついてみましょうかねぇ? ほっほっほっっほっ」

「や、やめっ……ひぐっ!? はぁっ、ああぅああああああっ!!」

 チキータは立っていられず、地面にへたり込んでしまう。もはや戦うどころではない。

 俺は男なので、子宮を触られた経験がない。あ、もちろん、触った経験も。なので今どんな感覚がチキータを襲っているのか、想像するのは難しい。

 しかし、一説によれば、性感帯のほかのどの部位とも異なる、最も強い刺激をもたらすとも聞く。

 それは、身体中全身に突き抜けるような。何度でも繰り返し得られる絶頂だと。

 くすぐられ続けるのが辛いように、絶頂を迎えさせられ続けるのもとても辛いものであるにちがいない。屈辱感も大変なものだろう。

 不死者真祖にとって性別に意味があるのかはわからない。サーリャやチキータを見ていると、人間の女性とはだいぶ感性が異なるのではないか、という気がしないでもない。

 だが、それでも、自分の身体の一部を好き勝手に弄ばれることに対する嫌悪感に、男も女も大差ないだろう。

 むしろ、プライドの問題? そうなると不死者真祖たちはみんなプライドが高そうだから、この責め苦は非常に効果的かと思われた。

「子宮か……、これはなかなかどうして、思いつかんな」

 サーリャはえらく感心した様子で見入っている。

「心臓だけならポピュラーだが、それを発展させるとは、やりおる。が、重要なのは、それをいかにして抜き取ったか、だ」

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