第13話
「さて、今日はいかにして、生徒会長たちの真祖を炙り出してやろうかと考えていたというのに……」
「完全に肩透かしを食らった感じだな」
下駄箱の前で、登校してきたばかりのサーリャと永霞と俺は、三人で顔を見合わせた。
永霞と俺の下駄箱の中に、それぞれ一通ずつ、まったく同じ文面の手紙が投函されていたのだ。
その手紙には、
「本日昼休み、校長室へ来られたし。私立譜城山学園高等部普通科生徒会長、円城寺・雲雀・ラトランダー」
と書かれていた。
「永霞叶詠、芹生龍征、双方を同時に呼び出したということは、当然吾輩も招待されていると考えるべきであろうな」
「真正面から面突き合わせて、ガチンコ勝負を挑んでこようってのか!?」
「まあそういきり立つな芹生龍征。相手もまずはこちらに探りを入れたいというのが本音ではないかな? 全面衝突も、遅かれ早かれ避けられぬとは思うがな」
サーリャに窘められてしまう。地味にショックだ。
「罠という可能性はないんですか……?」
「やはり永霞叶詠は賢いな。貴様を眷属としたこと、誇りに思うぞ」
別に永霞は嬉しくもないだろうが、むしろ複雑な心境だろうが、サーリャに褒められる。しかしその扱いのあまりの違いに、俺は激しくショックだ。
「ただ、罠であるとすれば、わかりやすすぎる。罠と思えば、指定された場所へ普通は足を運ばぬよな? それに、罠にかけたいのであれば、真祖と眷属を引き離し各個撃破を狙うが上策。ならば手紙など送らず、学園生活の中で永霞叶詠か芹生龍征が一人になる隙を窺うのが正しかろう」
サーリャが分析する。なるほど、と感心する。
「真祖と眷属揃って来いという……つまりこれは、関係者全員で集まって挨拶をしよう、としか考えられぬな」
そんなものなのか……、不死者の真祖ってけっこう、礼儀正しい?
「永霞叶詠、生徒会長は格闘が得意なのか?」
「はい、生徒会長はフェンシング中学生大会三連覇。高校生大会でも去年優勝しています」
サーリャの問いに、永霞はすらすらと答える。
「ほほう、貴様のよきライバルではないか。眷属剣士の東西対決が見られるとは、吾輩の目の付け所は本当に素晴らしいな!」
ポジティブなやつだなー。
「では生徒会長は貴様に任せるぞ、永霞叶詠」
「はい」
サーリャの命に淡々と応じる永霞。
でもそれ、いざとなったら一対一で戦えってことだろ? かっこいいが、物騒な指示に表情一つ変えず従う永霞はあまり見たくない。
「副会長はどうなのだ、芹生龍征?」
今度は俺に振ってきた。
「タカにぃは……槍投げの選手だよ……」
「貴様よりは殺傷力がありそうではあるな……」
聞いたサーリャは微妙な表情をする。ちょっとおもしろい。
「まあいい。副会長は芹生龍征、貴様がなんとかしろ」
「陸上部員にバトルを要求すんなよっ!」
「子供の喧嘩程度でも、足止めできればそれでいいのだ」
生徒会長を永霞が、タカにぃを俺が引き受ければ、サーリャは真祖同士の一騎打ちに専念できるってことか。
ん? けど、それは相手も眷属二人で、三対三で対峙するのが前提だよな? 相手の眷属がそれ以上の数だったら、どうするんだ?
「そういえば、ほかに柔道部男子が丸ごと眷属であったな」
「ぶっ!」
サーリャが何気なく追加した言葉に、俺は吹き出してしまう。
「柔道部男子全員って、何人いんだよっ!?」
「男子は三十三人、在籍しているはずよ」
すぐさま永霞が、教えてくれる。
すごいな、まさかすべての部活の部員数を把握してたりするのか!? いや、今驚くべきところはそこじゃない。
「どうすんだよ!? 相手はこっちより、三十三人戦力が多いぞ!?」
「主将の増島克矢だったか? あやつ以外はヴェドゴニア遺伝子を持っておらぬ、己の意思を持たぬ眷属だ」
言われてみれば、あのとき教室に並んでいた柔道部員たちは皆、虚ろな表情だったかも。
「そやつらは吾輩が一分以内に蹴散らしてくれよう」
サーリャは勇ましいセリフを口にしたが……。
その一分のあいだ、相手は黙って見ていてくれるのか? その一分が、命取りになるんじゃないのか?
気がつけばサーリャも、何事かを真剣に考えている表情だ。
「校長室に入る前だが……柔道部員がずらりと廊下に待機していた場合、場所を変えさせるか会わずに帰ることにするか。退路を塞がれては厄介だからな。校長室内に、柔道部員が一人でもいた場合も、同様だ」
サーリャが珍しく慎重な提案をする。
いや、やはり真祖同士の戦いには、一分の隙も許されないという証明なのだろう。
「永霞叶詠には校長室に入らず、廊下側の扉の前で見張りをしてもらう。何か変化があればすぐに叫び扉を開けよ」
「はい」
なるほど、それなら俺たちが校長室に入った後で、隠れていた柔道部員たちに扉を固められる心配はなくなるってわけか。
それにしても、現在わかっているだけで……、俺、永霞、生徒会長、タカにぃ、柔道部員三十三名、合計三十七人もの生徒が、不死者の犠牲になってしまっている。
まだほかにもいるのかどうか。それだけじゃない、今後さらに犠牲者の数は拡大の一途をたどりかねない状況……。とんでもない大災害だ。
「柔道部員以外にも、まだほかに眷属にされた者がいるかもしれぬな」
俺と同じ思考をしたらしいサーリャが再び口を開いた。
「とにかく、見覚えのない者がいた時点で終了だな。真祖と思しき者、生徒会長、副会長、この三人以外に誰かいたら、退散するとしよう」
「あの、サーリャ様……」
すると、永霞が控えめながら何か進言しようとする。
「ああ……、校長室というからには、校長はすでに眷属であろうな。そのときは……、おそらくヴェドゴニア遺伝子保持者ではなかろうから、よしとするか」
永霞が言わんとすることを察したサーリャは、先手を打って付け足した。
しかし、ぞんざいだ。いい加減、考えるのが億劫になってきたんじゃないだろうな。
「あの、なんで校長がヴェドゴニア遺伝子保持者でないって、わかるんですかね?」
俺は思わず丁寧語で尋ねてしまう。
「うむ、ヴェドゴニア遺伝子保持者は、なにかしら秀でた才能を有する者がほとんどだ。一方、校長などになりたがる輩は、おおかたなんの才能もないくせに権力者になりたがる小物であろう。上に媚びるのだけは上手かろうがな」
すごい偏見だ! 校長と名がつくものに、何か恨みでもあるのだろうか!?
「まずいのは囲まれることであるゆえな。校長室内で、予想では扉の反対側にある執務机、そこ周辺に真祖、校長、生徒会長、副会長が固まっている。それが挨拶だけで済む唯一の配置だ。それ以外の場合は、撤収、これで決まりだ」
俺の視線に気づき、サーリャが最終的な判断をまとめてみせる。
いいだろう。どうせ俺は眷属、サーリャに逆らえないしな。
……本当は逆らえるけど、サーリャは強すぎるし、人質もいるし、交換条件で約束もしちゃったし。
もう、為すに任せるしかない。
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