第22話 復讐
「皆様、よく聞いてください。今から話す事は本当の事です」
俺の声がマイク越しで響く。
「実は……哀來さんは燕大光の本当の子ではないのです」
「えぇ!? 小夜様! 何を言い出すのですか!?」
俺はとっさにマイクを後ろに隠したので哀來の声はマイクに入らなかった。
下の会場からすごいざわめきが聞こえている。まぁ当然だろう。
「おい誰だ! そんなデタラメを言う奴は!」
この大声は……。
「大光様。私はもう限界です。全て話させていただきます。警察には全て伝えました」
柏野さんはマイク越しで大光をなだめた。
「燕大光さん。アンタは自分の娘……いや、姪をいつまで騙し続けるのですか?」
「め、姪って、どういうことですか!」
哀來の顔が青ざめてきた。
「哀來さん。今からあなたにとってとてもショックな事を言います。よろしいですね?」
「どうして……どうしてそんな事をするのですか! せっかくの結婚式なのに……」
「……」
泣いていない。
おそらくあまりのショックで涙すら流せないのだろう。俺の勝手な考えだけど。
「それは……許せないからですよ」
俺はマイク越しで大光にも聞こえるように言い放った。
「哀來と俺の父親を殺害した燕大光をね!」
* * * * * * * * * * * * * *
俺は柏野さんから聞いた親父の事件と十七年前の哀來の親父の事件の両方を詳しくマイク越しで説明した。
下の様子は声から察すると、大光は柏野さんに身動きを取れなくさせられたらしい。
哀來は途中から涙を流し始めた。しかし俺が話すのをやめさせようとせずに黙って聞いていた。
俺は話し終えるとその場から立ち去ろうとした。
「何処に行くのですか」
哀來が聞いてきた。
「俺はもうここにはいられません。貴方を傷つけてしまった。こんな俺、顔も見たくないでしょう」
「さようなら。もう会うことは無いでしょう。教えることもありません」
これでいいんだ。これで俺の復讐は終わった。
もうここには用が無い。
「さようなら哀來さん。もう会うことは無いでしょう」
俺は哀來に背中を向けて出口に向かって歩き出した。
「お待ちください!」
思わず立ち止まってしまった。
「もう会えないなんて……そんなの嫌です!」
「貴方には綾峰さんがいるでしょう。俺なんかよりも……」
哀來は首を振った。
「前にも言いましたがわたくしは」
「目立ちたがり屋の人は好きではありません」
「……」
そういえばずっと前に言っていたな。
まさかこんな時にまた聞くとは。
「……小夜様。マイクを貸してください」
言われるがまま俺は哀來にマイクを手渡しした。
どうする気だ?
「お父様。聞こえていますか?」
「その声は哀來! お前はこんな馬鹿な事を信じないよな!」
柏野さんから奪ったのかマイクを通した声になっている。
「……わたくしは今まであなたを『お父様だから』という理由で全ての事に従ってきました。どんなに嫌な事でも『お父様に喜ばれる為』と思って……。しかしあなたはお父様ではありませんでした。わたくしをずっと裏切っていたのです! さらにはわたくしの大好きな方のお父様までも……。もう決めました! わたくしは針斗様との婚約を破棄します! そしてわたくしは燕家から出て行きます! 探さないで下さい!」
「お、お前まで……何故だ!」
「わからないのですか!? ……もういいです」
あーあ。とうとう見捨てられたか。
「奴の言った事は嘘だ! お前を騙しているんだ!」
「……」
哀來は何も言わなかった。もうあの男の言う事は何も信じられないのだろう。
「どうするんですか? これから」
「……小夜様、嫌なら嫌と言って下さい。」
哀來は少し間を空けてから聞いてきた。
「わたくしを……あなたの元に連れて行ってください」
そうきたか。
俺は迷った。
哀來を家に連れて行ったらお袋とアルトは何て言うだろう……。
「さっきのお話でわたくしの本当のお父様は小夜様と結婚させる、とおっしゃられていたみたいですね。ならばわたくしは亡くなったお父様の意思を継いで朱雀家にお仕えします。そして……小夜様のお父様のせめてもの償いになるのであれば……」
「……」
哀來……。
今の哀來を見て俺は考え直した。
そういえば親父は俺を哀來と結婚させたがっていたんだよな。
結婚したら天国で喜んでくれるのか?
「……いいだろう。今日からお前は朱雀家に来い! そして」
俺は一拍置いて哀來に告げた。
「俺の嫁になれ!」
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