第23話 復讐終了
それから俺と哀來は柏野さんとの打ち合わせ通りに動いた。
俺は哀來を連れて裏口に回った。外へ通じる扉を開けると目の前には運転席に柏野さんが乗っている車が待っていた。
柏野さんは会場からすぐ飛び出して車の用意をして裏口で待機している、という計画だった。どうやら成功したみたいだ。
俺が扉を開けて哀來を先に乗せた後に乗ると車が出発した。
窓から正面入り口の方を見ると、パトカーが何台か見えた。
哀來はそれを黙って見ていた。俺も一緒に見ていた。
これで……これで終わったんだ。
俺の復讐が。
無計画で始まった復讐。何が起こるかわからなかった復讐生活。このような結果で終わるとは当然、思いもしなかった。
『復讐』というのは悲しい結末で終わるのがほとんどだ。
特に俺のような殺人に対しての復讐は。
俺も一応、法に触れる事だけは避けようとしてきた。しかし万が一のときの事も考えていた。
だがそれは余計な考えだった。
まさか犯人が逮捕されるというこんなに良い方法で成功するとは。
「お嬢様。申し訳ありません」
「いいの柏野。あの男から解放されただけでも嬉しいわ」
哀來は安堵の溜息をついた。
「これからわたくしは自由なのね」
「はい。お嬢様は自由の身です」
「ねえこれから柏野も小夜様の家で暮らさない? 柏野が必要なの」
「それはいい! 柏野さんがいれば心強いです!」
「いえ、それはできません。お嬢様は小夜様と一緒にお幸せになってください」
「な!?」
「どうして!?」
俺達は頼みの綱が消えたみたいに驚いた。
「申し訳ありません。本当はご一緒したいのですが……どうしてもご一緒できないのです。どうかお許しください」
「柏野……」
口調がすごく重々しい。どうしても断れない事情なのだろう。
「哀來。柏野さんのおかげで自由になったんだ。ここは柏野さんの意見を優先しよう」
「……そうですね。わかったわ柏野。貴方が言うのなら」
「どうかお許しください。お嬢様」
それにしてもどうしても一緒に住めない理由って何だ?
「柏野、一緒に住めない理由って何なの?」
「……すみません。今は言えません。いつか話せる時がきたら話します」
今は言えないのか。じゃあ仕方ないか。無理に聞くと迷惑だしな。
そういえば今何処に向かっているんだ?
「柏野さん。今、何処に向かっているんですか?」
「小夜様の家です。道は覚えているので任せてください」
「追いかけてきたりは……」
「できないでしょう。警察が会場に来ているのですから」
「あのー。それって俺達は大丈夫なんですか?」
「大丈夫でしょう」
なんか少し不安になってきた。
「おや、もう小夜様の住んでいる街に着きましたよ」
窓を見ると見慣れた景色が見えた。約一ヶ月半ぶりに帰ってきたのだ。
見た途端、安堵のため息が出た。
ああ、帰ってきたんだな。
「小夜様お疲れ様でした」
俺を心配してくれたのか哀來が声を掛けてきてくれた。
改めて思ったが俺は『人の花嫁を連れて会場を脱走する』というドラマみたいなとんでもない事をやったんだな。まぁ花嫁側も同意の上でだけど。
「小夜様。ここでわたくしも暮らすのですね」
「ああ」
「楽しみです。どんな所でも貴方と一緒なら平気です」
なんだか奥さんみたいな事を言ってきたので俺はドキっとした。
哀來と暮らすのか……。
彼女がいる同い年はいるが、同棲をしている奴はいないだろう。
俺は自分だけ進展している展開に嬉しさが込みあがってきた。
「そろそろ着きますよ」
窓を見るともう家のすぐ近くにいた。
柏野さんは家の前に車を止めて俺と哀來が降りた後に車のエンジンを切って降りた。すると携帯を取り出して誰かに電話した。
通話は早く終わり、しばらくすると玄関のドアからお袋が出てきた。
「お、お袋! いや、これはその……」
「いいの小夜。柏野さんから全部聞いているから」
「え?」
『柏野さんから全部聞いている』?
「はじめまして。貴方が燕哀來さんね」
「は、はじめまして! 小夜様のお母様!」
「今日からよろしくね。 自分の家だと思って暮らして頂戴」
「はい!」
なんかテンポがいいな。
お袋は哀來に挨拶を済ませると柏野さんのところへ行った。
「柏野さん……この子、本当にあの人にそっくりですね」
「はい。哀來お嬢様は彩彦様にそっくりです。見た目も性格も」
そうなんだ。やっぱり本当のお父さんに似ているんだ。
確かに大光には似ていなかったな。見た目も性格も。
「どうかお嬢様をよろしくお願いします」
柏野さんはお袋に向かって深々とお辞儀をした。
「私もあの人の約束を守りたいので……任せてください」
お袋は自信満々に柏野さんに告げた。
「お嬢様……」
柏野さんは哀來の所に行き、哀來の両手を手に取った。
「どうか小夜様とお幸せに暮らしてください。私はお嬢様と小夜様、そして朱雀家の幸せをいつまでも願っています」
最後は強く握り締めたように見えた。
「ええ。家出して好きな人と一緒になれたんだもの。絶対幸せになるわ!」
哀來も強く柏野さんを握り締めたように見えた。
「小夜様」
今度は俺の所に来て両手を握られた。
「お嬢様はとても繊細な方です。どうか大切に守り、そして末永く幸せでいてください」
「いててっ!」
握り方がかなり強い。柏野さんてこんなに力があったんだ。まぁ執事だしな。
「申し訳ありません。つい……」
「いいえ。柏野さんの気持ちはしっかり受け取りました!」
柏野さんの思い、無駄にはしない!
「それでは……私はこれで失礼します」
そう言って柏野さんは車に乗って行ってしまった。
柏野さん……本当にありがとうございました。
「さあさあ二人共、いつまでもここにいないで家に入りましょう。アルトも待っているわ」
「アルトさん?」
「弟ですよ。さあ、入りましょう」
「はい!」
こうして俺の復讐劇は終わった。
しかしまだ謎が残っている。
それは哀來が朱雀家に住んでからわかった。
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