第19話 2つの準備

 狙撃事件から一週間後、二月も下旬に入り、そろそろ高校の卒業式の予行練習日も近くなってきた。

 だが俺と哀來はそれよりも後にやる行事を準備している。

 それは。

「会場は行楽圓ドーム! 世界的ファッションブランドを持つ綾峰家と燕家の結婚式は派手にやらないと!」

「楽しみですね針斗様」

 哀來と綾峰さんは哀來の部屋で仲良くウエディング雑誌を見ていた。

「あのー綾峰さん。何か私に用事があったのでは?」

「ああ、忘れてた」

 『忘れてた』だぁ?

 呼び出しといてそれはないだろ!

「先生には会場でピアノを弾いてもらう約束をしましたね。その曲を決めるのは先生に任せてもいいですか?」

「いいですよ」

「ピアノの位置は担当者達に決めるから任せておいてよ。ああ、そうそう、奥の席に座っている人にも聞えるようにピアノの中にマイクを入れておくから心配は無用だよ」

「そうですか」

 準備は全部担当任せか。

「小夜様のすばらしい演奏を沢山の招待客の皆様にお聞かせできるなんて! 自分の事みたいでとても嬉しいです!」

「そ、そうですか」

 哀來……そう思ってくれて嬉しいぞ。

 あれ? 何で嬉しいんだ俺?

「僕と哀來ちゃんの愛をイメージしたような曲がいいな。それとも結婚を喜ぶ曲でもいいぞ」

「あ! いい事思いつきました!」

 な、何だ? まさか哀來が提案するとは少し意外だ。

「先生と見たミュージカルの曲がいいです」

「ああ、あれですか」

「どんな曲なんだい?」

 そういえば綾峰さんは知らないんだっけ。

「主人公の夢が叶った気持ちが歌になった曲です」

「なるほど。歌無しで流すのも悪くないな。よし! 先生、それにしてくれ」

「わかりました」

「話は以上だ。また何かあったら呼ぶから」

「小夜様よろしくお願いします」

「わかりました」

 俺は哀來の部屋を出て、真っ先に柏野さんがいる応接室に向かった。

 作戦会議をするためだ。二人だけだけど。

 応接室に入ると柏野さんはソファに座って待っていた。

「お待たせしてすみません」

「お気になさらないでください。ささ、どうぞお座りください」

 俺はソファに座ると柏野さんにさっきの話し合いの事を伝えた。

「なるほど。では小夜様も式に参加なさると」

「はい」

「……これは私からのお願いですが復讐は結婚式でやりませんか?」

「結婚式で、ですか?」

「哀來様を連れて逃げて下さい」

「『連れて』って……会場はドームですよ! 走って逃げたら必ず捕まりますよ!」

「大丈夫です。走って逃げなければいいのですから」

「……どういう意味ですか?」

「こんな作戦はどうでしょう」

 ……。

 俺は柏野さんのアイディアを真剣に聞いた。

「えっと……なんというか……成功しますかね?」

「実は昨日、お嬢様にもお伝えしました」

「そ、そうなんですか?」

「はい。『一緒に逃げる』とは言っておりませんが」

「練習はいつからします?」

「明日からしましょう。大掛かりですから」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る