第18話 まさかの!?

「婚約者が不安な夜を過ごすのなら一緒にいるのが普通だろ」

「綾峰様! お嬢様は私がお守りいたしますから今日はお帰りになられた方がよろしいかと。ここは危険です」

「哀來ちゃんは僕と結婚するって言ったんだ。だったら僕と一緒にいたほうがいいだろ!」

「何と!」

 哀來の心変わりには柏野さんもかなり驚いた。

 そんな柏野さんを置いて綾峰さんはドアを開けて走って出て行った。哀來の所へ行ったのだろう。

「ど、どういう事ですか!? 小夜様!」

 ついに柏野さんまで俺の事を『小夜様』と呼んだ。

「哀來さんは俺を諦めて綾峰さんと結婚すると」

「なんて事を! もしかして今でもお嬢様の事が好きではないのですか?」

 なんて質問だ。

 どう答えればいいんだ?

 ピピピピピピピピピピピピピ

 持っていたスマホが鳴り出した。

「すみません」

「いえ、おかまいなく」

 スマホを手に取ると架谷崎さんからの電話だった。

「もしもし?」

『もしもし小夜君、ちょっといいかな?』

「はい。何でしょう?」

『昼に私が言った『柏野さん』なんだけどね、その人ってもしかして燕家の執事さんの事?』

「そ、そうですけど?」

 何で知っているんだ?

『やっぱり。お母さんから聞いたよ、燕家にいるって。それでね、知らせたい事があるの。』

 な、何なんだ?

『実はね、先生が殺された日に訪れたお客さんはね『柏野さん』だったの』

「何だって!!」

 さすがに叫んでしまった。

『黙っていてごめんなさい。まさか知っているとは思わなくて。だからあんなことを……』

 そうか。架谷崎さんは俺が燕家にいるのを知らない。だから柏野さんの名前を聞いたときに様子がおかしくなったんだ。

「……わかりました。わざわざありがとうございました」

 いろいろ納得できない気持ちで電話を切った。

 あの日事務所に行ったのは柏野さん?

 という事は……。

「犯人は柏野さん!?」

「なんですかいきなり!」

 思わず柏野さんの方を振り向いて叫んだ。

「か、柏野さん! 事件があった日に……親父の事務所に行ったんですか!?」

 柏野さんは黙って俯いた。

「何とか言ってください! 柏野さんが親父を殺したんですか!?」

「……申し訳ありません!」

 柏野さんは俺に土下座をしてきた。

「……どういう事ですか?」

 俺は恐る恐る聞いた。

「確かに私はあの日、朱雀様の事務所にお邪魔しました。朱雀様とある大切なお話をするために」

「何ですか、大切な話って?」

「お嬢様と小夜様を婚約させるお話です」

 そっか。十八年前の約束。

「それについて朱雀様と一時間ほどお話をしていました」

「それからどうしたんですか」

「帰りましたよ」

「帰るときには親父はどうなっていたんですか?」

「生きておりました」

「え!? だってその日に来たお客さんは一人だって聞きましたよ!」

 どういう事だ?

「私もあれから考えていました。そして一つの考えに辿り着きました」

 一体どういう考えだ?

「事件の日に訪れたお客様は私一人でしたね」

 だったら柏野さんが犯人じゃ……。


「同じ日に、私になりすました別人が来たのではないかと」


「な、何だって!!」

 別人? なりすました?

「ど、どうしてそんな考えになるんですか!?」

「私も警察の事情徴収に呼ばれ、その時に朱雀様が死亡した時刻を聞いたのです。その時間、私は事務所を出た時刻から一時間も過ぎていたのです」

「い、一時間も……」

 だったら柏野さんにはアリバイがある。

「監視カメラにも映っており私を犯人として告発するには不十分だったため開放されました。しかし、犯人は見つかっておりません」

「ど、どうして犯人は柏野さんに変装なんかして会いに行ったんでしょうね?」

「朱雀様を油断させるためでしょう。そして……私はとんでもない事にも気が付きました」

 今度は何だ?


「私が朱雀様に会いに行った事を知っているのは大光様だけなのです」


「……それって、つまり……」

「はい……」

 やっぱり。

 親父を殺したのは。

 燕大光!!

「私が出かけた後に大光様は私に聞いてきたのです『朱雀にあったな』と。誰にも知らせていない事をどうして知っていたのか今まで疑問に思っていましたが……まさか……」

「許さねぇ……絶対に……」

 なんとかしてアイツに復讐したい!!

「復讐、したいですか?」

「!!」

 柏野さんが立ち上がり、俺の心を読み取ったかのように聞いてきた。

「はい」

 迷い無く俺は答えた。

「私も復讐したいです。朱雀様と彩彦様の命を奪った男に」

 柏野さんは前に見た時よりも強い怒りがこもった目つきをしていた。

「柏野さん……やりましょう!」

「はい! プランは私が考えます。法に触れずにできる復讐をしましょう」

 そうだな。触れたら俺達も大光と同じ事をした事になる。

「法に触れずにやる……難しそうですね」

「大丈夫です。小夜様には安心して復讐できるように綿密に計画します」

「ありがとうございます」

 絶対に成功させる。どんな復讐でも!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る