第七話・「俺だって時には恐怖を感じる時だってあるんだぜ?」

『契約』をしたのち、クー・・・いやゾンビと遺跡を出て街に降りてきたマギアだったが、予想外の足止めを食らっていた。


「・・・・・・どうしてこうなるのかしら」

「そのセリフそっくりそのまま返すわ・・・」


ゾンビが王国騎士に指名手配されているらしく、正門から入れないらしいのだ。

その時点で「指名手配?なんで?」と思ったのだが、まあ事情でもあるのだろうと聞かなかった。

だが、スラム街のほうからこっそり侵入したのにもかかわらず、なんか襲われたあたりで不審に思い始める。

比喩でも何でもなく、ごつい男やら女やら子供やらがそれぞれに武器を持ち襲ってきたのだから。


ま、腕の一振りで吹き飛んだが。


呻く男にマギアはめんどくさそうに話しかける。


「それでお前たちはなんなのだ?せめて一言ぐらいしゃべってから攻撃してきたらどうだ」

「グッ・・・それは、こっちのセリフだぜ・・・。相手は女一人だって聞いてたのによ・・・。俺たちは賞金稼ぎを、ぐっ、して、るんだよ。横のゾンビとか言う女に懸かった賞金目当てでな」

「・・・・・・。おいゾンビ?」


満身創痍の襲撃者を追い払いつつ、

ススッ・・・と視界外に逃れようとするゾンビに最も気になっていたことを聞いてみる。半眼で。


「お前・・・なにしたらこんな警戒されるんだよ?!完全に扱いが犯罪者じゃねぇか!」

「い、いや、悪いことはしてないわよ?・・・多少、そう多少墓場掘り返したりとかしたり、ブラフのために異世界とのゲートをつなげる噂を立てたくらいで・・・」

「どこのネクロマンサーなんですかね・・・。お前今までどう生活してたんだ?」


空間転移を使うゾンビが弱いとは思っていないが、それにしてもスラム街を歩くだけで敵とエンカウントするような生活を過ごせるとは思えなかった。

というか、これからそうなるとはあまり考えたくなかった。


「どうって、その辺の路地裏で寝てたけど?ご飯も酔っ払いどもの食べ残しがあるし、お風呂も川流れてるし・・・って何よ?」


だめだこいつ。価値観とかがあまりにも違いすぎる。どうしたもんだろうな、と思いつつスラム街を見渡しながら先ほど聞いたゾンビの話を思い出す。


ソレイン王国。

ここは人類が作り上げた王国よ。完全身分制を採用しているこの国は、大きく分けて、王族、貴族、庶民、奴隷までの4階級があるわ。

純粋な人間のほとんどが庶民なの。だけど純粋じゃない人間、つまりは他種族とのハーフとか、はもうほとんどが奴隷身分で安い賃金で辛い仕事をさせられてる者が多い。

で、そんな奴隷たちが集まって生活しているのがこのスラム街ね。このスラム街の特徴としては、それぞれが集団で生活してて、ある一種の・・・コミュニティ?のようになっているという点かしら。

このコミュにはそれぞれ特徴があって、傭兵集団みたいなのから保育所みたいなことをしてるところまであるわ。そういう特徴を生かすためにコミュ同士で協力もしてるみたい。

要するに何が言いたいかっていうと、横のつながりが強すぎて部外者(わたしたち)が入る余地がないってことよ。


(こういう究極の村社会に入り込むには時間が必要だろうな。少なくともまずはゾンビの追っ手を、つまり賞金を出すと言ってるやつをどうにかして、安全に住める場所を確保すべきか。・・・あっれ、ゾンビを差し出して金に換えた方がよくね?)


まあ、流石にそんなことはしないが。まずは住み込みで働かせてくれる宿でも探すかぁ?と思い、ゾンビに心当たりを聞こうとした。が。

ポスッと横から青いものがマギアのほうに倒れてきた。


「おい?」

「・・・・・・」


声をかけてもゾンビは目をつぶったまま動かない。息はしているようだが。


「・・・マジかよ、次から次へとなんなんだ?仕方ないな・・・」

「おそらくは生命力不足だろうな。魔法を限界以上に使う方法として脳を薬で騙して、無理やり使うという方法がある。心当たりがあるんじゃないか?」


突然横から話しかけられた。そして驚く。その女性の身に着けていたものが現代風だったために。

黒いインナーに濃い緑色のパーカー、更には口にたばこのようなものを咥えていて、ヘッドホンを付けていた。紫色の長い髪を風にたなびかせる25歳ほどに見える女性は、無表情にマギアとゾンビを眺めている。


「また、賞金稼ぎか何かかな?悪いが見てのとおり忙しいんだ。また今度にしてもらえるかな」


ゾンビをおんぶしながら、そう言っておく。先制で殴ってもよかったのだが異世界人としての知識が迂闊な行動を押しとどめた。


「・・・私は金には困っていないさ。うちは宿とちょっとした学校の教師をしていてね。君もその背中の女の子もまだ若いようだったから、話しかけたんだ」

「教師、ね。それで?ただで助けるって訳じゃねえんだろ?」

「ふん、良く分かってるじゃないか。うちの宿は人手が足りなくてね。有り体に言えば働いてもらいたいんだよ。そうすれば宿の一室を貸してやろうじゃないか」

「・・・一人分、ね。いやいや実にいい性格してるなあんたは」

「私らの生活も懸かってるんでね。部屋や飯なんかを2人分用意するのは無理だ」

「ああ、それでいい」

「・・・で、働いてくれるのはどっちだい?」

「ゾンビに決まってんだろ。それで最低限の安全と衣食住を約束するんならな」


はぁ。結局羞恥プレイに耐えてまで契約して分かったことは少ない・・・いやまあそれなりにあったか。

そう自問自答しつつマギアは・・・





そろそろ夕暮れかな、と屋根の上に(勝手に)登ったマギアは試したかったことをやってみることにする。マキナの時は意識を失い、マギアの体に入った。なら安直に考えるなら、マギアの体で寝ればマキナに戻れるんじゃないかと。・・・戻れたら戻れたで問題なのだが。


考え方の変質に加え、睡眠すらできないというのなら。


もしかしたら平幅遠野という人間の死はそれほど遠くないないのかもしれない、という不安を一人で押し殺しつつ、マキナがいる王城を眺めながら、またマギアの精神は暗い底に沈んでいった。

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