第六話・「結婚と墓場はやっぱり紙一重なんだな」

二人しかいない半壊している遺跡で会話は続く。


「転移、か何かか?」

「そーよ。で、これからあんたどうするのかしら」

「・・・ふむ。あの連中、というより恵にはまだ聞いておきたいことがあるからな。身体能力は試せたし、街に降りようかと思うが。ゾンビとやらは攻撃してこないのか?」

「4人をはるか遠くに転移させたせいでもう生命力残ってないわよ。攻撃どころか逃げることすらできないわ。・・・従うのが嫌なら召喚者の私のお願いを聞いてくれないかしら?お願いというより契約だけどさ」


生命力?転移させるのには生命力が必要なのか。そう考えつつ、言葉を続ける。


「契約というのは?」

「私の事好きにしていいから恵たちには手を出さないで。それだけよ」

「・・・見上げた仲間愛だな」

「ううん、仲間じゃないけど?私は借りをきっちりと返さないといけないって幼いころ言われてただけ」

「ふん、だがそれは飲めないな。恵に聞かないければいけないことがある以上、また戦闘になる可能性も否めない」

「何を聞きたいのか知らないけど、その価値って私一人分の価値より高いのかしら。この場で私を殺すにしろ犯すにしろ奴隷にするにしろ、それなりの価値はあると自負しているのだけれど」


だが実際問題、マギア一人で世界を生き抜きながら数いる魔王を倒すことなどできるのだろうか?

今回の戦闘は確かに一方的だったがこれが毎回続くとは思えない。当然苦戦するような化け物や魔王は出てくるだろう。異世界から来たという恵の話は聞いておくに越したことはないが、少なくともマギアに今、もといた世界に帰る意思はない。ならば必要なのは・・・。


「わかった。ならゾンビ、お前は今日から俺の所有物だ」

「はぁ、いっそ殺してくれてもいいんだけどねぇ。しょうがないわ、これからよろしくお願いします魔王様、とでも言えばいいかしら?」


ああうんその辺は適当でいい。マキナのほうで間に合ってるんで。

そう言おうとした瞬間、ゾンビとマギアの首に赤いリングが発生した。


「「・・・?」」


ゴーンゴーンと遺跡の鐘が鳴り響く。


「なに、かしらこれは?」

「いやこちらが聞きたいのだが・・・」


ジジッ!とした焼ける音とともに床一面に赤い焼け跡で文字が紡がれていく。


『宣誓文・私たちは本日ここにご列席の皆様の前で結婚式を挙げます。これからは永遠に変わることなく幸せな時も困難な時も心をひとつににして乗り越え、笑顔に満ちた明るい家庭を築いていくことを皆様の前で誓います』


「「・・・・・は?!」」


マギアはともかく、ゾンビですら知らなかったことがある。

多数の霊脈が交差するこの場所にあるこの朽ちた遺跡が、もともと何のために作られたのか。

そしてなぜ廃棄されたのか。


簡潔に答えを述べよう。ここはもともと結婚式場だった。それもごく最新式の。

結婚はある意味で契約であり、その契約を魔法による強制力を持って行えば、泣く者のいない夫婦を作ることができるのではないかと。

・・・まぁ無理である。そもそも結婚と契約をいっしょくたに考えている時点で無理である。

事実、此処で結婚した者たちの多くは殺人と自殺件数を増加させただけだった。

なぜならたちの悪いことに、永遠に契約破棄にならないからだ。死んでもなお。

宣誓文に書かれた永遠とはそういうものなのだろう。

その結果、当然利用者はいなくなり放置された。


そしてそんな場所で「契約する」など言ったらどうなるか。

その答えがここにある。


「どう、言うことだこれは」

「・・・・・・私も知らない。あんたも知らない。なら第三者のせいでしょうね。つかなによこの宣誓文。皆様の前でって誰もいないわよ」

「うん突っ込むところはそこじゃないと思うが」

「・・・で、どうするのよ魔王様?この首輪みたいなの取れないしさ。なんか解除できる魔法とかないの?」


まず魔法って何?そこから聞きたいマギアだったが聞けるはずもない。


「・・・ゾンビはなんかやけに平然としてるな」

「んーまあ私微妙に人妻だしね」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・はい?」

「強制的に結婚させられたのよ。・・・・・・今回は自分でしたくてした契約だからまだましかしらってね。あーでも愛情とか期待しないでね」

「どんだけハードな人生送ってんだお前・・・」

「で、はっきりしなさいよ。この状況を打破できる方法があるの?ないの?」


・・・実質一択だった。


「はぁ・・・。『宣誓、私たちは本日ここにご列席の皆様の前で結婚式を挙げます。』」

「ちょっ、勝手に始めないでよ。」

「「『これからは永遠に変わることなく幸せな時も困難な時も心をひとつににして乗り越え、笑顔に満ちた明るい家庭を築いていくことを皆様の前で誓います』」」


「えっと、あとは名前かしら。うーん・・・」

「名前・・・?」


え、今の俺の名前ってなんだ?マギアって名前は今作ったものなんだが。

ど、どうしよう・・・と思ってる間にゾンビがしゃべる。


「『クー・レヴェル』」

「本名か?」

「そうよ、けど人前で言ったらぶっ殺すから」

「なにそれこわい。本名なら、『平幅遠野』かな」

「変な名前ね」

「俺から見たら皆変な名前だけどな」


しかし、しばらくたっても何も起こらない。いやまさかとは思うが・・・。


「・・・・・・なにも変わってなくないかしら?心を込めないとダメとかだったら詰みじゃない?」

「いや・・・たぶん違うだろ。こういう場合の定石って・・・」


もうやけくそだった。羞恥プレイとかそういう次元じゃない。


「なによ、どうし・・・・・・んっ?!」


クーの腕を引っ張り、抱き寄せて、口づけをした。

瞬間、首にあった赤いリングは左手の薬指に巻き付いていき、指輪に変わる。


「・・・・・・キスするならそう言ってからにしたらどうかしら?それともなに?ことあるごとにキスして回っているの?」

「んなわけねー・・・」


寝て起きたらいつの間にか王子になってるわ、はじめて見た妹に切れられるわ、魔王軍とやらに狙われてやばいらしいわ、ルーレの闇を覗いてしまうわ、中庭で気を失うわ、起きてみたら魔王とか言われて攻撃されるわ、そこで初めて会った女の子と結婚することになるわ。



(もうヤダこの世界、まともな出来事が一切起こらねえ・・・!!)



嘆きなど誰も聞いちゃいないと知っていながらもマギアは曇天を仰ぐのだった。

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