第五話・「魔王で無双って楽しいね」

もうこの世界ヤダ僕帰りたい。


若干幼児退行でもしているようなマキナだったが、仕方ないだろう。

目が覚めたら見たことのない場所で、しかも自分とは異なる人物になっている、という尋常ではないことがたった半日の間に2回起きたのだ。精神が弱い人ならここで自殺してもおかしくないレベルである。

・・・まあマキナは今回も好奇心が勝ったが。


「Re:慎重/言葉は解せるようですね、よかったです。私たちにはあなたに危害を加える意思はありません」

「うん、攻撃とかは自衛の時以外しないのがルールだからさ。よかったら名前だけでも教えてくれない?」


話しかけてきたのは機械っぽい幼女と茶髪にセーラー服の少女。

謎の縫い目が目立つ青い髪の右足の無い少女や目立ちまくってる白い忍装束?の女の子、それと緑色した翼の無いドラゴン・・・トカゲ?みたいのまでいたが、こちらは状況をうかがっているようだ。流石はファンタジーのお手本のような世界。どんな生物がいてもおかしくないらしい。


(っていうか、俺いまの名前ってなんだ?あれ、答えられなくね?)


明らかにマキナの体ではない。髪が黒いために。それは分かっても自分が誰なのかわからないというのを目の前の5人に言うのは、さすがに危険だ。ルーレの時は混乱してペラペラ全部しゃべってしまったが、あとから考えてみれば初めて会ったルーレのことを信用しすぎた行為である。同じ間違いは繰り返すべきじゃないと思い、定型文で返すことにした。思いがけないところで経験が生きるものである。


「・・・この辺りの習慣のことは知らないが、人に名前を聞くときは自分から名乗るのが礼儀ではないか?」

「『うむ、確かにその通りだ。俺の弟子が失礼をした。俺の名はガザニアという』」

「Re:返答/アスタルト・リールと申します」

「・・・・・・サーシャ。サーシャ・クロイツェン。よろしく」

「私のことはゾンビって呼んでくれたらいいわよ」

「おっとごめんごめん、その辺の礼儀には疎くてね。私は一之瀬恵。えっと・・・異世界から来たって言って信じてくれるかな?」


異世界?!は?ちょまておまえ詳しく話を聞かせろごらぁ!!!!!


と叫びだしたくなる衝動を抑え、なんとか会話を成立させる。


「ああ、知っているよ。俺自身が異世界にいたこともあるしな」

「異世界にいた?ホントに?!」

「嘘はついていない」


身を乗り出すようにして聞いてくる恵。

異世界にいたっていうか異世界から来たんだが、まあ・・・嘘じゃないし・・・。それにしてもなんだこの食いつきようは?この恵とかいう子も俺と同じ境遇なのか?

と、その時機械の幼女・・・アスタルトが腰を抜かしたようにその場に崩れ落ちた。


「・・・・・・え、タルトちゃん?」

「Re:恐怖/・・・・・・・・・あなたは、まさか、真の魔王、ですか?」


魔王?いやそれはおかしい、ソレイン王国は俺が来る前から魔王軍のことを知っていたんだから。

時系列的に見て今出現したらしいこの体が魔王の体なわけがない。

俺の怪訝な顔をどう受け取ったのか、アスタルトは言葉を続ける。


「Re:恐怖/今や魔王は幾人か存在していますが、それらの魔王を大昔に支配し世界を掌握したものがいたそうです。そしてそれは人型で黒さの目立つものであったと」

「・・・魔王が、幾人も、だと?」


つい口に出してしまった。というかそれが正しいなら魔王軍なんてのは氷山の一角ということになる。

どこまで切羽詰まってんだよ王国は、と思った瞬間に嫌な予感がした。

・・・もし俺が逆の立場だったら魔王が複数いるということに不快感を感じているように見えるんじゃないかと。


「・・・・・・まずい、かもしれないね」

「あーあの・・・、それであなたの名はなんなのかな?」

「それは・・・知っているわ、私も。黄昏の魔王、って呼ばれてたみたいね」


ゾンビの言葉に、へーそうなんだー、と思いつつ名前を考えることにする。

黄昏・・・トワイライト?いや安直すぎるか。


「ああ。俺はその黄昏の魔王、名をマギアという。それで本筋なのだが、なんのために俺を呼び出した?まさかなんの用もなく呼び出したとは言うまい」


大昔に魔王を掌握するような化け物を呼び起こしたんだ、きっとなにか目的があるのだろうと思っての特に悪意もない言葉だった。

が、マキナは、というよりマギアは知らない。

まったくの偶然で魔法陣が完成してしまい、全員の想定外のことが起きたことなど。

そして今ここでそれを言えばマギアとの戦闘発生確率が大幅に上がると5人が5人とも思ってしまったなど。


「えー・・・っとね、それは、なんて言うか・・・。マギアのしたいことすればいいんじゃないかなって」

「は?なんだそれは。やりたいことといっても・・・いや、あるな。まずは魔王を名乗る奴らの粛清でもしようか」


黄昏の魔王、などというならそれなりに強いはずである。その力で魔王軍に圧力をかけることができれば侵攻を遅らせることができるだろう。もしかしたら魔王がマギアの仲間になる可能性まである。

この時のマキナはかなり適当でほとんど何も考えていない。それにしても不用意な言葉が多すぎ、後々で後悔する羽目になるのだが。

人間には及ぶべくもない魔王同士の戦いがどこまで余波を生み出すかわかったものではないのにもかかわらず、だ。


「・・・・・・・・・・・・・・あー・・・のね、マギア。ちょっと言いづらいんだけど、マギアを呼び出したのは半分以上事故なのよね。ちょっとこの世界を紹介したいし私たちと一緒についてきてくれないかな?」

「魔法事故とでもいうやつか?まあ何でもいいが、それならそれで都合がいい。それなら俺がどう行動しようと勝手なのだろう?少し試したいこともあるし5人で帰るといい」

「あーもう無理よコレは。自称勇者さんたちはあきらめて帰ればいいじゃない」


諦めたようにゾンビが話し始める。


「マギア。あんたを召喚したのは私よ。だから私に従ってちょうだい」

「・・・は?言っていることが矛盾しているな。事故ではなかったのか?」

「想定外ではあるけど、魔法を起動させたのは私の魔法陣で私の生命力よ。なら私が召喚したといっても間違ってないでしょ?」

「ふん、で、従えというのはなんだ?右足もない人間ごときが何を言っているのかわかっているの・・・か・・・。・・・・・・・・・?」


そんなことなど言うつもりはなかった。しかしさらさらと言葉として出たのだ。


(おい、まさか・・・。身体に感情や思考方向性が残ってるとでもいうのか・・・!?ふざけるな、それは平幅遠野って人間が死ぬのと同義じゃねぇか・・・っ!)


一体どこまでが平幅遠野の考えで

どこまでがマキナの考えで

どこまでがマギアの考えなのか。

恐ろしい考えに至った平幅遠野ではなくマキナでもないマギアのことなど関係なく、状況は進んだ。


「『ゾンビ。貴様何をする気だ・・・?』」

「なにって、交渉よ。マギアには元いた場所にお帰りしていただくことにするわ」

「Re:焦燥/無謀です。マギアさんの言葉を聞く限り従う気などありませんし、召喚魔法にも拘束力は見受けられません」

「・・・・・・戦うしか、ないかも。ここから去られて、町一つ消えた、なんて話になったら、冗談にもならない」

「マギア。お願い。私の話を聞いてくれないかな」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・なんだ?」

「私は仲間がけがをするところを見たくないから、戦いたくないの。でもね、マギアがもし人間や王国に攻撃を仕掛けるようなことがあったら、それは見過ごせない。だからせめて約束してほしいの。自衛のため以外の時は攻撃を加えないって」

「それは無理だ。そもそもどこまでが攻撃を加えたことになるかもわからないのだから」


実際に、少なくともサイバーテロもとい情報テロを起こしてマキナのほうで主導権を握らせてもらおうと思っているため王国に攻撃を仕掛ける気は満々だった。どう考えてもこの場で言う必要はなかったが。


「・・・・・・もうわかったよ。あなたは、王国の、いや、世界の敵になりうる・・・っ!!」


白い忍装束の少女、サーシャの言葉とともに、凶悪なスピードで彼女が突っ込んでくる。

のだが。


「なにか?」


マギアは一歩も動かず、脇差を構え突っ込んでくるサーシャをふわっと受け止めた。

・・・超速で動いていたはずのサーシャを。

それが意味するところはマギアも同じ速度で手を動かし、威力を相殺させたということ。


「・・・・・・あ、れ?」


サーシャにしてみれば突然自分の動きが止まったかのように感じただろう。


「遅すぎる。速攻で仕掛けるなら音速の壁程度超えてもらわなければ俺の相手は務まらないぞ」


そう嘯く。確かめたかったことは達成したしな、と思いながら。当然ながら、平幅遠野にサーシャの攻撃を受け止める技量など無い。これができたのはマギアの常軌を逸した動体視力と腕力によるものだ。

流石は魔王。身体能力は抜群らしい。


「・・・っ!サーシャちゃんを離しなさい!!」

「いや突っ込んできたのはこいつのほう、」

「Re:冷静/飛距離計測完了。射出します」


ドババババババババッッッ!!とクロスボウの矢のようなものがアスタルトの体から射出された。

・・・100本以上。

腕の中でもがくサーシャをためらいなくドラゴン・・・ガザニアに向かって放り投げ、マギアがとった行動はシンプルだった。


「Re:未知/事象測定不可能。・・・何ですかこれは?」


左手を真横に振る。たったそれだけで生み出された爆風は強烈な速度で打ち出されたはずの100本以上の鉄の矢を叩き落したのだった。

これに関してはマギアのほうが驚いていたが。


(こっ、ここまで差があるのかよ?!いくらなんでもオーバースペックすぎるだろ!)


「行くよ・・・っ!」


極光。まさしくそうとしか言えない光を纏う剣を掲げる恵に3人が飛びのく。

そして振り下ろした剣は爆発的な輝きを残しつつ、


「まじ、で・・・?」


マギアに白刃取りの要領で止められた。

しかしそこで終わらない。


剣に纏う閃光をそのまま、素手で 握 り つ ぶ し。


      

     神器などと呼ばれる武器を中ほどから砕いた。



パキィンっ・・・

という金属音は実際には、砕かれた剣の上部分が石の床に落ちた音だろう。

しかし、それは希望が砕かれた音にも聞こえた。


「うん?どうした?かかってこないのか?」


マギアの言葉に誰も答えるものはいない。


「・・・ああ。今のが俗に言う切り札というやつだったのかな?いやすまない。仮にも黄昏の魔王に挑むのだからもう少し手ごたえがあると思ったのだが。では、こちらの番だな」


まあ殺す気はないけどこうなった以上、マギア=危ない人という誤解を解くか、無理やり聞くかして情報をえないといけないだろう。特に異世界人だという恵から。


「手間をかけさせるんじゃないわよ。やっぱり勇者とか眉唾なんじゃないのかしらね?」


突然、4人が消失した。そうとしか言えない。

そこに残ったのはいつの間にか右足が戻っているゾンビという青髪の少女だけだった。

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