第一話・「新たな身体と新たな立場と。・・・せめてどっちかにしてほしかったなぁ」

さて。状況を、整理しよう。


(俺は日本人の高校生、平幅遠野(ひらのとおや)。ハーフでも何でもないし、拉致されるような価値もないし、メイドさんに仕えられるようなことも一度としてあるはずがない。

でも、ルーレが言うには・・・)


「もう一度聞いて悪いけど、俺は誰だって?」

「は、はい。ご主人さまはマキナ・ソレイン・アルティベート=リア様。ここ、ソレイン王国の第一王子であり、次期国王の皇太子さまです。・・・・・・ほんとに覚えてらっしゃらないんですか?」

「・・・そんな不思議なものを見る目でみられてもなぁ」

「あっごめんなさいごめんなさい!」


ペコペコと頭を下げるルーレをスルーし(気弱なメイドさんに慣れつつあったため)元・平幅遠野・・・・・・・マキナはさらに続ける。


「それでここはソレイン王国の、王城の、マキナの、自室なわけだな。

ちなみにルーレの他にはマキナに仕えてる人とかいるのか?

さっき、マキナ様に仕えるメイドの一人って言ってたし・・・。俺、名前覚えるの苦手なんだけどなぁ」


漫画や本だと『じぃ、食事の用意を頼む』『もうできております、お坊ちゃま』的なやり取りがあったりする。人生で一回はやってみたいなとか思い始めていた。

なんだかんだ言ってちょっと楽しくなっているマキナは変人と呼称される素質十分なのかもしれない。


「私を含めてメイドが3人に執事さんが1人ですね」

「ふーん、そんなもんか。まぁ多すぎても仕方ないしな。ルーレのほかに3人ならすぐ覚えられる・・・はずだ・・・」


微妙に自信がなさげなのはこの世界の名前についてよく知らないからである。

マキナ・ソレイン・なんとかかんとかー、みたいな名前だった場合4人はきつい。

というか自分の名前だけでもすぐには無理だ。


「えっと・・・私たちの名前なんて覚えなくてもいいですよ?むしろ王族の方に名前で呼ばれる使用人(メイド)って・・・その・・・愛妾かなにかだと思われるかもしれませんし」

「えぇ・・・」


使用人に冷たい世界だなと思ったりもするが王にもなれば何十人と付き人がいてもおかしくない。

仕方ないのかもなと思い直したところで、


「あっ、いや!違いますよ?!」


なぜか叫びだしたルーレに目を向ける。


「ご主人様が私を愛でてくださるのが嫌って訳じゃないんですよ?!ほんと、ほんとです!でも私みたいな低階級の女性を相手にしているとご主人様の品格まで下がってしまわれるかもなので、あの、その・・・えっとつまり・・・えっとえっと処女までは奪わないでください・・・っ!」


「いや俺何も言ってないから。」


涙目のルーレに対して自分でも驚くぐらい冷静に対処した。


だが、ルーレと少し話して感じたことがある。

この子は嘘をついて演技をしているようには見えないということだ。

もし俺がマキナとして目覚めたとき、ルーレではない別の人間・・・それも頭が回り野心をもつものと会っていた場合、そいつの都合のいいように動かされていたかもしれない。

それには感謝するとしてちょっとした疑問もわいてくる。


マキナは皇太子であり、次期国王として政治の場に出ることも多いはずだ。

必然、ルーレが公の場に付き添いとして来ることもあるはず。

となると、そういった交渉などの時完全に使えない子になってしまうだろう。

というかどう考えてもなる。


(周辺諸国や部下、国民とかと騙し合うほど殺伐とした世界じゃねーのかもな・・・。だとしたら異世界人としては見習いたいところだけど。)


「ごめんなさい・・・。やっぱり怒ってますよね。私昔から予想外のことが起きると思ってることを全部口に出しちゃって、よく怒られるんです。どうすれば自分を変えられるんでしょうか・・・」


少し笑ってしまった。元の世界であろうと異世界であろうと悩んでいることはほとんど変わらないということに。


「ああ、ごめんごめん。馬鹿にして笑った訳じゃないんだ。っていうか変える必要なんてないんじゃねぇかな。適材適所っていうだろ、少なくとも俺はこの世界にきて初めて会ったのが、そういう素直な性格 のルーレでよかったよ」

「そっ・・・そう、ですか。・・・・・・本当に昔のご主人さまとは別人みたいですね」

「まぁ、ほんとに別人だしな。つか昔のマキナってどんな奴だったんだ?」

「あんまり・・・良く分かりません。そもそも話しかけていただけること自体が稀だったので・・・」

「だから‘おはようメイドさん’って言ったとき嬉しそうにしてたのな・・・。

うーん、マキナになりきるならそれに準拠した方がいいのかねぇ」


そう、俺はマキナの中身が異世界人とすり替わっていることをルーレ以外に明かす気はなかった。

その最大の理由はマキナが皇太子であることだ。

ごく一般的に考えてみよう。

例えば日本の政治を司る総理大臣がある朝のニュースで、

『あっれー???ココハドコ?ワタシハダレ??わっちはもしかしたら異世界からきちったのかなーーー???なはははっはははあ!』

とか言い出したらどうなるか。

崩壊である。

下手をすれば国が揺らぐうえ、どうあがいても精神病院送りは避けられないだろう。

・・・いやまあどんな立場の人間であろうと病院は確実だが。

それに加えて、

(マキナ本人の精神がどこに行ってるのかわからない以上、生きてるとも死んでるとも言えないしな)


「・・・そうなると誰ともほとんどしゃべれなくなりますけど、ご主人様大丈夫なんですか?」

「 う ん 、無 理 。

しかもそうなるとこの世界の情報を手に入れられなくなる。それはホントに困るからな・・・。まぁ大きな問題にはならないだろ、普段無口だったやつがある日ちょっとしゃべってたからって

まさか中身がすり替わってるとは思わないだろうし・・・ルーレか俺が言いさえしなければな」


念のため釘をさしておく。この子の場合、無意識に言ってしまいそうだけど。


「はい・・・っ!神に誓って誰にも言いません・・・!!」


ぶっちゃけルーレが口を滑らせたところで本人(マキナ)が完全否定すれば何とかなりそうな気もするが、言わないに越したことはないしなーと思っていると。


コンコン、と遠くのほうで扉をノックする音が聞こえた。(部屋が無駄に広いためベットの近くにいるマキナから扉までが遠い。)

そしてすぐに外から声が入ってくる。


「失礼いたします、ご主人様。第三王女様がお見えになりました」


ほう、とマキナは笑う。


「早速‘実戦’って訳かよ。ルーレ、第三王女ってのは姉か?妹か?それと名前は?」

「えっと、妹様ですね。名前はシャルロット・ソレイン・セテプション・オーラ・アルティベート=リア様です」

「なっげぇなオイ!?」


半分漫才のようなやり取りをしていたところで、


「お兄様っ!!」


と、ピンク色の何かが部屋に突入してきた。

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