第二話・「生まれて初めての妹がこれですか?」

乱入者は二人いた。

一人は少し、いやかなり背の低い女の子で、紫のリボンでしばったピンク色のツインテールを腰のあたりまで伸ばしている。年は・・・12才くらいだろうか?年相応の童顔に怒りの色が浮かんでいなければ安心できたのだが・・・。どうやら昔のマキナが何かやらかしたようである。むしろそう思いたい。

二人目はルーレと同じメイド服を着た女性だった。メガネをかけた黒髪ポニーテールの彼女はとてもまじめそうでメイドというよりはもはや秘書だろう。

そんな秘書メイド?のほうが口を開いた。


「シャルロット様、毎度毎度申し上げておりますが兄であるマキナ様のお部屋とは言え押し入るのは・・・」

「わ、分かってるわよユリ・・・。でも今回は急ぎなのきんきゅーなの!」


ビシィ!とマキナを指さし、大声で叫ぶ。


「昨日の≪国軍会議≫!絶対に出席しないといけないって、あれっほど言いましたわよね!?忘れてたとは言わせませんわよ。魔王軍が迫りくる中、一体お兄様は何をなされていたんですの!!」


世の中には不条理や理不尽がいくらでも転がっているし、マキナも元の世界ではそういったものにあってきた。しかし。しかしだ。


(・・・・・・異世界に今やってきた人に対してなんって手荒い歓迎なんだよ・・・)

と思い、げんなりとしながらため息をつくがいつまでもそうしてはいられない。

今のマキナの精神が別人なんてことがバレれば本当に命にかかわりかねない。

この場でルーレに「会議?魔王軍??なんの話!?」などと聞けば、目の前の妹(仮)は今よりさらにキレるだろう。なぜ昔のマキナが会議をすっぽかしやがったのかは知らないが。

つまり、今ある情報のみで彼女をなだめすかさないといけない訳だ。


(でっ、出来るのか俺に・・・!?一人っ子で彼女もできたことがない人にはハードル高くねぇか!

あーくそ、会話を続けながら妥協点を探るしかないか・・・)


ごほんと咳払いをし、彼が思う『皇太子として威厳のある声』を意識しながら話し始める。


「何をしていた、か。そうだなシャルには言っておいてもいい頃かもしれない」

「・・・・・・ふぇ?」


今まで怒っていたのが嘘のようにきょとんとした様子を見せるシャルロット。

うわー信じちゃうんだー、と心の中で半泣きになりながら出口を必死に探る。


「会議では様々な話題が(出たかどうか知らないけど)出ただろう?その中でも魔王軍のことが最優先、それは間違いない。しかしだ、国を動かすものが皆集まってそこで出た情報だけを鵜呑みにしてしまうのはまずいと思わないだろうか?物事を見るときは一方面からだけでなく全方位から見なければ大穴に嵌ってしまうこともあるからな」

「う、うん・・・そうかも・・・」


なぜか口調も語調もおとなしくなったシャルロットにここが攻め時だとたたみかける。


「会議に出ている身分の高いものたちの話はシャルに聞いてもらい、俺・・・いや私は直接魔王軍と対峙することになる兵たちや(いるかどうかしらないけど)騎士長などの話を聞いておく。そうすれば万に一つの情報の食い違いは起きないだろう?

つまり・・・そういうことだ」

「わかった・・・」


わかっちゃったのかよ!なんか、なんとかなったし!と、マキナは心の中で自分の隠された才能に驚愕を押さえつけながら、ユリと呼ばれていた秘書メイド?に話しかける。


「ユリ、今日の予定を確認したい」

「は、はい。王子王女の皆様方のみで行われるお茶会がお昼に。ご夕食のほうはセテプション王妃からのお誘いが来ております。いかがいたしますか?」


(いかがいたしますかって、行かないってのもアリなのか?それ予定って言わねえだろ・・・。王族ってすごいんだな)

そんな感じで羨みつつも考える。


『王子王女のお茶会』

つまりはシャルロットみたいなのがいっぱいいるのか?また綱渡りみたいな会話をしろと?


          超行きたくない


『セテプション王妃からの夕食の誘い』

王妃が意味するところはマキナの母親。

妹(シャルロット)以上にマキナのことを知り尽くしているであろう人物の前で息子を演じろと?


           超行きたくない


「う・・・・・・うん。そうだな私は次期国王として魔王の侵攻を止めることを最優先にして動かなくてはならない。悪いが兄弟姉妹(きょうだい)たちにはそう伝えてくれ。夕食は・・・行こう」


流石に言い訳が思いつかなかった。

だが王妃からの‘お誘い’ということは毎日一緒に夕食を食べているわけではないということ・・・かもしれないので、まだ可能性はある。

嫌なことを後回しにしたという側面もあるが。


「はっはい承知いたしました」


微妙にギクシャクしながら頭を下げるユリを一瞥し、

「ルーレ、行くぞ」

「はい!」


ようやく自分の部屋から退出・・・否、逃げ出すことに成功した。


「ふぅー・・・・・・。妹一人来ただけで何だこの疲労感は・・・。とりあえずルーレ、着替えがある場所に連れていってくれない?」

「あっ、こちらですね」


しかし、シャルロットの襲来など始まりに過ぎない。あれだけ魔王軍に対しての策を練っているように言っておいて「何も知りません♪」では済まされるわけがない。

つまり今から、この何一つ知らない世界で魔王の情報を集め、兵力を探り、自軍の兵力を数えながら、周辺にあるであろう国々に協力を仰ぎつつ、必勝の策をもって迎え撃たなくてはいけない訳だ。


(どーしろっていうんだよ、まったく・・・)

一向に見えないゴールに内心でため息をつくマキナだった。


・・・・・・だからルーレの様子の変化に気づかなかったのだが。

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