第6話 立ち向かう相手
『よろしくな、雫』だなんていいながら何をどうするかも分からないまま彼女を助けると宣言した俺だったが、学園全体に催眠術をかけるような政治組織に対して何ができるのだろうか。
「お待たせしました~。いちごスペシャルパフェになります♪」
平日の午後。
生徒会長の催眠術によって合法的にサボって喫茶店にきている俺と星影雫。
何故心の中でフルネームで呼んでいるのかって?
照れくさいだろ?
「何よ、鳩が鉄鉄砲でも喰らったような顔して。心配しなくてもここのお会計は私がだす──というか、私が利用する場合は無料だから気にしなくていいわよ」
言葉を重ねていく毎に天使だった星影生徒会長のイメージがどんどん崩れていく。
私が利用する場合は無料って──マジか、一番高いステーキ定食でも頼もう。
「すいませーん!国産黒毛和牛のサーロインステーキ定食ひとつ!!」
「……貴方、図太いわね」
その後、高級ステーキ定食をおいしくごちそうになった後、コーヒーを楽しみながら本題へ入る。
「率直に聞く。革命党は催眠を使って何をするつもりだ?星影学園の生徒は実験台にされてるのか?」
強力な催眠ではないものの、集団に催眠術をかけるというのはかなりヤバい感じがする。
俺たちはモルモットじゃないんだ。
「……市民の支持を募るためと聞いてるわ。選挙で票がとれるように、ね」
なるほど。
政治党が集団催眠なんてものをしている理由をよくよく考えればそういうことか。
「俺からすればアンタは集団催眠の“協力者”だ。何らかの理由で政治党に協力しなければならない理由があって協力していたが良心の呵責を感じている、もしくは協力する理由がなくなったか。
あとは、実は大黒幕がアンタで俺を利用して更に大掛かりなことをしようとするパターンが考えられるがどっちだ?」
俺はそういうと彼女の表情、筋肉の動きを確認する。
彼女のいう事を手放しにすべて信じるというのは現段階ではできない。
ウソをつく人間の表情かどうか、確認する。
「……情けない話だけれど。この学園のスポンサーに逆らえないってところね。貴方も知っているように私は生徒たちをだまして行き過ぎた待遇で学園生活を送っている。そしてもっと酷い催眠にかけられるかもしれないという不安もある。かといって策もなしに動けば星影学園全員の生徒がある意味人質となっている今、それは愚策でしかない……」
何かに追い詰められたような、そんな表情を浮かべながら言う彼女を見た俺は確信した。
こいつは、嘘はついていない。
「なるほど。対抗できるような決定的な切り札を調べて入手しろってことか」
秘密のページの情報はすべて保存してある。
あとはその情報をまとめ、その中から更なる情報を探し出し、最終的な組織の目的を探り出し、それを交渉材料にするということか。
「私は表立って動くことはできない。だけど彼らにマークされていない貴方なら。その情報収集力を持ってすれば何かつかむことが出来るかもしれない。立ち向かう相手は政治組織。そして学園を維持するために必要なスポンサー。問題提起だけして大した協力はできないのだけれど、それでも貴方にお願いしたい」
賽は投げられた。
逃げることも、留まることもできない。
俺の超圧縮システム、Halt Systemを利用されるのはまだいい。
“おまじない”の事だけは絶対に知られるわけにはいかない。
「分かった。集めた情報が多すぎて骨が折れそうだが色々と調べてみる。何かわかったらまた連絡する」
そういって立ち去ろうとする俺の手を彼女がつかむ。
「連絡するって、連絡先も交換していないのにどうやって連絡するの?」
そういうと彼女はスマートフォンを取り出し、左右にふる動きを見せた。
AINE(アイン)を交換しようということだろう。
「いいけど、俺と連絡先を交換していることは誰にもバレないように頼む」
そう言って少し恥ずかしさを感じながらもスマートフォンを左右に振り、無事に連絡先交換を完了する。
ピコっという音とともに俺のスマートフォンが振動し、AINEの通知を知らせる。
開いてみると、みたらし団子が眉間にしわを寄せて腕組みをし「よろしく頼む」と言っているスタンプが送られてきた。
……どういう世界観だよこいつは……。
「みたらし団子のみたら君。かわいいでしょ?」
「“見たら死”にならないように祈っておくよ」
本当に洒落にならない捨て台詞を吐きながら喫茶店を後にする。
さて、次にコンタクトをとるのはあいつだな。
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