第4話 偽りの理想

「……殺気を感じて貴方をみても殺気を感じない笑顔だと僕が思ったのは

 集団的催眠術に僕がかかり“生徒会長は理想の女性。そんなことをするわけがない”と思ったからというわけですか」


それを聞いた生徒会長──星影 雫はどこか満足したような表情を浮かべる。

しかしそれは“天使の微笑み”ではなく“悪魔の微笑み”であった。


「今の貴方なら今までの常識がおかしかった事にお気づきでしょう?

 どこの学校に“生徒会長室せいとかいちょうしつ”なんていう特定個人の為の施設があるというのでしょうね?」


なるほど。

生徒会長室なんていう生徒の権利の範囲を大幅に超えた我儘を通したり。

部活動で使用するにはおかしな秘匿回線が存在していたり。

全ては彼女が集団的な催眠術により構築したものということか。


「……ごめんなさい、幻滅でしょ?」


催眠が解けたからなのか、彼女の素なのか、今までの口調とは異なり年相応の女の子らしい口調となった。

警戒を解けという彼女の意図を感じるが、物騒な物を所持し、それを向けてくるような女に心を開くほど洗脳はされていない。


「拳銃を向けてくるような女には心を許せない、といった感じね?」

「……そりゃあな」


彼女への憧れ催眠術が解けた今、警戒は解けないものの口調は普段の俺のものとなっていた。


「本物のわけないでしょ。熊田君に秋葉原で買ってきてもらったのよ」


そういうと彼女は彼女曰くエアガンだという拳銃を俺に向けて差し出してくる。

受け取って弾倉を確認すると、確かにBB弾が入っており、エアガンというのは間違いないようだった。


「……どうして俺にコンタクトしてきた?何故、催眠術について俺に話した?」


生徒会長に憧れを抱く催眠状態の俺の方が彼女にとって都合がいいはずだ。

わざわざ催眠術に気づくようなヒントを俺に与えるメリットはなんだ。


「……まず一つ。貴方に対する催眠の効きがほかの人に比べて薄いということ。

 そして熊田君の秘匿回線から大量のトラフィックを感知したこと。

 その回線を使用しているのが貴方だということ。

 貴方がその回線で集団催眠についての資料を保存したこと……ぐらいかしら?」


ほとんど最近の俺の行動全てがトリガーになってるじゃないか。


「俺にコンタクトしてきた理由は分かった。

 だが、もう一つ。

 何故俺に催眠術について話した。

 その黒幕のアンタが俺にそんなことをする理由はなんだ」


俺がそういうと彼女はあきれたようにため息をついた。


「貴方、途端に口が悪くなったわね……」


そりゃ、貴方様も素性を表しましたからね。ええ。

そして、彼女は神妙な表情を浮かべ驚きの言葉を発した。


「──私を、助けて」




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